短夜に願う 空の色が濃い青に移り変わる頃。一通りの準備を終えた私は、待ち合わせ場所として指定されていたベンチに座って、一人空を見上げながら待っていた。もう祭りが始まっている時間だけど、街の中心にある会場からそれなりに離れたこの場所だと、夜を合図する虫の声の方がよく聞こえる。
普段と違う格好というのはどうにも落ち着かず、少し身体を捻ったりして、何かおかしいところはないか何度も確認した。浴衣なんていつ以来だろうか。というより、今まで着たことはあったのだろうか。この世界に来る前の思い出について覚えていることは少ないけれど、確かに見覚えのあるこの装いには、密かに憧れを感じていたように思う。着慣れない服装に対する気恥ずかしさと、この後をどう過ごすかという緊張はあるものの、心躍る自分を完全に無視することはできない。
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