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    暖(はる)

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    暖(はる)

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    結腸まで開いていてキスしていない長晋のお話
    ネームというか筋書きで書きました
    いったん寝かせてその内本にしたい

     きっかけは単純だった。部内でビデオ交換会がありその中の一つにゲイビデオが混じっていたからだ。
     両親が外泊中二人っきりの部屋でしかもそれなりに好意を抱いていた森との鑑賞会。
     思春期真っ只中の高杉は幾ら飲んでも溢れ出す唾を飲み込みながら森の袖を引いた。
    「男同士でも出来るんだね」
    「穴があるんだからヤレんだろうほら」
     画面の男達は口づけを交わしながら本来使うはずのない器官を使って欲情を発散している。
     そのときは気づいてなかったが、アングルは竿役がメインだったため穴はあまり画面には出ていなかった。
     それがいけなかったのか、痛みも恐怖も感じずほんの少しの好奇心から。若さとは恐ろしいモノで出来もしないことを口にする
    「僕らもやってみる」
     長可がじっと高杉の顔を見る。まずかったか気づいたときにはもう遅い。
     いつか誰かと付き合ったときの練習だよ、童貞って実は嫌われるよ、なんてありもしない話をして誤魔化せば、薄暗い部屋のベッドに押し倒された。
    「ここは付き合う奴にとっけおけ」
     それはこちらの台詞だと、高杉は黙って頷いた

     それから十年は過ぎただろうか、お互い大学に進学して交流関係も広くなったというのに、あの日の出来事が忘れられず、週に一度は相手の部屋に招かれ招いては爛れた関係を続けていたし、ただの歯車になりたくないと就活を半ば放棄していれば、「大殿が出資してくれる」と森家可愛い信長がスポンサーになった御陰で企業が出来、森とは同級生のお友達から共同運営者という立場に切り替わった。
    「お互い、いい大人なんだしそろそろ……やめない」
     一度だけこのままではまずいと高杉が爛れた関係に終止符を打とうとした。
     世間の目があるなんて、普段バッシング、炎上も上手く丸め込む高杉にしては珍しく弱気な態度に一仕事終えた森は、ベッドの上で水を煽る
    「やめてどうする、好きなヤツでも出来たのか」
    「違うよ、だってさこんな関係不毛だろう」
     男同士がダメなわけではない、愛し合っているならどんな相手だろうと構わないが高杉達の関係は名前を付けられない
    セフレと世間では言うらしいが、それにしては高杉の感情は重すぎる。
     いつでも会いたくなって、そばに居て欲しい、誰のものにもならないでそう口にしたい唇は思春期の綺麗なのは表面だけ、中身はすでにドロドロに腐っている
    「練習と言ったはずだ、もう十分に君はうまい。僕のせいで少々特殊な性癖になってしまったとしても、きっと」
     やっていけると高杉は口にする。攻受の立場を変えない以外はありとあらゆるプレイはしてきた。
     騎乗位など可愛いもので、時々は縛り縛られもした。
     長い休みにどれだけヤれば性欲がなくなるかバカな試しをしたこともある。
     アナルセックスに抵抗のある女子は多いが、いないわけでもないし、本来使うべき器官の方が気持ちが良いはずだ。
     最初から男が好きなのであれば、免許皆伝を授けてもいい
    「てめぇはどうするんだよ、」
    「僕は……」
     どうすればいいのだろう、高杉の躰はすっかり森好みに仕上がっている。
     同族にしか分からない丸みのついた尻にぷっくりしている孔は見事に縦に割れており、結腸という最後の砦も破られている。
     乳首にいたっては上着がなければ海に入れもしないほど淫乱に仕上がっている。
     この躰でそういった相手を探そうとすれば開発済み、中古品でも買い取ってくれるマニアくらいだろう
    「いねぇのなら良いじゃねぇか、」
     良くないと口にしようとすれば、その口は手で塞がれる。
     唇は付き合う奴と、その言葉がヒドく重たかったのに躰は簡単に欲に流された。
     *
