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    kusamochi_uma

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    まひあぱろ わたるさん宅のケイトくんお借りしています。拙宅のトクサとのお話。あまりよろしくない話です。ご注意ください。

    その日確かに神をみた 初めて『仕事』で失敗しそうになった。いままでほとんど失敗したことがなかったのに、今回そんなことになった原因は僕の弱点に関係する。正直に言って、僕は幼い子供に弱い。罪のない子供たちを人質にとったプライドも誇りもない相手のやり方にまんまとはまってしまったというわけだ。かろうじて助けが来たからなんとか命は失わなかったけれど、命を失うことよりも僕はボスの信頼を失うことの方が何倍も恐ろしかった。今日はそんなボスからの呼び出しだった。正直満身創痍のこの姿をみられることも、失態について何を言われるのか恐ろしくて仕方なかった。僕の命は今日終わってしまうかもしれない。
     そう、思っていたのに。
    「ああ、随分と大変だったようだねケイト。傷は大丈夫なのかな。」
     ボスは全く怒りの感情を見せなかった。むしろ穏やかに微笑んでみせて、いや、まて。ボスが怒りの感情を表したことなんて滅多にないじゃないか。でも、労わるような言葉をいただいてしまった。もしかして僕は今日死なないのでは。そう一縷の望みを抱いたところで、ボスはゆっくりと口を開いた。
    「ああ、でも、失態は失態だからね。」
     ゆるりと口角をあげて、ボスは頬杖をつく。彼の一挙一動から目が離せなかった。
    「僕は君のことを買っているんだ。そんなケイトに、名誉挽回のチャンスをあげよう。」
    「! ありがとうございます。」 
     信頼を取り戻すためならいくらでもなんでもしてやる、と思っていたら背後から扉が開く音がして何人かの人間が入ってきた。ゆっくり振り返ると、そこにはまだ小さい少年が拘束された状態で二人の男に引きずられていた。その様子をみて、さっと血の気が引いた。まさか、いや、そんな。
    「今回のことを不問にしてあげるから、ソレ、片付けてねケイト。」
     ボスのその言葉を聞いた瞬間頭が真っ白になった。ソレ、とはどうみても目の前の、しょうねんの、ことで。は、と思わず息が漏れた。目の前がちかちかしてぐらりと眩暈がする。荒くなる息がボスにばれないように必死に堪える。冷たくなって感覚が鈍くなってきた指先をきゅっと握った。
     できない。できない。そんなこと。だって目の前にいるのは、あの子供たちと同年代の、少年で。はく、と声にならない声が口から零れた。言ってはいけない。逆らっては。ボスに、逆らったら僕が死ぬ。いま、ここで死ぬのが僕になるのか、目の前の少年になるのか。そしてどちらも死ぬか。その選択肢しかない。
     できません、と掠れた声で言おうとした瞬間、ボスの声がした。
    「僕の言うこと、聞けるよね。」
     有無を言わせない声色にとてつもない圧を感じて、僕は腰につけていた銃に手を伸ばした。震える手で、ゆっくりと照準を合わせる。耳鳴りがする。目の前の少年が泣き喚きながら首を振るのが見えた。耳鳴り。何も聞こえない。耳鳴りが、する。
    「ケイト。」
     ボスの声が聞こえた。
     引き金を、引いた。
     
     返り血を気にする余裕はなかった。目の前で赤の汚い花を咲かせたそれを撃ちぬいた瞬間、僕の中の何かも壊れてしまったような気がした。そう自覚した瞬間、込み上げた吐き気に口元を押さえる。おえと喘いでいると、後ろからやってきたボスが僕の頭をそっと撫でた。ゆらりとそちらに視線を向けると、ボスは慈愛に満ちた瞳を細めてそのまま僕の返り血のついたままの頬をなでた。
    「よくやったね、さすが僕のケイトだ。」
     いろんな液体でぐしゃぐしゃの顔に触ったら手が汚れてしまうのに、そんなの気にならないというように微笑むボスが僕の救いに見えた。思わずぽろぽろと涙をこぼすと、それを指先で拭ってボスはわらう。
    「僕がゆるしてあげる。君のこと。全部ゆるすよ。」
     そう言って細められたブルーグレーの瞳の奥に光を見てしまった。
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