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    暖(はる)

    @Haruon1018

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    暖(はる)

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    長晋ワンドロライ「はいはい、うるさいな」(+萌え)
    文庫メーカーさんと同じ内容です
    (ページ数多いのでこちらにもまとめました)

    「もう少ししたら寝かせてやるから、ん、」
     昨晩も散々抱かれた高杉は躯どころか瞼も開くのが億劫な状況だ。
     互いの汗や体液を落とすため、森に担がれて浴室まで入ると頭の天辺から足の爪先まで綺麗に洗われた。
     その時はまだ辛うじて意識を手放すことはなかったので、ここまで抱くくらいなら加減しろと振り向きざまに恨みを込めて森を睨んだが、森は高杉の髪をタオルでまとめるとスンとした表情のまま高杉を湯船に浸からせ、手早く自分の身体も洗っていた。
     細身の高杉の躯とは違い、森の躰は筋骨隆々である。
     それに対そう美丈夫だ。
     織田と武田がそれぞれ自分の右腕の子息を互いの陣地に送り込んだ際、森は武田の元でホストとして彼らの商を学んだという。
     それに今は織田直下の若頭のだから、一般人は兎も角、そういった生業をしている女にもてるのだから僕に執着しなくともよいのにと高杉は思うが、森にとって高杉は自分の心臓を射貫いたった一人の存在なのである。
     風呂から上がり、ドライヤーで髪を乾かし、白皙の肌のためにローションを乾燥しやすい箇所に塗り込んでいく。
     所々についた赤い点々を指でなぞられているが高杉はもう反抗する気力もない。
     腰についた大きな掌の痕、雪の中に神々しく咲く梅花のような痕それらは昨晩、イヤというほど見せつけられた。
    「大殿に呼ばれてるから出掛けてくる。メシが食いたけりゃ冷蔵庫にオムライスとスープが入っている、ソースは……」
     清潔なベッドで寝かされた高杉は猛既に熟睡態勢に入っている。
     ハッキリと聞き取りやすい森の声が遠くに聞こえるだけだ。
    「はいはい……うるさい、寝かせてくれ」
     眠くて仕方がないのは誰のせいだと高杉が唸っていると森はむっとした。
    「なんだよ、」
    「眠い……普段は喋らないくせに、こういうときだけ、そんなに話したければ早く帰ってこい」
     高杉は寝ると掛け布団を引っ張ると躯を丸め、自分がどんな言葉を口にしたか分からないまま、眠りについた。
     *
     目が覚めると同時に空腹を感じた高杉は、服を着替えてキッチンへ向かう。
     白のハイネック縦セーターの下には、首輪はない。
     その代わり、高杉と森が知り合うことになった、恐ろしい人殺しの薬を産み出すために犠牲になったラットと森の歯で出来たダイヤのピアスが高杉の耳で輝いている。
     今すぐここから逃げ出せるよう格好ではあるが、
     それ以前にあの男が高杉を簡単に外に出すはずがない。

