最高気温は三十八度、危険な暑さとなるので熱中症に注意……。さらりと読み上げる天気予報士の声からは白々しささえ感じる。
そこらじゅうで陽炎が揺らめき、このまま街ごと溶けてなくなってしまうのではないかと思わせた。
「うぁー! あづい! あっづいな!」
「ちょっと、あんま騒がんといてくれます? 余計暑苦しいんすけど」
ある日の帰り道、隣で呻く謙也は言葉とは裏腹に元気そうに見えた。少し日焼けした肌がしっとり汗ばんでいて健康的だ。
「そう言う財前はえらい涼しそうな顔しとるやんか」
「俺やって暑いもんは暑いっすけど、言うてもしゃーないやないですか」
「すごいなお前……普通耐えられへんて」
「そない暑いんなら触ってみます?俺の体」
「なんて?」
「俺、平熱三十五度しかないんで。多少ひんやりするんとちゃいます、ほら」
手の甲を頬にぺち、と当てられて謙也は大袈裟に飛び退いた。その顔は冷えたどころか真っ赤に茹で上がっているようである。うぶな反応が可笑しくて光は口の端を上げた。
「いや、確かにひやっとはするけどな? せやけどあかん、これは」
「何があかんのですか」
「あーもう!」
吹っ切れたように言うと、少しだけ強引に光の手を取り握った。謙也の手は大きくて、ごつごつしていて、熱い。
「俺がどんだけ光のこと触りたい思ってるか知らんやろ」
耳元で囁かれ、体の底が重く疼いた。吐く息に色が付く。
「謙也さんって爽やかそうに見えて結構エロいこと考えてますよね」
「エロいのは光もやで」
心の奥で燻らせている欲望が、真夏の太陽のようにじりじりとその身を焦がす。目が合った瞬間謙也の両目がぎらりと輝いた気がした。
「どないしよかなぁ。暑すぎやし、ウチ寄って涼んでく?」
「謙也さん、今何考えてます?」
「さぁ、何やろな? もう何も考えられへん、熱中症なる前に早よ行こ」
はじめて、光の頬を汗が一筋伝った。謙也の言う通り、このままでは二人とも倒れてしまう。そういうことにして帰ろう。繋いだ手に力を込めて灼熱の中を歩き出す。そのうち二人の姿も陽炎に紛れて見えなくなった。