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    小狐リラン

    @Kasutera4126

    ハーメルンに掲載していたものや、color名義でpixivに投稿してる自小説の獣八禁や、
    単発の獣八禁置き場。


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    わかんない

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    小狐リラン

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    朝の何気ない、雷狼竜と私の日常風景。

    朝の私と雷狼竜 小鳥がチュンチュンと可愛くさえずる音。そんなものの音のみで起きられれば、私はどれほど良い朝を迎えられるのだろうか。

    「……わふっ!」

    「うぎゃ!」

     私が寝ている布団に、何かが勢いをつけて飛び乗る。唐突な衝撃に、私は変な声をだしながら目を覚ました。お腹に身体を押し付けられ、朝っぱらから腹の底にある何かが飛び出してきそうになる。私はガバッと布団から飛び起き、私の最悪な目覚めにさせた張本人を少しばかり睨んだ。

    「……わうっ?」

     どうしたの、とでも言わんばかりに首をかしげ、私を見つめるのは、黄色い甲殻に身を包み、胸の方は魅惑の白いモフモフで包まれた、狼のような中型犬ほどの生き物──ジンオウガである。このジンオウガと暮らして早数ヶ月。まだまだ子供なのか、元気が有り余っているジンオウガは、私が起きるのが遅ければ、決まって背中から落ちてきて、私のお腹を正確にアタックしてくる。本人は起きてよと催促してるだけなのだろうが、これが中々に辛い。

    「……もうっ。ジン、それ止めてって言ってるでしょ?」

     私はジンオウガの頬を軽く持ち、むにむにと引っ張る。ジンオウガはどこか嬉しそうな顔で舌をだして、尻尾を振っていた。ちょっとしたお仕置きのつもりなのだが、ジンオウガにしてみれば遊んでくれていると思っているのだろう。まったく困ったものである。
     こんなことをしていても、ジンオウガが反省するわけでもないので、私はむにむにするのを止めて、よっこらせと立ち上がる。窓を開け、太陽の光を一身に受けてうんと伸びをし、身体が起きるように促す。そんな私の腰には、ジンオウガが後脚で立ち上がり、かまってかまってと前脚を押し付けてくる。はいはいと言いながら荒くわしゃわしゃと頭を撫でてやると、尻尾を振り、嬉しそうに顔が綻んでいた。
     撫でてやるのをやめて、冷蔵庫から卵とキャベツ、そしてマーガリンを取り出すためにキッチンに向かう。キッチンに置きっぱなしにしている六枚切りの食パンの袋から1枚取り出し、トースターの中に入れてタイマーをセットした。朝は決まって半熟の目玉焼きとトースト。
     かれこれ一人暮らしを始めてから結構経つが、これだけは欠かしたことがない。
     キャベツを洗ってから、いつもの通りの油をひいたフライパンに卵を落とし込み、蓋をする。その間にキャベツを千切りにし、それが丁度終わった頃に蓋を開ければ、目玉焼きは美味しそうな色をしていた。
     洗ってそのままにしていた白いお皿に、フライパンから目玉焼きを落とし込む。その際にぷるんとプリンのように揺れる黄身。そんな目玉焼きに塩とコショウをさっと1周振りかけ、千切りにしておいたキャベツを柔らかく添える。それが終わった直後、丁度良いタイミングでトーストが跳ね上がった。これでいつも通りの朝食の完成である。トーストを、ハチミツの大好きな「クマのアーさん」が「ハチミツ下さい」と吹き出しで懇願した様子を描いた柄の入ったお皿に置き、出しておいたマーガリンをさっと塗る。マーガリンが熱ですぐにトーストに溶けて染み込んでいく。小麦色の良い色で、とても美味しそうだ。
     トーストと、目玉焼きの入ったお皿とテーブルに持っていくと、ジンオウガが「ご飯、ご飯っ!」と飛び跳ねていた。食べられないようにテーブルの真ん中に置くが、ジンオウガは身をぐいっとテーブルに乗り出して食べようとする。

    「こーら、ジンのじゃないっての」

     私の朝食を食べられるわけにもいかないので、私はジンオウガをテーブルから離す。また懲りもせずに食べようとするジンオウガに、私が「おすわり」とぴしゃりと言い放つと、ジンオウガはその場でちょこんと座った。その間に、私はまたキッチンに向かい、牙竜種用のフードと黄色い入れ物をキッチンの下から取り出す。そのあと、唐突に後ろを振り返ってみる。そこには、私の朝ごはんをバレないように音をたてず、テーブルに乗って盗み食いしようとするジンオウガの姿が。

    「ジ〜ン〜く〜ん〜?」

    名前を呼ぶと、ジンオウガはビクッと身体を震わせ、大人しくテーブルから降りる。油断も隙もあったものではない。食い意地だけは一丁前にあるのだから、困ったものである。
     私が黄色い入れ物を軽く水洗いし、ジンオウガの方に持っていく。ジンオウガは我慢強く座ってはいるものの、瞳には期待の色が浮かんでいた。黄色い入れ物を床に置き、フードを入れるカラカラという音がすると、座れなくなったのか、こちらに寄ってきた。食べたそうに顔を近づけるが、それでも食べず、私とフードを交互に見ていた。日頃の躾の賜物というべきか、ジンオウガはこういう面のことを律儀に守ってくれている。

