Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    小狐リラン

    @Kasutera4126

    ハーメルンに掲載していたものや、color名義でpixivに投稿してる自小説の獣八禁や、
    単発の獣八禁置き場。


    次回投稿予定

    わかんない

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 7

    小狐リラン

    ☆quiet follow

    ゴミ捨て場にあった綺麗な銅像のようなもの。
    凄い精巧な作りだなぁなんて思っていたら……。

    鋼の身体のドラゴンさん 今日の晩飯の唐揚げと、明日の食べるパンをコンビニで買った帰り。それは、いつもゴミを棄てるゴミ置き場にあった。気になった私は、それの近くに寄ってみる。大型犬程の大きさの銅像のようなそれは、空想上にいそうなドラゴンが犬のようにお座りしている様を模しているかのようだった。鱗の一つ一つまでしっかりと造られており、今にも動き出しそうなほど、随分と精巧な造りをしている。そういうものに疎い私でも、パッと見ただけで凄いものだろうと認識できる。こんなものを棄てるだなんて、もったいない。
     それにしても、これはいったい何が素材として使われているのだろうかと思った私は、触れても分かるわけないのに、その銅像のようなものに触れる。鉄のようなものを触った、あのひんやりとした感覚。しかし、その中にもどこか不思議と生き物の温かみを感じる。
     そう思った時だった。

    「……グゥ?」

     思わず私は手を引っ込めた。先程まで銅像か何かだと思っていたものが、突如として動き出したのだから驚くことも無理はなかった。こんななりをしておきながら、生き物だなんて思う方が難しい。
     ガラス玉のような綺麗な青い眼を、その生き物は真っ直ぐに向けてくる。私には、とても綺麗な顔立ちをしているように思えた。俗に言うイケメン。いや、この生き物がメンズかどうかはまったく分からないが。しかし、だからだろうか。驚きはしたものの、不思議と恐怖は湧いてこなかった。
     ドラゴン、と呼称すべきなのかどうかも分からない生き物はのっそりと立ち上がると、ジッとあるところを見つめた。何を見ているのかと思えば、私の明日のパンやらが入ったコンビニ袋だった。お腹でも空いているだろうか。

    「……食べる?」

     食パンくらいなら大丈夫だろうかと思い、私は六枚切りの食パンの袋を取り出して袋を破り、中のパンをちぎって掌に置いてみる。すると、ドラゴンは怪訝そうな顔をしながら食パンの匂いを嗅ぐ。匂いで大丈夫だと判断したのか、鉄っぽい身体から生き物らしい健康そうな赤い舌を出し、ペロッと私の掌を舐めながら食パンを口に運んだ。掌を舐められた生暖かい感触から、このドラゴンはやはり生き物なんだなと再確認する。口で数回咀嚼してパンを飲み込んだドラゴンは、食パンの入った袋をジッと見つめ、そのあと何か言いたげに私のことも見つめる。その期待に応えるようにまた食パンをちぎって掌に置くと、今度はすぐに口に運び、無言で咀嚼していた。
     食べ終わると、ドラゴンは身体を1歩引いて深くお辞儀をするように頭を下げた。感謝の意のつもりなのだろうか。だとすると、随分礼儀正しいドラゴンである。そこらの人間よりジェントルマンだ。

    「……それじゃあね」

     もうこれ以上このドラゴンに何かをするわけでもないため、私はドラゴンの鉄のように冷たいながらも、生き物らしくほんのりと温かい頭を撫でる。目を伏せて、私の手を堪能するように目を細めてされるがままなドラゴンは、少しばかり可愛らしかった。撫でるのを止めて、そんなドラゴンを横目に、私は帰路へと歩き始める。
     あんな不思議な生き物がこの世にいるんだななんて思いつつ、私の思考は今日の夕飯へとシフトしていく。今日は唐揚げを買っていることだし、あとはご飯と味噌汁のいつものやつで良いかなんて考えていると、何やら後ろから鎧が動いて擦れているような、カチャカチャという音が聞こえてきた。なんだと思って後ろを見てみると、さきほどのドラゴンがゆったりと私の後ろにくっついているではないか。私が止まってしまうと、ドラゴンは「歩かないのか?」と言いたげに私を見て首を傾げる。帰る方向が一緒だとは驚いたが、どこかで離れるだろうと気にせずに家に向かう。途中で私が何気なしに止まると、ドラゴンも律儀に止まる。「先に帰ってもいいんだよ」と言ってみても、声の意味が分かってないのか、不思議そうに私を見つめるばかり。そして私が歩き始めれば、同じ距離を維持して後ろで歩いてきていた。ずっとついてくるが、このドラゴンは何を思っているのだろう。もしかすると、このドラゴンはパンをあげたお礼にこの暗い道でボディーガードでもしてくれるのだろうか。それとも、ただの気分的な問題なのか。スマホをいじりながら、なんてことを思っていれば、私の家にはそう時間もかからずに着いてしまう。その間、結局ドラゴンはずっとついてきてしまっていた。私はしゃがみ、ドラゴンと目線を合わせる。