    「え~先にまとめておきますと、一緒に暮らしていて長可様が八、高杉様が二の家事負担で、月に一度は視察兼ショッピングに出掛けてそれでなくても一緒に買い出しに行くという仲なのですね」
     この際、お嫁さんでも貰って逃げようかなと言う高杉に秘書の阿国がたたみかけてきた。
    「二というが洗濯は僕が担当しているし部屋の掃除だって、ただ料理が……」
    「シットアップ!世間じゃそれはお付き合いどころかもう夫婦なんですよ」
    「僕と森君が、だって僕らは」
    「キスがどうしたって言うんです、付き合ってください。この一言があれば円満解決なんですよ」
     エンタメ好きの彼女は海外は勿論古い日本映画なども観ているせいか、台詞回しが独特だ。
    「玉砕覚悟でそんなこと言えるか」
    「ホーリーシット、大丈夫です、骨は拾って上げますから」
     さあ、もうこれで分かったでしょという阿国は油断していた。
     この高杉が一筋縄ではいかないことを
     それから三日後、高杉は忽然と阿国はおろか森の前からも姿を消した。
     *
    「見つけたらぶっ殺す!」
    「長可様の気持ちはよく分かります、ええ殺してください」
     突然姿を消した高杉を探そうと森と阿国はあらゆる手段を使って居場所を突き止めようとしたが、まったくというほど見つからない。
     否、姿だけなら世界中どこにでもいる。
     高杉の本職はネットワークサービスだ。家庭用パソコンから軍の衛星まであらゆるものを産み出しては世界各国に売りつける。
     その売り込み方は特殊で高杉が開発した彼そっくりの人工頭脳が突然ウイルスのように「やあ、お困り事か」とスマホやパソコンに現れるのだから、相手はびっくりする。
     しかも本当に困っているときに出てくるのだから、一瞬お前がやったのかと相手は恐怖と怒りを露わにするが、高杉はなにもしてない。
     うまく相手を高杉のテリトリーに持ってきては、相手から聞き出したデーターを元に修復、駆除を行いついでに自社製品を売り込む。
     高杉の躰と彼愛用のパソコンさえあれば世界中どこでも仕事は出来る。
     ただでさえ、気の向いた会合やパーティーにしか参加していない高杉だ、半年や一年姿を現さなくとも誰も不思議に思わない
     雲隠れもお手の物で、人工頭脳を使いありとあらゆる地域にそれとなく紛れ込み、森達を翻弄させる。
     愛用のパソコンをハッキングでもして息の根を止めようとも考えたが、損害額が多すぎるうえに太刀打ちできるのは駒鳥のコードネームを持つハッカーしかいない。
     ここは残しておこうと、森達はしらみつぶしに高杉の居場所を突き止めていく

    「お帰り岡田君、跡は付けられていない、知らない人に声かけられていない?」
    「儂をだれだと思っちょる、そんなバカな真似はせんわ」
     灯台下暗し、高杉はまだ日本にいた。
     それも森達からそんなに離れていない場所、岡田の家に転がり込んだ。
     借金棒引きと生活費にたんまりお金を払った岡田の口は重い。森が眼光鋭く睨んでもどうにか躱し、今日も高杉の世話に勤しむ。
    「さすが、君の護衛の腕と暗躍は僕も信用しているよ」
     ひげ面の一見、年齢不詳の岡田の仕事は表向きさすらいのフリーターとなっているが、本当の仕事は産業スパイ、それも内部を掻き回し破滅へ導く厄介な存在だ。
     出逢いは単純、どこかの依頼で潜り込んできた岡田を逆に高杉がこちら側に呼び寄せた。
     それからは公私ともにギブアンドテイクの間柄となっている。
    「けんど、いつになったら帰るつもりじゃ」
    「いつだって良いだろう、何もう暫くしたら出ていく」
     岡田がいなければ寝食を忘れ何かに取り憑かれたかのようにパソコンに向き合う高杉に、岡田は正直参っていた。
     倒れたらどうする、話だけなら聞いてやると言っても高杉は、生返事しかしない。
     唯一パソコンから離れるときは岡田が出掛けている間、もしここに誰かが来ても逃げられるよう気をいつも張り詰めている。
    「……そうは言ってものぉ」
     見ていて不憫である。森からおおよその話を聞いてはいるが正直喰いたくはない。
     今すぐにここにいると口にするのは簡単だ。
     さっさと接吻でも愛の告白なぞもしてハッピーエンドを迎えれば良いとは思っているが、なぜか岡田は高杉を匿っている。
     同類のよしみである。