     冷蔵庫を開けるとカップに入ったスープとオムライスが置いてあった。
     綺麗に包まれている黄色のオムライスと、それよりやや濃い色をしたスープ。
     それらを机にいったん並べると、綺麗な字で書かれたメモにそれぞれの温め目安が書いてある。
    「律儀だな……」
     高杉は用意された食事を待っている間、手がすっぽりと隠れてしまうセーターの袖をまくりながら思い耽った。
     身体の弱い高杉のために彼の母はよくオムライスを作ってくれた。
     栄養もあり食べやすいそれが出てくるのは決まって次の日、何か楽しいことや長く休んでいた学校にようやく通える日の前日だった。
     大学進学をきっかけに一人暮らししてからは、自炊もろくにせず学食にもメニューがなかったので口にする機会がなかった。
     それでも一度だけ、尊敬する吉田が唐突に「食べ物が数倍、美味しくなる魔法があるらしいと」と、久坂も巻き込んでメイド喫茶に行き「ふわとろオムライス、メイドの愛情かけ」を三人揃って注文した。
     同じメニューを頼んだのは、呪文を掛けたモノとただ提供されたモノの比較が欲しいためだが、メイドが蹌踉めきながらも懸命に運び「美味しくなれ~」と可愛らしい声をかけられたオムライスも、そのあと、厨房スタッフが無造作に置いたオムライスも味は変わらなかった
    この手の商品は愛情がご馳走になるというだけで味は均一なことを高杉も久坂も知っていたが、あえて黙っていた。
     と言うよりもこの後、尊敬する吉田があれこれと思考を組み立てる様を眺めたかったのだ。
    「懐かしいな……」
    温まった食事をテーブルに並べると、何かが物足りない。
     南瓜スープに種が飾ってあるように、オムライスにもソースが必要だ。
     寝落ち直前ソースについて森が喋っていたのを思い出したが、またさらに温めるのは二度手間である。
     メモに残しておけば良いのにと一人腹を立てたが、怒っても仕方がない。
     それに吉田達の思い出に触れた高杉は、ケチャップで食べたいと思ったので冷蔵庫から取り出すと、席に座り直した。
    「……」
     手を合わせて、ケチャップをかけようとした高杉だったが一瞬、手が止まった。
     森のことは好きではないと突っぱねている高杉だが彼の作る物に対しては、高杉が一番美味しいと感じる味付けに仕上がっているのだ。
     その料理を思い出だけという理由で、トッピングをしても良いのだろうかと。
     森がそれくらいのことで腹を立てるような人間でないのは分かっているが、これは高杉のプライドだ。
    「う……」
     何度も席を立つのは行儀が悪いし、ぐーと腹が空腹を訴える。
     高杉は作ってくれた感謝と思い出に板挟みになりながら、「スキ♡」とケチャップで歪な文字を書いた。
    「これは彼に対する気持ちでなくて、美味しくなる呪文……」
     呪文がまやかしなのは知っているし、料理が美味しいのも分かっている。
     ただなんとなくその文字を書いて高杉は許されたかった。
    「あ~! やっぱり、ナシ、こんなのアイツに知られたら何言われるか分からん」
     森がいないせいか独り言の多い高杉は、急いでスプーンで文字を消すと絶品のオムライスを堪能した。
     *
    「ただいま、良い子にしてたか」
     相変わらず喪服みたいなスーツ姿で森が帰ってきた。
    「良い子の基準が何かは分からないが、ご覧の通り外に出られず退屈している」
     気晴らしに研究しようにも、やはりというべきか、キッチンとリビング、最低限の部屋以外はセキュリティーロックされていたので、高杉はただソファーに丸まっていた。
    「ほーん、まぁいい。茶々様から菓子貰ったけどいつ食う?」
    「食べるの前提なのか、」
    「当たり前だろ、ちなみにオレは先に食った、」
     今日の仕事はどうやら会合だったようで、汗臭くもなければ硝煙の匂いもしない。
     何より森の目が滾ってないので、退屈だったのが分かる。
    「……君がお茶を淹れてくれるなら」
     お菓子と茶々に罪はないとお茶も欲しいと強請れば、森が高杉の顔をじっと見る。
    「な、なんだよ」
    「菓子は食ったが、メシはまだなんだ、」
    「へぇ、そうなのか、食べれば?」
    「……支度してくるから」
     森は何か云いたそうな顔をしていたが、何も言わずキッチンへ向かった。

     着替えて、食事の支度を済んだ森に呼ばれた高杉は椅子に腰掛けた。
     美味しそうなお菓子と高杉が食べた量の倍以上あるオムライスがテーブルに置かれている。
     真ん中にはケチャップ。退屈な会合の休憩時間にでもログを見たのだろう。
     高杉に逃げ場はない。
    「美味しくなる呪文を頼む、」
    「断る! 勝手にケチャップをかければいいだろう、」
    「人が折角早く帰ってきてやったのに、」
    「誰が云うかそんなこと、君も疲れていたのだろう空耳だ、」
    「ログ見て確かめてみるか、」
    「ズルいぞ、う……云ったかもしれない、それは認めるが呪文は書かない」
    「書け」
    「書かない、冷めてしまうぞ。君の料理は美味しいのだから美味しいうちに食べるべきだ、あッ……」
    「お前好みに作ってるからな、うまいうちに食わせてぇなら書け」
     にかっと笑った森に高杉は一瞬、絆されそうになったが気を持ち直す。
    「うッ……適当にかけても一緒だ、」
    「それじゃ侘びてねぇだろう、なぁ高杉、どんな気持ちでこれ消したのか聞いた方が良いか、」
    「う……分かった、書いてやる、なんてことはないただの文字の配列だ、いくらでも書いてやるよ」
     気持ちを答えるよりも、書いた方がマシだと高杉がケチャップを手に取ったが指先が震える。
    「ス、スープでも飲んでいろ、書いたら教える」
     じっと顔を見られる高杉は赤面する。
     したり顔こしてないが期待に満ち溢れた目は高すぎの心を惑わせる。
    「書いてるところ見せろ、どうせログで見るんだし、ココで見た方が早いだろ」
     ガン飛ばしは十八番だと森は高杉を捕らえて離さない。
     見られると呼吸が苦しくなり、動悸もする。
     怖いはずなのになぜか嬉しくなるのを高杉は必死に押さえ込んだ。
    「スとハートは書いてやった、あとは自分で書け……分かった、十秒で消せよ」
     隙間にキを埋めた高杉は、消せと森を急かすが森は、ぴしゃりと遮る。
    「勿体ねぇ」
    「良いから!よし特別に呪文を唱えてやろう、美味しくなれ~」
    「オレが作ったんだからうまいんだろ」
    「う……だからな」
    「はいはい、うるせぇな。黙ってろ、」
     好きという言葉を噛みしめるかのように森がオムライスを口に運ぶ。
    「ッ……!」
    「すげぇ顔紅いな、どうした」
    「いい年してオタク文化を思い出した自分が恥ずかしくなっただけだ、」
     吉田達との思い出を胸にしまうと、すっかり温くなり、それでも美味しいお茶を飲み干しながら高杉は強気な態度を取った。
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