    「……ここ、私の家なんだ。目的地に着いたから、もうお別れ。ね? さ、気をつけて自分の家にお帰り」

     先程やったはずなのだが、今度こそさようならの意味を込めて頭を撫でてやると、ドラゴンはその手を素直に受け止めて小さく尻尾を揺らす。顔の表情はあまり変えないため、喜んでるのかどうかは判別不明だ。そんな姿をずっと見ていたいだなんて思っても、現実的にいつまでも撫でているわけにもいかないので、私は手を離す。そして手がドラゴンから離れた数瞬後、柔らかく私の指を食んだ。甘噛みのようなそれに合わせ、純粋無垢そうな瞳には、どこか寂しげな色が浮かんでいて。可愛そうだったが、帰りたい私はそれを振り払う。振り払われたドラゴンは、さらに寂しそうな雰囲気を漂わせ、私のことを見つめていた。
     私はカバンから鍵を取り出し、ガチャリと鍵を開ける。ドラゴンに手を振って別れの挨拶を済ませてから、私は何も考えずに扉を開け、ふぅっと大きく息を吐きながら家の中へと入った。そしてそのまま扉を閉めようとすると、扉が何かに引っかかったように鈍いゴンっという音をたてた。何事だと思って扉を見ると、何故かそこには、家の中に入ろうとしているドラゴンの姿が。

    「ちょっ、こらこら、君はここの住民じゃないでしょ。元の場所に帰りな──んんっ、重いな君!?」

     大型犬程の大きさとはいえ、これくらいなら自分でも持ち上げられると思ったのだが、ドラゴンを抱っこしようとすると、驚く程にドラゴンは質量があった。まるで鉛でも持たされているかのようで、私のか弱い体では1ミリたりともドラゴンの身体を浮かばせることは叶わなかった。仕方ないので、私は引きずるようにしてドラゴンを家の外に出そうとする。が、ここでドラゴンが脚を踏ん張るという、もはや大の男が1人いても無理ではないかという抵抗をされてしまい、引きずることすらも叶わなかった。

    「……はぁ、はぁ」

     数分ドラゴンと格闘して、私が玉のような汗をかいて膝をついているというのに、ドラゴンの方は涼しい顔をして「大丈夫?」と私の顔を覗く。その様子にイケメンドラゴンが少しばかり憎たらしくなる。
     私のことを心配するような視線を向けたあと、ドラゴンは首を傾げ、私の横を何食わぬ顔で通り抜ける。完全に、私の家へとお邪魔するつもりのようだった。不法侵入だと言いたいが、相手は動物。人間の法が通じぬ相手ではどうすることも出来ない。止める手段が無い私は、諦めた顔をしてドラゴンの後に続くようにリビングに入った。明かりをつけると、ドラゴンは新築の家を見物するかのようにウロウロと部屋を歩く。私はカバンを乱雑に壁側に置き、部屋の真ん中の丸いテーブルの上にあるカゴの中に買ったパンを入れた。どすんと音が聞こえそうな勢いで青いクッションに座りこむと、ドラゴンは私の傍に寄ってきて犬のように伏せ、頭をそっと擦り寄せてくる。そんな横に来たドラゴンを眺めると、ドラゴンも青いビー玉のような綺麗な瞳で私を見つめ返してきた。
     なんとなしに背中から生えている翼をつまむように掴み、びろんと伸ばすと、翼はコウモリのような形で中々大きく開いた。片方だけでもかなり大きい。両方広げるとなると、私の身長なんて遥かに超してしまいそうだった。次に前脚を掴んで見てみると、五本指で鋭利な爪がついていた。試しに近くにあったメモ帳の紙を沿わせると、驚く程簡単に紙が切り裂かれてしまった。「お前の爪はハサミか何かか」とツッコミを入れたくなるほどの鋭利さだ。脚の裏も覗いてみる。私的には肉球があったら良いななんて思っていたが、やはり爬虫類系統だからだろうか。肉球のようなものは影すらもなかった。少しばかり残念である。ちぇっと舌打ちのようなものをしながら、デコピンのように指を弾いてドラゴンの身体に当ててみると、ドラゴンの身体があまりに硬いためか、むしろ私の指がジンジンと痛んだ。こんな身体なら、ちょっとやそっと攻撃されたくらいでは痛くも痒くもないだろう。まさに生きた鎧である。