    「ちっと煙草吸ってくるき、」
     岡田が帰ってきて安心したのかパソコンに向かおうとする高杉に、珈琲を入れ岡田がベランダに出れば、大きな影がライターを踏みつけた。
    「岡田君? 寒いんだけど吸うのは良いけど閉め……」
    「よう、高杉。会いたかったぜ」
    「……!?」
     六階建てのアパートの三階に玄関からではなく、リビングから乗り込んできた森に高杉は驚きの余り声が出ない
    「……岡田君!」
    「儂はなんも知らん、ほんまじゃ! ……あンのアホ……」
     首を振っている岡田がベランダから外をみれば、車のボンネットが凹んでいる。
     土佐ナンバーの車を乗りこなす白いスーツの坂本は岡田の幼なじみである。
    「知らないなら時間稼ぎを頼む、三十分は持たせてくれ、」
     鞄とパソコンを抱え、高杉は玄関へ向かう。
    「諦めた方がええと思うが……分かった、はよ行き、おい、龍馬! 高杉に手出したら絶交じゃ」
     岡田は叫びながら、必死で森の行く手を阻んでいる
    「僕もだ、きっちり働いて返して貰うよ」
     リョーマなんか喚いているぞという相棒のお竜を前に「ここまで連れてくるまでが仕事だからね」と坂本は、高杉が降りてくる絶妙な位置で車を止め、扉を開けるとすぐと車を走らせる。
    「三十分持つと思うか」
     岡田の拳が眉間に一発届く寸前、森は喰らう覚悟で岡田を挑発するような態度を取る。
     岡田には分かる。喰らわす前から血が滲んでいるほど強く握りしめられた森の拳が、岡田の内臓を抉ることを。これは逃げではない
    「儂も結構強いの知っちょろ、……おんしほんまに高杉のことが好きか」
     どんと騒音が響く
    「好きに決まってんだろ」
     間一髪避けた御陰で、内臓ではなく頬を掠っただけだ。代わりに背にしていた壁がメキメキと音を立てて崩れている。
    「ほうか、そんならはよ、あんバカにはよ言ったり、なんちゃない」
     儂疲れたわと岡田は壊れたライターを拾い上げる。
    「……悪かった」
     頭に血が上っていたという森に岡田はあれと関わるといつもそうじゃろと、笑っているのか呆れているのか妙な顔でいる
    「儂バカじゃき、高杉のやっとることは分からんかったけど毎日パソコン触っちょた。
    おんしなら分かるじゃろ……ここより安全でなおかつパソコンが使える場所など一つしかない。」
    「……あとで金は払う」
     ついでに新居も見繕ってくれと岡田は森に手を振る。
    「後始末は……龍馬が帰ってからでええか」
     たまには幼なじみとじっくり話すのも悪くないと、岡田は飲みかけのコップをシンクに片付けた。
     *
    「森君これ以上はいけない、君は……どうして分かってくれない」
    「わかんねぇのはてめぇだろ、地獄だろうが何だろうがお前を攫いにいく、」
     逃げる高杉の腕を掴むことは出来た。あと数センチで唇が触れ合うまで近づけたのに、高杉は首を振り、森が傷ついた一瞬、全速力で貨物船に飛び乗った
     非情にも船の汽笛が鳴る

    「ごめん……まさか高杉さんが彼処までするとは思わなかった」
     坂本がいくつか所有している事務所で、彼はすぐと頭を下げた。
     森を見捨てたわけではなかった。あすこでいくら会話をしたところで解決にはならない。ヒートアップして最悪、高杉が病院に運ばれるのがオチであると頭を冷やさせるために坂本は車を事務所の近くの港まで車を走らせた。
    「……俺も正直あいつにあそこまで拒絶されるとは思ってなかった」
    「まだ言うがか、あれはきかん坊もええところじゃ」
     折角良い雰囲気だったじゃろと岡田は、うんうんと頷く。
    「ですが現役の社長が密入国ともなれば……」
     慌てて事情を聞きつけた阿国が茶を配りながら心配そうな顔をする。
    「それは大丈夫、飛び乗ったのはウチの貨物船だからうまいように手配しておくよ」
     高杉さんパスポートは持っていたみたいだしねと、坂本はにっこりと笑う
     用意周到だなと坂本に膝枕をされているお竜も頷く
    「けど、これからどうするの。迎えに行ける?」
    「行くに決まってるだろ……、」
    「分かっております、長可様のスケジュールはこちらで良いように片付けておきます」
     高杉が逃げ回ってから阿国の仕事は正直ほとんどない。
