新たな目的 出会ったばかりの頃の恭二は、傷ついたような瞳をしてた。それはきっと、ボクも同じだっただろうし、みのりだって上手く隠してはいたけど同じだと思う。だから、互いにその傷には触れないことは、暗黙の了解みたいなものだった。
それが変わってきたのは、いつだったのか、はっきりとはわからない。恭二は段々と自信を取り戻していったし、それに比例して、アイドルへの熱意も強まったようだった。ボクたちの、頼もしいリーダー。そんな様子に、みのりと顔を見合わせて笑い合ったのも一度や二度じゃなかった。
あるライブの後、プロデューサーさんと恭二の話している声が聞こえた。
「プロデューサー、見ててくれたか?これが『鷹城恭二』の実力だ!」
その言葉にガン!と頭を殴られた気分だった。そもそも二人の会話で、ボクが聞いちゃダメな内容だった。そっとその場を後にする。
「おっと、ピエール。どうしたの、ライブは成功したのに、そんな顔して」
ゆっくり歩いていたはずなのに、段々早足になっていたみたいで、みのりにぶつかってしまった。そして、そんなことを言われてしまったということは、きっと、ひどい顔をしている。でも、自分がなんでこんなにつらいのか、わからなくて、混乱して、誰かに判断してほしい気持ちがあった。
さっき見たことと、それを見て苦しくなったことをみのりに伝えれば、みのりは視線を宙に泳がせる。きっと、みのりは答えを見つけたんだ。ただ、それをボクに伝えるか、悩んでいる。
「みのり……」
すがるように袖を握れば、みのりはもっと複雑な顔をした。ボクはみのりがボクに多少甘いのを自覚して、そんなことをしてしまった。どうしてそんなに必死になってしまうのか、自分がわからなかった。
「……ピエールは、恭二も、プロデューサーさんも、大好きなんだね」
「うん、みのりも、大好き!」
「ありがとう。……でも、好きにも色々種類がある、ってピエールはきっとわかっているよね」
そこまで聞いて、みのりの言いたいことがわかってしまった。ボクが、恋している、恭二かプロデューサーさんに。でもそんなの、自分の心に聞けば、恭二が好きなのは明確だった。だから、恭二が自分の力を、できることを、一番に見せたい相手がプロデューサーさんでショックを受けた。あんなに、自分にアイドルができるだろうかと、不安を抱えていた恭二が。恭二はきっと隠していたつもりで、ボクもみのりも気づいていないと思っている。でも、ボクたちはもちろん知っていたし、そのことを気取らせないようにしながら、フォローもしていた。
恭二の傷ついた鋭い瞳は、最近ずっと柔らかくなった。それが、プロデューサーさんのおかげだと思うと、胸がギュッと痛む。でも、恭二がそうやって癒されているなら、嬉しく思う気持ちもあって。
「みのり……ボク、どうしたらいいのかな?」
「……それは、ピエールがどうしたいかによるよ」
「ボクは……恭二のこと、支えたい」
みのりが目を見張る。きっと、ボクの答えはみのりが予想していたものと違った。
「それで、いいの?俺はピエールの決断を応援したい気持ちだけど」
「うん。恭二、前よりもっと、笑うようになった!ボクたちの前でも、ファンのみんなの前でも!恭二と、みのりと、もっと一緒に、アイドル、がんばりたい!」
「ピエール……うん、がんばろう!」
ボクは、恭二をアイドルに誘ったんだ。世界中の笑顔のため。そこで恭二がアイドルの頂点を取る、という夢を持てたのなら、こんなに嬉しいことはない。同じユニットメンバーとしてできるのは、一つ一つの仕事を協力して一生懸命がんばっていくことだ。きっとプロデューサーさんも支えてくれる。ボクのアイドルをやる目的が一つ増えただけだ。恭二が『鷹城恭二』としていられるように、と。