    「……不思議な子だね、君は」

     横っ腹を撫でると、ドラゴンはぐでんと横たわって無防備にお腹を見せてくる。それならとお腹を撫でてやると、尻尾の先端はぴょこぴょこと仔犬のように動いていた。中々に愛らしい。仕事やその他諸々で荒んでいた心には、そんな姿に十分癒されていた。
     私は微笑を浮かべつつ、そろそろ普段着に着替えようと立ち上がる。撫でることをやめられたからか、ドラゴンは名残惜しそうに手を見つめていたが、仕方ないかと顎を前脚に置いて欠伸をしていた。私が着替え始めると、ドラゴンは興味が惹かれたのか、私のことをジィッと見つめてくる。いくら相手が動物とはいえ、なんとも言えない気持ちになる。

    「……この変態。そんなまじまじとレディーの着替えを見るんじゃありません」

     私が手で視線を払う仕草をすると、ドラゴンは身体の向きを変えて私に尻尾を向ける。「これで良いのか」というように首を捻って私を見てきたので、少しばかり驚いてしまった。通じるなんて思っていなかったのだ。もしかすると、このドラゴンは私が思うよりも賢いのかもしれない。
     私が普段着に着替え、「もういいよ」とドラゴンに声をかけると、また意味が分かっているかのように身体を方向転換させ、私をジッと眺めていた。私をそんなに見ても、何も面白くないと思うのだが。
     まぁ良いかと思い、私はパンやらが入った袋からコンビニで買った唐揚げと割り箸を取り出す。そのあと、茶碗を2つ食器棚から取り出し、キッチンの湯沸かし器のスイッチを入れてから炊飯器からご飯を盛り付けた。吸い物も欲しいので、レトルトのシジミの味噌汁が入った箱から1本取り出し、お湯が沸騰するのを待つ。最近湯沸かし器はすぐに沸騰するため、ほとんど待つこともない。沸騰したら、先程出していた茶碗にシジミの味噌汁の元を中に入れ、お湯を入れる。そして、ご飯と味噌汁を丸テーブルに持っていき、青いクッションに座った。
     私が箸を持って「いただきます」と言うと、ドラゴンが興味ありげに私の夕飯を横から覗いてくる。鼻先を近づけ、唐揚げと私を交互に見る目は、どこか物欲しげで。しかし、だからといって食べさせるのはよろしくないと私を思う。これが本当にこのドラゴンの食べられるものかも不明であるし、もしものことがあれば困るのはまず間違いなく私である。だったら何故パンはあげたんだと言われそうだか、それはそれ、これはこれである。どちらにせよ、このドラゴンのため。別に私の取り分が減るのが嫌だとか、そんな思いは万に一、いや億が一にもない。あげたいのは山々ではあるが、そういう思いから、私は泣く泣く箸を持った手でドラゴンの鼻先をムギュっと押し返した。

    「……グゥゥゥ」

     とても不服そうな声をあげるドラゴン。そんな声をあげたって、私の唐揚げをあげるつもりは更々ない。ただ、私の食事風景をずっと見させるのも酷だと思うので、何か食べたいならと、最初に会った時にあげたパンをドラゴンの前に出した。

    「……グゥ」

     ドラゴンは妥協するようにため息をつき、パンを咥える。その場で伏せ、パンを喰いちぎっては呑み込み、ちぎっては呑み込みと食事を始めると、すっかり大人しくなった。即物的なやつだななんて思いながら、私は味噌汁を啜った。レトルトだから母親の味とはいかないものの、身体の芯から温まるような優しい味。とても美味しい。ふぅっと息を吐き、唐揚げに手を伸ばしてから口に放り投げ、白飯も中へと入れ込む。その美味しさにうんうんと頷いていると、ドラゴンが私の側面へと寄り添うようにくっつき、肩に頭を乗せた。器用にパンを前脚で掴み、人間のように持ってだらしなく食べる姿は、気を許した彼氏のようなものを思わせて。
     変なペット彼氏ができたものだなと苦笑しながら、ドラゴンの温もりを感じつつ、私は久方ぶりの誰かと一緒の食事を楽しむことにしたのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works