     専門外の仕事に手を出しても良い結果は生まれない。高杉が叩き上げたエージェントに任せ阿国は自分が出来ることを探していた。
    「まったく、よくあんな嫌がらせが思いつくよな」
     共同経営者といっても扱っている業務は違っている。高杉が顧客を見つけて個々に販売するのなら、森は幅広く品を卸していく。
     高杉の独断専行的な行動とは違い、森はそれなりに交流関係も保ち腹の探り合いを行う。
     天下の織田に躾けられたのだここで使わず何時使うのだと、忙しくしていたが今回は徒となった。
     高杉は逃亡してから一月、森にとって有利な商談をいくつも渡してきた。
     商談があれば探しだすことは出来ないだろうと、敏腕の秘書も驚くほど機密に立てられたスケジュールに森は怒りを通り越し殺意が芽生えていた
    「織田様がバカンス中でよかったですね」
     森家可愛い信長は今、蘭丸と共に休暇を楽しんでいる。
     おそらくどこかで話は流れているだろうが、動かないところを見るとギリギリまで森達本人に任せているようだ。
    「馬に蹴られたくないしね」と信長の声が聞こえてきたような気がした。
    「連れ戻してくる」
     次は失敗しないと森はすくりと立ち上がった
     *
    「はは、さすがは阿国くんだ」
     やられたと油臭い貨物船の船底に居城を構えた高杉が苦笑いをする。
     森に振った仕事はすべて高杉に跳ね返ってきた。
     成立はさせていた。
     末永いお付き合いのために「お試し期間」とセキュリティー強化やウイルス駆除を格安で高杉本人が引き受けると口にしたのだろう御陰で、仕事にかかりきりで人工知能を使ったハッキングは疎かになってきている。
     乗り込んだのは運が良いのか悪いのか、海援会社の船だ。
     港に着けば高杉の身元は保証されるが、森は恐らくそこで高杉を待っている。
     地獄だろうがなんだろうが攫いに行く、折角重たい男が自分から手を引いたというのに、追いかけるほどバカだっただろうか
    「……バカなのは僕だ」
     あの瞬間攫われたって構わなかった。ただ触れそうになる唇に臆したのだ。
     十年という時間は余りにも長すぎた。
     今度こそきっちりお別れをしようと、躰を丸めれば旅の友が笑いかける
    「お兄さん、寝るのは良いけどちゃんと食べなよ」
     船底でそんな薄着では寒いだろうにチャイナ服の少女はニコニコと笑う。
     彼女もまた勝手に乗り込んできた仲間の一人だ
    「素直に乗れば良いというのに」
    「だってあの坂本だよ、なにかあるって」
     彼は良い青年だと笑うのは彼女の護衛の老師だ。
     国内ならまだしも大海原に出れば余所の海域だ。
     正式な出国届けを出していない以上、高杉はお縄となると自分の行動に呆れたが、
    運が良いのか悪いのか乗り込んだ船は海援会社の貨物船だ。
     港に着けば高杉の身元は保証されるがおそらくそこで森が待っている。
     奥の手だけはできたら使いたくなかったが、仕方がない。
     高杉は丸めた躰を起こし、蘭芳が持ってきたおにぎりに口を付けながらパソコンを立ち上げる。
     森君のおにぎりが食べたいな、お米がつやつやで海苔もぱりっとしている。大きい手なのに高杉の食べやすい大きさで握ってくれる――自分から逃げ出したくせに随分と女々しいモノである。
    「お兄さん、そろそろ港に着くけど訳ありでしょ、これからどうするの」
    「どうしようかな」
     幾ら船の方が早くに出港していても、二十一世紀だ飛行機の方が早い。
     せめて空港まで森と出会わなければまだ高杉に勝ち目がある。
    「助けてあげようか」
    「君が坂本君に密告しないとも限らない、遠慮しておくよ」
    「しないよ、その代わりお兄さんの大事なモノを頂くだけ」
    「……これはやらない」
     蘭芳の欲望は高杉のパソコンに向けられる。これだけは絶対に渡してはならない
    「残念……老師、」
     やっちゃってとずっと蘭芳のそばを離れなかった老師が高杉の頸根っこを掴み上げ、船底よりも暗い何処かへとしまい込んだ
     **
    「高杉さんが行方不明?」
     港にいないと森が坂本に電話をすれば、そんなはずがないと坂本が急いで船員達に高杉を探らせる。
