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    まりも

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    恭ピエ

    ##恭ピエ

     ボクが恭二に話しかける度に、触れてる互いの腕から振動が伝わる。恭二は上の空で、それでも焦ったような顔をして、宙を睨んでいた。ボクは知ってる。ボクの右手のすぐそばにある恭二の左手が握ったり開いたりしていることを。

     ボクたちが付き合い始めて1週間。ボクが以前のように恭二に抱きつくと、恭二は固まって顔を真っ赤にしていた。もちろん、付き合う前はそんなことなかった。出会ったばかりの頃はスキンシップにびっくりしていた恭二も、最近では慣れてきたのだ。
     それが付き合い始めて、元通りになってしまった。いや、元通りよりもっとひどいかも。ボクを意識するあまり過剰に反応してしまう恭二に、最初は確かにボクのことを恋愛対象として見てくれているんだ、と嬉しかった。でもそれも、最初の一回二回だけだった。恭二にもみのりにも、慣れるまではスキンシップは控えめに、と言われてしまって、ボクは正直恭二不足だった。だから、頬を赤く染めた恭二がしどろもどろになりながらも、一緒に映画を観ようと誘ってくれて、チャンスだと思った。恭二の家で二人っきりなら、誰の目も気にすることなく恭二に触れられる。そして、恭二にも慣れてもらうんだ。気合い十分なボクを、みのりが心配そうに見ていたことには、気がつかなかった。
     そうして二人座って映画を観始めて数十分。映画中は、恭二に触れる機会が全くないことに気がついた。別に、観るのを邪魔したいわけじゃないから、大人しく映画に集中する。恋愛映画ではなかったけど、少しその要素はあった。手を繋ぐ主人公とヒロインに、いいなあ、なんて思ってしまう。恭二をちらり、と見れば、目が合ってしまって、恭二が勢いよく顔を逸らした。恭二もボクを見てたんだ!という嬉しい気持ちと、顔を逸らされて寂しい気持ちとが入り混じる。早く、普通の恋人同士になりたいな。そうしたら、手を繋いだり、キスしたり、……きっとそれ以上のこともするのだ。そんなことを考えていたら、頬に熱が集まってきた。きっと、ボクも恭二も、映画の内容なんてほとんど頭に入ってなかった。そんな調子で映画は終わってしまった。
     そして今に至る。ボクが一方的に最近あったことを話しているばかりで、恭二は生返事だ。その腕と手だけが動いたり、震えたりしていた。段々、ボクもそれに耐えられなくなってきた。そこで、今日の目的を思い出す。そうだ、恭二に、スキンシップに慣れてもらうんだった。でもどんな流れで……?生憎、恋愛経験のないボクには、その引き出しがなかった。そんなことを考えていたから、自然と二人の間の会話が切れてしまう。沈黙が落ちる。
     ……なんだか、ボクの一人相撲な気がしてきた。挫けそうになるが、慌てて首を振る。諦めの悪さには自信がある。勇気を出さなきゃ。
    「恭二!」
    「な、なんだ?」
    大きな声で呼べば、恭二は飛び上がって答えた。そのまま、ぎゅうと恭二の腕に抱きつく。頭も恭二の肩にすり寄せる。
    「ピ、ピエール!?」
    動揺する恭二の声にも顔は上げなかった。いや、上げられなかった。どんな顔をしているのか、恭二の顔を見るのが怖かった。そのまましばらく、ボクたちは二人とも黙ったままだった。先に沈黙に耐えられなくなったのは恭二だった。
    「ピエール……悪かった」
    ボク、怒ってないよ、と恭二に答えようとして、ふっと思いつく。
    「ボク、すーっごく、怒ってる!」
    「え、わ、悪い」
    恭二がとても焦っているのが声だけでわかった。そのことに、少し罪悪感が湧いたけれども、それを無視する。
    「だから、ボクのお願い、一つ聞いて!」
    そう言って、顔を上げて恭二のオッドアイを見つめた。恭二はボクの勢いに押されて頷いた。
     とは言っても、よく作戦を練っていたわけじゃない。行き当たりばったりでこんな展開になってしまった。恭二になんてお願いするか、少し悩む。そうして────。
     
