キス誰しもあるだろう、何をどうやってもうまくいかない日。テスカトリポカにとってそれが今日だった。まさに最悪、不運続きの日。だから数日ぶりに会えたマスターに、出会い頭に不満をぶつけるのも仕方なかった。
2人の間を隔てる枝や豊かな花実をつける緑を掻き分けて、テスカトリポカはのしのしと近づく。言葉にしたって仕方のないことだとわかりながらデイビッドに散々なご登場だな、と吐き捨てた言葉の続きは、彼によって吸い込まれた。力強い抱擁と有無を言わせぬキスに、テスカトリポカは一瞬眉を寄せるが、すぐに受け入れて腕を回す。万の言葉より、ただ一度のキスが蟠りを溶かすことを2人はよく知っていた。
そしてテスカトリポカも、早く彼とそうしたかった。
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