     あの船に蘭芳が乗っていたのは知っていた。高杉同様こちらがこうなった以上は客として扱うと言うのに裏でこそこそとしていた。
     まさかと思えば、蘭芳からメールが入る
    【困っていそうだったから、イギリスまで送ってあげたよ】
     写真にはスーツケースの中で眠っている高杉が映っている。
     金のためなら何でもする彼女だ、無償で何かするとは思えない
     何枚か写真をクリックしていけば、最後に出てきたのは蘭芳がどこかの国の防犯カメラに写っている様子を削除する光景だった。
     恐らく人工頭脳を使った際に勝手に映ったのだろう
     坂本がこれを密告する気はない、そっとメールで返して森に高杉の告げる
    「ところで、ずっと気になっていたのだけど」
    「なんだよ、」
    「なんで高杉さんと付き合ってないの、彼ずっとフリーだったでしょ」
     理性があるバーサーカーなどと呼ばれているが、独占欲は隠し切れていない
    信長に頭を下げて資金を調達し、同棲して自分の手元に置いておくのがいい例だ
    「はじめて契ったときには、いたんだよ、それにあいつの口から聞いてみたかった」
    「傲慢だな」
    「お竜さん……勝手に電話に」
    「ムカつくが、その蛇女の言うと通りだ」
    「そうだろう、だってお竜さんは賢いからな、好きならすぐ伝えないと」
     リョーマもだというお竜の言葉を遮るように坂本は一方的に電話を切る。
     *
     目が覚めた高杉は、日差しが降り注ぐベッドに寝かされていた。パソコンは無事で、それどころか仕事も人工頭脳も片付いていたり、最新の状態となっていた。
    「ロビン……さすがだ」
    「あんた、どんだけ無茶したら気が済むとそこにいる紳士がいなかったら今頃海の藻屑ですよ」
     やぁとベランダで優雅に紅茶を嗜んでいるのはロビンと高杉の目隠れを愛す、海賊紳士だ。
    「たまたま船を動かしていたら、妙な動きをする連中を見つけてね」
     積み荷を拝見したら君が入っていたというわけだとバーソロミューは軽快に笑う
    「ありがとう」
    「なに当然のことをしたまでだ、」
     すぅと茶を飲み干すともう少しゆっくりしたかったが約束があるのでねと、バーソロミューは出ていった。
    「君と彼がいるということはここはイングランド?」
    「そうですよ、正確にはノッティンガムのシャーウッドの森」
     駒鳥の根城に付けたのなら安心だと高杉はホッと胸をなで下ろす。
     ハッカー殺しのハッカー「駒鳥」、その正体を知るものは意外に少ない。
     たまたま高杉がセキュリティーを任された会社に忍び込んだのが彼だった。
     連日連夜、駆除と破壊を繰り返していくうちに高杉の方も契約していた会社の裏事情を知り、破壊側に回ったのは良い思い出だ
    表の名はロビン、貴族の家系図の末端にいたという理由で広い土地と屋敷を手に入れた元陸軍工兵という経歴だが、すべて嘘である
     本当の名前はおろか実際の経歴も高杉は知らない
     広い土地は個人所有の電線のため、元工兵という設定は週末に仕事道具を修理しても怪しまれないためだと以前口にしていた。
    「だったら、僕はその同僚って言う線で行こう」
    「いくらなんでも無理がある……バックパッカーでいきましょう」
     日本人の旅行客も最近増えてますしねと、ロビンはいったん部屋から離れると高杉のための朝食を運んできた。
     あまりに人の出入りがないのも怪しまれると、広い屋敷を宿泊所としても利用していた。
     意外と人好きなのかもしれないなと、高杉はまずいと評判のイギリス料理の中で最もまともな朝食に手を付けた。
     *
     それから一週間、高杉はロビンの仕事を手伝いながら、自分の作業に没頭する。
     奇妙なロボットだとロビンには怪訝されたが、美的センスまではどうやら同じではなかったようだ。
     半径30キロ圏内にいる特定人物のみに反応する優れた 高性能能衛星測位システム「アラハバキ」、売り込む前に実際に使ってみようと密かに図面から素材まですべてをロビンの根城に送っていた。
    「便利そうですけど、あんた本当にやる気?」
    「そのために開発したんだ、あとはこっちの小型マイク六チップをどうやって森君に埋め込むかだが」
    「俺はそれに関しては関わらないですからね、」
