残雪目覚めると、鼻先がいつもよりも冷えていた。空気も普段よりも澄んでいる。
病に伏せっていた体を起こして、外を見ると外は白く染まっていた。
「…雪、か。そりゃ寒い」
寒さに体がぶるりと震えたが、雪景色に心を奪われ、縁側に座り、雪だるまを作ろうと思い立った。
手探りで雪をかき集める。ゆっくりとした手つきで。
子供の頃はあっという間に雪玉を作っていた手は、あの頃よりも大きいというのに一つの玉を作るのですら倍の時間がかかる。それに気付いて笑えてきた。それは、面白くて笑う物ではなく、自らを嘲る笑いだった。
集めた雪をできる限りぐっと力を込めて固く握ると片手で優に収まる程の小さな雪玉ができた。
そのまま捨てればいいものを、気まぐれに盆に乗せて、枕元に置いた。
少しとはいえ、寒い日に体を動かして疲れて床につくと意識が遠のいた。
意識が浮上して目を開くと、夜になっていた。月光が雪に反射して普段よりも明るい夜だった。
窓から差し込む明かりが、雪玉にあたってキラキラと光っている。昼間のそれとは姿を変えて、雪玉は装飾が施されて、雪兎となっていた。
赤い目に緑の耳。
寝ている間に家人が付けたのだろう。
その心に朝とは違う笑みがこぼれた。
雪兎の赤い目を見ていると苛烈に生きた人の目を思い出す。一目みたときから、キラキラと輝く赤い目に心を奪われて、今も尚焦がれているあの人の目。
「せん…せ…」
雪兎に手を伸ばして、指先で触るとひやりと冷たかった。
次に目を覚まして盆を見ると、雪兎は溶けてしまっていた。
だが、雪解け水に浸かった赤い瞳は変わらずこちらを見ている気がした。