正月も過ぎ来たるバレンタインデーイベントの周回に向けて、マスター達が慌ただしく動く。
それを支える職員達もそれに備えて、余所のカルデアと連絡を取ったりと忙しく動き回っている。
この職員もその中の一人だった。
「なぁBって知ってるか」
情報交換を終え、そろそろ通話を切ろうとすると向こうの職員、スミスと名乗っている男が声をワントーンと落として話しかけてきた。
「なんだよ、Bって?バスターのBか」
「惜しい、バニーのBだよ。なんでもどこかのサーヴァントがエロい恰好で俺たちに接客をしてくれるらしい」
「えっそれって、まずいんじゃないのか、」
サーヴァントと同士の私闘の禁止はどこのカルデアも設けられいる条約であるが、それ以外は各々のマスターが決めている。
だいたいのマスターは英霊達を尊重しているため、よほどカルデアに迷惑をかけないこと以外はサーヴァントたちの自由にさせている。
メカニック好きが集まって何か作り出したり、時代の違う者同士が集まり毎夜酒盛りしていても、そこから恋愛に発展してもマスターはただ何も干渉しない。
だがどこにでもクズはいる中には見境もなしに美女や少女に手を出すマスターも存在する。そういったマスターはなぜか知らぬうちに消えていく。
電話の話が本当なら、そのマスターはいずれ抹消されるだろう。
「まぁな、でもさ、マスター同士お楽しみってのは今までも良く流れてきたけど一般職員にってのはなかったじゃん、だから……」
「お前まさか行く気か、」
マスターは流石に動けないが、戦闘のサポーターとしてサーヴァントが動けるのと同様に職員も短時間だけなら移動が出来る。
「だって仕方ないだろ……ちゃんちっとも俺に靡いてくれないどころか、あいつと」
スミスには恋焦がれたサーヴァントがいた。
彼女とお近づきになりたいと色々アプローチをした結果、マスターから接触禁止を言い渡された。
それでも優秀な彼に何もさせないほどカルデアは暇ではない。
職務はそのまま、ただ淡々と連絡係を続けていた。
「俺は行かない、お前も行かない方が身のためだと思うぞ」
「きれい事言ってろ……あとで後悔しても知らないからな」
しないと一方的に通話を切ると、ギビンズはため息をついた。
念のためマスターに報告しておくか。動き出したギビンズには何の迷いもなかった。
**
「いらっしゃいませ、Bにようこそ」
黒服は高杉かとスミスは久しぶりに着替えたネクタイを締め直しながら、己の顔と見比べる。
真っ赤な髪と対比する白い肌と勝ち気なつり目は正直、スミスが好きだったあの子に似ているが、高杉は男だ。興味はない。
「ご指名は?」
赤毛のサーヴァントをと口にすれば高杉が自分自身を指さすが、彼ではない。
フロアは日本の銀座のクラブをそのまま持ってきたかのように豪華であり、かの有名な作曲家達が交代でピアノを披露している。
もうすぐだ。もうすぐ、彼女に触れることが出来る、たとえあのカルデアの彼女でなくても、見た目は彼女なのだから問題がない。
「おまたせいたしました。当店赤毛NO.1の森君です」
存外に静かな足音で気づかなかったが、机に影が出来うっかり覗いてしまうとバニー姿のバーサーカー森長可がいた。
しかもエナメル革で全身を覆っているバニーではなく、筋肉質が剥き出しのまま腕と背中だけに布地がある、逆バニーだ。
「さ……詐欺だろう」
「詐欺じゃないぞ、バーサーカーのB、ボーイのB、サービスでバニーを付けて上げた」いらない……と言えたらどれほど楽だっただろうか、もしかしてとスミスは震える声で高杉に聞いてみる。
「もしかしてこの店、男のバーサーカーしかいない」
「ご名答、まぁ僕みたいにアーチャーもいるけど接客するのは彼らだよ」
なんてことだとスミスが項垂れていると、森がぽんと肩を叩いた。
「サービスです」
どこから取り出したのかオレンジを片手で搾るとグラスに注がれる。
流石筋力Bだ。
文句は言えない、覚悟を決めスミスはこの店から早く出られることを考えた。
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「ああ、あの店。なんかたまに出てくるんだよね」
マシュと二人、ようやく落ち着いたと寛いでいる藤丸に報告すれば、それがどうしたのという風に笑っている。
「ほら、なんとかしないと出られない部屋が出現する。あれと同じ原理なんじゃないかな」
うちではまだないけど、どちらかがバニー服を着ないと出られないというのが条件らしく、盛り上げるためにいくつかのカルデアからサーヴァントを連れ出すので、出没頻度は低いらしい。
「先輩、今回はバーサーカーでバスター宝具、しかも男性サーヴァント限定だったようです」
「うわぁ……、ありがとうマシュ。そんなわけだから気にしなくても大丈夫……」
じゃないよねと藤丸はギビンズの瞳を覗く。
「たまに客として誰かが連れて行かれる報告もあるけど、大体は戻ってくる、その……」呑み込まれる場合もあるわけだと藤丸は最後まで言わなかったが、ギビンズはなんとなく察した。
スミスの後任だと紹介された新任職員と連絡をはじめたのはそれから三日後のことだった。
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「なぁもう脱いで良いか」
「脱いでといっても君。ほとんど裸じゃないか」
僕ではなくて良かったと高杉が笑っていれば森は眼光鋭く高杉を睨み付ける。
バーサーカーがバニー服着ないと出られない部屋に連れ込まれた二人は、仕方なしに森がバニー服に着替えた。
いつもならここでおなじみの展開で、ベットは一つ枕は二つと部屋が出現するがどういう訳か今回は、クラブであった。
そこには森の他に、土方や坂田もおり皆渋々ながら着替えていた。
それから暫くして、ぞろぞろと客らしいモブ達が来たので高杉は黒服の真似をして店を回していれば、いつの間にかクリアしていたようで各自解散となった
「ん……なんだよ、ささっと脱げば良いだろう」
「テメェ最初、俺が着たとき笑っていたろ。今、殺してやる」
そう言いながら森はゆっくりと高杉のネクタイを解いていく。
「あ……ん、その恰好でするつもり」
せめて兎の耳だけでも取ろうとするが、身長差がどれほどあるのか届くわけがないと高杉は諦める。
「する、」
「そんな真剣な顔で言わないで、君って本当に面白い奴だね」
可愛いねと笑う高杉に、可愛いとは何だと言いたかったが森は、
「ほーん、じゃあかわいい兎に喰われてくれや」
「殺すんじゃなかったの」
「喰ってから殺す、」
「贅沢ものめ」
もう言葉はいらないと高杉は森に喰われて殺された。