    「あてはあると言いたいが岡田君もあちらに寝返っているしな」
     だれかいないかと高杉があれこれ考えているが、一般人とはいえ武術の嗜みもあり体格の森に挑もうなどと言う相手はそういないだろう。
    「こういうのは、うだうだ考えていても解決しないでしょ、麓のばあさん達が日本人なら三味線弾けるか聞いてましたけど、あんた弾けましたっけ」
    「弾ける、得意だよ。イギリスにも趣味の良いご婦人がいたものだ」
     ここにあれば一曲披露させたいがという興奮気味の高杉だったがふと暗い顔をする。
    「森君はさ、侘びているのが好きらしいよ。三味線って侘びていると思わない」
     けどダメだったと、一瞬にして意気消沈する高杉に、ロビンはため息をつきながら答える。
    「持っているそうですよ、何年か前に骨董市で買ったはいいが師匠がいないからずっと飾ったままだって」
    「そうか……ここに彼女を呼ぶのは」
    「脚が悪くて出掛けられないそうです……」
    「都合が良すぎないか、僕がこれを完成した瞬間にそんなご婦人が出てくるなんて」
    「気のせいでしょ」
     ロビンは惚けるが三日もあれば、日本からイギリスに飛ぶのは可能だしここに森が来ていてもおかしくはない
    「決めるのはあんただ、仕事は助かったが正直こういったことには巻き込んで欲しくなかった」
     住所はここだとメモを置くとロビンは煙草を吸うと外に出て行く。
     前回は人間離れした行動でマンションの三階まで上がってきた森だったが、どこからともなく表れることはない
     疑り深かったかと反省し、ロビンが書き残したメモを取ると高杉は出掛けた

     三味線を聞きたかったご婦人は本当に存在したロビンに悪かったと思いながら演奏をすれば、演奏に感激した婦人は「私が持っていても宝の持ち腐れだから」と高杉に三味線を渡した。
     疑った手前のこのこ帰るわけにも行かず、ロビンもそろそろ出て行って欲しかったのは本音なんだろうと高杉は、謝罪のメールだけ打つとそのまま鉄道に乗ってロンドンまで出た。自然豊かな街から一変、大都会へ足を踏み入れた高杉は人混みをかき分け、ホテルを探す。寝られるだけで良いといくつか店を当たっている最中、久しぶりの逢瀬かタクシーから降りてきて早々に唇を重ね合わせるカップルに出会した。
     欧州はキスがスタンダードな挨拶だと思われているが、イギリスでは家族や親しい人にしか交わさない。
     ロビンやバーソロミューにああしてあっても握手だけで済ます。
     あんなに簡単にできたら良いのに、そう思ってももう遅い。
     最初に好きな奴は君だとはっきり口に出さなかった高杉も悪いが、森が律儀に守っているのも悪いと高杉は勝手に逆恨みしては落ち込む
    「キス……したかったな」
     せめて港で思い出代わりに貰っとけばよかったと高杉がぼつりと呟けば、誰かに腕を引かれる。
     むにっと微かに温かなものが唇に触れると、躰を一気に抱きかかえられる。
    「誰とキスしたかったって、そいつ誰だよ、」
    「バカなんでいるんだよ、離せよ、……君、今なんて、それよりも」
    「して欲しかったんだろ、後ろから丸聞こえだった」
    「嘘だ、僕が君に気づかないはずがない」
    「ほーんそうか。探したぜ、高杉。迎えに行こうとしたら縁談だなんだと、三日と明けずに女寄越してきて殺されてぇか」
     奥の手だと高杉が用意したのは森好みの男女だ。大和撫子は勿論、ただ侘びているだけでは食いつかないだろうとこれも人工頭脳を使い森に似合いそうな相手をセレクトした
    「君好みの侘びている女性、男もいたがなかなか良かっただろ」
    「よかねぇよ、嫌がらせだろ」
     途中で馬鹿らしくなって全部捨ててきたという森に高杉は困惑の顔をみせる
    「侘びている奴ならもう手に入れたしな、好きだぜ、高杉」
     背中の三味線を叩きながら森は微笑む
    「……!君はバカだ、折角僕が諦めようとしたんだ、逃がしてくれたら良かったのに」
    「攫うって言っただろう、お前が面倒くさい奴だって忘れていた、お前はどうなんだよ」
    「好きだ、好きに決まってるだろ、」
     逃げ回っていた僕だけがバカじゃないかと高杉が泣き出せば、森はからっと笑った後、何度も唇を重ねた。
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