フェイスはどうしてこんなことでと馬鹿馬鹿しく思いながらも、実に深刻に悩んでいた。その内容は。
ブラッドと唇にキスをしたい、だった。
頬や額には幼いころを想起させるように、しょっちゅうしている。業務に厳しい彼だからこそ、業務時間外をわざわざ作って、家族なのだから挨拶程度として軽いキスを貰っていた。むしろ大人の男に対してするには過剰な挨拶ではないかとすら思う。それで、なぜ、唇にはしてこないのだろうか。家族だからだろうか。
いや、劣情のある好きを抱いていると、フェイスはブラッドに胸の内を告白して、ブラッドもそれを受けたはずだった。そのはずだとフェイスは認識していたが。
「ブラッドって俺のことどう思ってるのかな」
「弟だろ」
「そういうノーユーモアなセンスは求めてないんだよね」
「じゃあ俺に相談するなよ」
「それもそっか」
「おい~。そこで諦めんじゃねえよ。寂しいだろ」
縋りついてくるキースを適当に払ってフェイスは部屋に戻ろうとする。その時、ちょうどインターフォンが鳴る。様子を見ればジャックが毎度のように立っていたので、二人して呆れてもう一人のメンターのピザを受け取るため扉を開けた。ディノの昼食のは置いておいて、キースに向き合うと彼は恋愛相談などわかりませんといった顔をしていたので、半眼になる。
「結局聞いてくれないんだ」
「お前らの恋愛話なんてどういう顔で聞いたらいいのかわかんねえんだよな」
「その顔でいいから聞いてよ。なんでブラッドは俺とキスしないんだと思う?」
「してんだろ」
「いちいち逃げ道作らないで。今度こそ置いてくよ」
「えー?あー?ブラッドにそういう意味のキスがしたい欲求があるのは聞いたのかよ」
「聞けるじゃん」
っていうか、それは聞いてない。
うすうす勘づいていたが、ブラッドからそういう欲求を求められているかは聞いてなかった。というか聞く勇気がなかったというか。だって、ミドルですら唇にキスはするでしょ。なんならもっと幼くてもしていておかしくない。その中で劣情を抱いているという弟相手に親愛のキスしかしないってどういうことだ。
「…お前からはしねえの?」
その声に顔をあげると案外面倒見のいい顔が見ていた。世話焼きの男はなんだかんだ言おうと、メンティーの相談を無下にする気はないようだ。
「してみてるけど、ことごとく失敗してる」
なんで唇にキスごときを失敗するのだろう。