    「……よしっ」

     私が言うやいなや、ジンオウガは顔を突っ込ませるかのように食べ始めた。それを見てから私も座り、ゆっくりとトーストを食べ始め──。

    「わうっ!」

     ──ようとすると、ジンオウガが私の横腹に軽く突撃してきた。若干角のようになってるところが刺さって痛い。なんだと思っていジンオウガを見ると、ジンオウガが黄色い入れ物を私の横に置いていた。先程入れたばかりのフーズは空っぽという状況で。
     これは苦笑ものである。どんなペースで食べたのやら。
     ジンオウガは再度私に頭を押し付けると、キラキラと純粋無垢な瞳でおかわりを要求してくる。ここでおかわりを承諾するのも良いかもしれないが、とりあえず私はジンオウガの腹をつまむ。つまむなんて言っているところから察するとは思うが、このジンオウガ、余裕で腹の肉をつまむことができる。要はぽっちゃりしてるのだ。
     元々、ジンオウガは野良としていて、私が拾って暮らし始めた頃はもっとスリム、いや、やせ細っていた。それがあまりに可愛そうだったので、よくおかわりをさせてあげていたのだが、それがいけなかった。野生は食べられる時に食べるというのが基本である。なので、出せばその分ジンオウガは食べて、あっという間にこの体型になったのだ。
     いまやぽっちゃりとしたジンオウガにおかわりを要求され、出すだろうか。

    「だーめ、それで我慢しなさい」

    「……グゥ〜」

     しかし、そんなことを言ったところで、ジンオウガが我慢するかといえば、それもまた難しい話。ジンオウガはムッとした顔をすると、前脚に若干ピリッととする程度の電気を溜め込み、その前脚で私をペシペシと叩いて不服を申し立てる。静電気をくらったかのような微かな痛み。めちゃくちゃな痛みというわけでもないが、そういう軽い暴力に訴えてくるのであれば、決まってやることがある。

    「ジン、そんなことして言うこと聞かないなら、お昼抜きにするよ」

    「っ!」

     言った瞬間、面白いようにジンオウガの前脚が止まる。私としては意外なのだが、ジンオウガは私の言葉をおおよそ理解しているらしい。だからこそ、ちょっとばかしズルいがこんなやり方ができる。
     ジンオウガはむくれた顔をして私を見ると、あくびをして不貞腐れたかのように伏せる。荒くフンっと鼻息を出し、私の顔を視界に入れないように首を曲げるジンオウガ。まさに人間の子供のような拗ね方である。

    「……よっこいせっと……」

     拗ねられては色々と面倒なので、私は伏せているジンオウガを私の側に寄せる。自分からジンオウガが動かないので、中々重い。そんなジンオウガを持ち上げて、軽くぎゅっと抱きしめる。そのまま、ジンオウガの頭を右手で優しく撫でてやった。不貞腐れたジンオウガは、「そんなことしたって許さないぞ」と言いたげな、嫌そうな顔をしていた。

     ……尻尾は、顔とは真反対に振られているが。

     顎を掻いたり、フサフサの白い体毛をわしゃわしゃしてやっていると、だんだんジンオウガも楽しくなってきたのだろうか。徐々に不貞腐れた顔に、いつもの嬉しそうな表情が戻ってきた。

    「よーしよしよし」

    「わふっ」

     ここまで来れば、あとはジンオウガにある程度時間を割けば満足する。単純な性格なジンオウガには、感謝である。
     ジンオウガは私の服を軽く食み、尻尾をぶんぶんと振り回す。さすがに服を食まれるのは困るので、「こら」と一喝する。それでも何か噛みたい欲求は収まらなかったのか、ジンオウガは左の私の指を軽く咥えた。ジンオウガの舌が、私の指を舐めまわし、なんともいえぬ感覚を覚える。そのことは別に良いのだが、甘噛みのような噛み方とはいえ、ジンオウガの歯は中々に鋭い。もう少し力を込められでもすれば、恐らく私の指は、私の身体とおさらばする羽目になるのだろう。だからといって口から指を引っこ抜くなんてことは出来ない。

    「ジン、指離して」

     そう言ってみたものの、ジンオウガが指を離す気配がない。というより、夢中になっていて声が聞こえてないような気がする。こうなってしまえば、私がいくら言ったところで意味がない。これはもう言っても無駄かと私は諦め、ジンオウガを抱っこしたまま、私は本来の目的である自分の食事に戻ることにした。
     トーストを半分に割り、それにかぶりつく。その味はというと……。

    「……ちょっと冷えてる」

     毎度のことである。
     私が温かい半熟目玉焼きとトーストを食べれるのは、はてさていつのことになるのやら。
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