    ボクは恭二の足の間に座っていた。恭二の腕は、背中からボクを抱きしめている。その顔が真っ赤なのは、見えなくてもわかっていた。
    恭二の右手を両手で触る。握ったり、撫でたり。その度に背中から恭二がビクリと震えるのを感じたけれど、何も言われなかったから、ボクも何も言わなかった。そのまま、恭二の手を口元に持っていって、優しく口付ける。
    「……ピエール」
    振り返って見上げた顔は、予想通り真っ赤だった。やりすぎたかな。ボクは、恭二にしたお願いを思い出す。
    「今日一日、ボク、恭二と、スキンシップする!」
    「えっ!」
    恭二の声にも、怯むな、と自分に言い聞かせて言葉を続ける。
    「……でも、恭二、いやだったら、止めて」
    少し高いところにある顔をじっと見つめると、恭二が諦めるのは早かった。
     手に口付けたボクに、それでも恭二は名前を呼ぶだけで、止めなかった。それを、続けてもいい、と捉える。今度は向き合ってそっと恭二を抱きしめる。その体は固まっていて、腕を背中に回してくれない。付き合う前は、軽くだけどしてくれたのに。いや、今日慣れてもらって、また元通り、やってもらうんだ!落ち込みそうな気持ちを、そうやって自分で励ます。ボクはうんうん考え込んでいたから、恭二の腕がボクの背中の後ろでウロウロしているのに気がつかなかった。
     そうして、少し時間が経ったけど、恭二の体は固まったままで。慣れてくれる雰囲気も全然ない。……これは、荒療治が必要かも。そんな風に暴走していたボクを止めてくれたかもしれないみのりは、ここにはいなかった。
     顔を上げて恭二の顔をじっと見つめる。恭二は、視線を宙に彷徨わせてボクを見てくれない。
    「恭二……」
    優しくその体を押し倒す。
    「ピエール!」
    慌てた声の恭二に呼ばれ、止まる。恭二が「いやだ」って言ったら止める、と頭で繰り返しながら、じっと恋人の顔を見下ろす。恭二は、ためらって、それでもその続きは口にしなかった。どうしよう。その先のことを考えてなかったボクは、悩む。こんな流れでファーストキスをするのはいやだった。きっと、恭二は止めない。というのも、多分、ボクに少しの申し訳なさを感じているのが、伝わってきたからだ。多少のことは気が済むまで好きにさせよう、そう思っているのだろう。……本当に、ボクの一人相撲だ。泣きたい気持ちを堪えて、恭二の顔に、自分の顔を近づける。そうして、口付けた。唇ではなく、頬に。恭二の頬はこれ以上赤くなるんだろうか、というくらいだったけど、顔はさっきまでとは全然違った。
    「……ピエール、悪かった」
    眉を寄せて、それでもボクを安心させるように微笑む恭二。きっと、ボクは情けない顔をしてる。恭二に抱き寄せられ、ぽんぽん、と頭を撫でられる。それが余計に泣きたい気持ちにさせられた。
     体を密着させて、どのくらいが経っただろう。落ち着いたボクは、そろりと体を起こす。恭二は気づかわしげにボクを見上げた。
    「……ごめんね、恭二。もう、おしまい」
    いっそ、別れた方が元の二人に戻れるのかも、そんな考えさえ頭を過ぎる。だから、恭二が起き上がった後も、顔を見られなかった。
    「……ピエール」
    恭二の低めの声が、優しくボクを呼ぶ。怒ったり、呆れられたり、してなさそうだ。恐る恐る顔を上げると、恭二の大きい手がボクの頬にする、と触れる。ボクは困惑して、恭二をただ見つめるしかできない。
    「ピエール、いやだったら止めてくれ」
    恭二が意を決したように、言う。さっきのボクと同じ言葉を。そして、その整った顔が段々近づいてきて、ボクは期待を抱いたまま、目をつぶった。
     目を開くと、照れた恭二の顔が目の前にあった。沈黙が落ちるのを避けるように、恭二は慌てて話し出す。
    「その、おまえのことを変に意識して、ぎこちない態度になったけど、……それだけじゃなくて、おまえに、手を出してしまうかもしれない自分が……怖かったんだ。……傷つけてしまうかも、と思って」
    その言葉に、段々と心が温かくなっていくのを感じる。
    「ボク、心配、してないよ。恭二、優しい。ボクのいやなこと、絶対しない、思う」
    辿々しい言葉でうまく伝わるだろうか。伝わればいい、ボクがどれだけ恭二を好きか。目の前の恭二にギュッと抱きつく。
    「恭二……だいすき」
    恭二の手が、ぽんぽん、とボクの背中を撫でる。
    「ピエール……俺も、おまえのことが好きだ。……不安にさせて悪かった」
    もう一度恭二と向き合う。恭二の頬はやっぱり赤かったけど、でも、オッドアイの目はしっかりボクを見つめ返してくれる。その頬に、愛しさを込めて、もう一度口付けた。
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