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    ここは──どこかの廃墟だろうか?

    女の人が見える。酷く傷だらけで、服なんかはあちこちに穴や焦げ跡がありぼろぼろだ。何かから必死に逃げているみたいだけど、一体何が彼女を追い詰めているのだろう。
    何度か閃光が私の目の前を横切り、閃光の当たった壁やら床やらが弾けとぶ。こんな光景はいままでに見たことがない。一体どんなトリックを使っているのだろうか。
    廊下のような道の残骸を、女の人は駆け抜け、時々そんな不思議な閃光をとばしたり、避けたりしながら逃げ惑う。この人を追い詰めているのは、他ならない私自身だった。
    女の人が向かったと思われる方向から、一羽の梟が飛び去るのが目の端に見えた。私は、冷酷な低い声をあげて、私の仲間と思われる人間にふくろうを追えと命じている。正確に言うとこれは私ではなく、誰か恐ろしい者の視界を勝手に私が覗き込んでいるような状況だった。視界の端に、赤黒いもやのようなものがゆらゆらと揺れている。
    とうとう行き止まりに追い詰められたその女の人がこちらを向き、初めてその顔がはっきりと見えた。
    よく見ると年老いた女性のようだった。ゆるいウェーブのかかった白髪を束ね、冒険家のような装いでしゃんとした背筋からは、後ろから見ただけではやけに若々しく思えた。
    何が起こっているのか全く分からないが、この女性が絶体絶命の状況にあることは何となく察することが出来た。しかしその瞳には、怯えよりも、僅かな希望の光を宿している。
    「エリエザー」と、その人が呟くのが、やけにはっきりと聞こえた。
    女性は手に持った細長い何かを、私に──私が視界を覗き見ている恐ろしい何者かに──振り上げた。黄色い閃光がほとばしると同時に、私の視界の端から放たれた赤い閃光がそれを打ち消し─────


    ──ベッドから飛び起きた。
    思い切り身体を起こしたせいか、カビの生えた古いベッドはミシミシと音を立てている。視界は先程とは打って変わって真っ暗で、見慣れた窓際のカーテンが月明かりにぼんやりと照らされてゆらゆらと揺れているのが見えた。
    いまだに鼓動が鳴りやまない。もうすでに朧気ではあるが、何かとてつもなく恐ろしい夢を見ていたような気がする。
    周囲を見渡し、現実世界に戻ってきたことにまずは安堵した。しかし、こんな中途半端な時間に起きてしまうとは。再びベッドに横たわるも、何やらさっきから囁き声が煩くて眠れない。いびきとも違うその声は、まるで私の内側から語りかけてくるかのようだった。今までに聞いたことのない異様な声が纏わりついているというのに、何故だか不思議と、『それ』が自分にとって当たり前の物であるような気がした。根気強く目を閉じていると、ようやく囁き声にも慣れてきた私は再び眠りにつくことが出来た。
    翌朝目覚めたときには、昨晩見た夢をまったく覚えていなかった。
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