突然ピンチに陥るtksgさんと、mrくんごぼ、と溺れるような音がした。
班行動での任務を終え合流地点を目指して歩いていたら突然大量に喀血した。前触れも何もなく、急に気分が悪くなったと思ったら地面に血をぶちまけていた。マスターに何か起こった、またはこれから起こると直感し先を急ごうとしたがまた咳き込んで足が止まる。突き刺すような肺の痛みに思わず呻く。激しい咳が止まらず肺の中の空気がどんどんなくなっていく。先を歩く同行人を呼び止めようとして、誰もいないのに気づく。しまった、殿を歩くんじゃなかった。……先に行っててくれたほうがマスターの危機には間に合うか。立っていられずうずくまり、何度も喀血を繰り返す。やっと吐ききったと思ったのも束の間、高杉は思わず目を見開いた。肺にどろりと液体が滲出してくる。息ができない。必死に吐き出そうとするが肺の中の空気はさっきの咳ですべて吐き出してしまっていた。補充しようにも喉を血がふさいでいて息を吸えない。
「がっ……あっ…………」
苦しい。息ができない。英霊なんだから息などできなくても、と一瞬思ったがそんなことはない。苦しい。痛い、喉をかきむしるがそんなことをしても血は出ていかない。のたうちまわって何とかげっ、と吐き出して、今度こそ息ができなくなった。体が動かない。意識が遠のく。水底に沈むように溺れていく。耳鳴りがする。何も見えない。
唇に異物感があってふっと意識が浮上した。何も考えられず柔らかい異物の感覚をなぞっていると、ずるっと喉から気管を引っ張り出された。異物に吸い出されている、肺ごと吸われる……!
「がはっ」
いや、正しくはそういう感覚がした。
げほげほと咳き込み肺の中の血を吐く。はぁ、はぁ、と息がはずんでおさまらない。まだ血が残っているのか咳に異音が混ざる。べしゃっと近くで同じ音がして、
「高杉」
誰かに呼ばれ、ぐいと抱き寄せられた。唇に柔らかい感覚。吸われる!と身構えたが体は欠片も反応せずそのまま中身を吸い出された。
「いいぞ、目ぇ開けとけ」
森くんの声。先を歩いていたのに戻ってきてくれたのか。少しほっとして、疑問を持つ。目は開いてないはず。だって何も見えない。
「高杉。息」
ごすっと胸を殴られて空気が漏れた。抜けた分だけまた空気が入ってくる。吐き出す力がなくて、漏れるに任せる。それでもうっすら空気は入ってきていて、何とか息はできていた。
これはダメかもな。
再び意識が薄れていく。けぷ、と小さく咳が出た。苦しい。また気道が塞がれる。吐き出したいがもうその力がない。さむい。凍りつくように体の感覚がきえていく。
ぽたぽたと腕にしたたるものがあった。じんわりと魔力を帯びたそれは皮膚越しにわずかながら吸収された。位置的に顔……額だろうか。なんでまたそんなとこ、傷入れて。君らしいけど。
「口開けろ」
遠くで森くんの声がする。口移しで魔力が流れ込んでくる。続けて何か言っているがさらに意識が混濁してきて何を言ってるのか聞き取れなくなってしまった。
頬に滴る液体が、血液にしてはずいぶんさらっとしているなと、そんなことを不思議に思った。