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    kusamochi_uma

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    kusamochi_uma

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    Xにあげていた転+転のお話です。
    からぽさん宅(@ lanabineshita)ラーナくんをお借りしました。
    うちのトクサと一緒に書かせていただきました。
    お貸しいただきありがとうございました!

    一期一会「あ、やっほーラーナくん」
    「……来てたんだ」
    「うん、今日も来れちゃった」

     必要の部屋で本を読んでいると部屋のドアが開く音がした。どうやら彼が入ってきたらしい。僕は顔を上げてその人に挨拶をした。エキゾチックな顔立ちをした彼ーーラーナくんは、薄暗い部屋の中でそのロシアンスフェーンの瞳をきらめかせて小さく首を傾げた。

    「君、実は結構暇だったりするの」
    「まさか、僕も君と同じく課題に追われる日々だよ」

     そういうとラーナくんは、ふうんとあまり気のない返事をして目の前のソファーに腰かけた。そして、そんな彼の周りからひょこりと顔をのぞかせる半透明の猫たち。それを見た瞬間思わず目を輝かせてしまった。ばっちりラーナくんにそれを見られてしまい、照れくささからおほんと咳ばらいをする。
     すると、ふわりとラーナくんの膝から三毛猫が目の前にあるテーブルの上に乗るのが見えた。数度目の邂逅だから少しだけ慣れてきてくれたのだろうか。少しだけ透けた体を持つ三毛猫がとんとテーブルから飛び降りて、そのまま僕の足元にすりと体を擦り付けてくれた。
     はわ、とそれに感動していると向かいに座るラーナくんが目を細めるのが見えた。それが少しだけ嬉しそうな顔に見えたのが、見間違いじゃないといいと思う。


     僕とラーナくんの不思議な出会いはある日突然起こった。
     課題やフィールドワークでひどく疲れていた日のこと。その日はなんだかとても話し相手が欲しかった。フィグ先生はもちろん頼りがいのある人だけれど、今日に限っては自分と同じ秘密を共有できる相手が欲しいとつよく考えていた。
     もしかしたら、それが部屋に影響を及ぼしたのかもしれない。
     必要の部屋に入った瞬間、違和感を覚えた。いや、違和感なんてものじゃない。部屋の配置すらまったく違うものになっていたのだ。置いた覚えのない家具ばかり置かれていて、思わず首をかしげる。まさか、ウィーズリー先生が僕以外にこの部屋を教えた人がいたのだろうか。でも、先生なら教えたことを事前に報告してくれるだろうし。
     おそらくこの必要の部屋の存在を知っているのはほとんどいないし、入り方も知らないだろうと思っていたのだけれど。そんなことを考えながら、せっかくだからちょっと観察しようとぐるぐると部屋の中を歩き回る。
     ああ、この配置だと植物を効率的に育てられるなとか考えたり、ポンポン跳ぶポットがたくさん跳んでいてちょっとかわいいなと思ったり。部屋の中を観察し始めてすぐに『僕の』必要の部屋ではないとわかった。でも警戒心は持ちつつも部屋の効率的な配置を参考にできそうだななんて、のんきなことを考えていた。
     それからすぐ、がちゃんとドアの開く音がして部屋の主が帰ってきたことがわかった。はっとして、慌てて身を隠そうとするけれど、僕が隠れるよりも先に部屋の主が現れるほうが早かった。
     褐色肌の黒髪の青年。年は僕と同じくらいだろうか。僕を認めて目を見開いた彼の瞳はとても印象的なエメラルドブルーだった。警戒した様子で杖を取り出す彼に弁解をしようと両手を上げかけたときだった。
     不意に猫の鳴き声がした気がして首をかしげると、目の前の彼の周りにうっすら透けている猫が何匹か浮いているじゃないか。

    「猫……?」
    「! ……このこたちが見えるの?」
    「え、うん。……半透明なんだけど、もしかして君の守護霊とか、なのかな?」

     僕のその言葉を聞いた彼は一気に瞳を輝かせて、先ほどの警戒はなんだったのかずんずんと近づいてきて目の前に立った。近くで見ると僕よりも大きくて、見上げる形になる。不思議な色の瞳にじっと見下ろされて、なんだかとても落ち着かない気持ちになった。

    「僕以外にこの子たちが見えたのは初めてだよ」
    「……そう、なんだ。かわいい猫たちなのにね」
    「! わかってくれるかい」

     そういって嬉しそうに目を細めた彼は、ぐるぐると喉を鳴らして頭を擦り付けている猫を優しくなでた。動物に優しい人にわるい人はいない。いつか誰かがそう言っていた気がする。
     彼のその姿をみたからだろう。少しだけ緊張がゆるんで、深く息を吐いた。


     それから話し合った結果、おそらく僕たちは違う世界線の似たような存在なのだろうということになった。なぜかこの必要の部屋だけが僕と彼、ラーナくんの世界をつないでいるらしい。何度か試してみたけれど、僕はラーナくんの世界のホグワーツに出ることはできないし、ラーナくんは僕の世界のホグワーツに出ることはできなかった。
     普通ならこんな検証やりたがらないだろうけど、そこはさすがレイブンクローというべきか。驚くべき探求心から普通なら頭のおかしいと思われる仮説を立てて、それを証明してしまった。すごいなあと思って素直にほめると、ちょっとだけ照れたように目元を染めるから失礼かもしれないけど、ラーナ君のことがなんだか大きい猫にみえてきてしまった。
     しかも一度つながってしまうと、そのあとつなげるのは案外容易らしい。僕が彼の必要の部屋に遊びにいくこともあれば、時々ラーナくんが僕の必要の部屋の隅で丸くなっていることがある。初めてそれを見つけたときは驚きすぎて悲鳴を上げてしまった。
     閑話休題。そんな感じで細々と二人きりの交流、いや猫たちもいるから正確には二人きりではないのだけれど、時々思い出したように遊びに行く関係になっていた。

    「トクサ」
    「なに? ラーナくん」

     三毛猫くんからなでるお許しをもらったので、そのふわふわを堪能していると彼から声がかかる。

    「うちのヒッポグリフ、子供が生まれたんだけどみる?」
    「! みる!」
    「じゃあ、こっち来て」

     ラーナくんに誘われるがまま飼育部屋へと向かった。僕があまりにそわそわしているからか、ラーナくんはそんな僕をみて笑っていた。しょうがないじゃないか、だって生き物が好きなんだから。
     ヒッポグリフの小さきいのちを遠くからじっと見つめて思わずため息をつく。

    「やっぱりかわいいね」
    「かわいいよね動物」
    「ずっと見ていられるなあ、そういえばうちはグラップホーンのちいさき命がうまれたよ」
    「!」

     僕の言葉にきらりと目を輝かせる彼。最初こそ感情が分かりにくそうな感じがしたけれど、もしかしてラーナくんって結構わかりやすかったりするのかな。なんだかちょっとだけかわいらしく見えて、僕は笑みを浮かべた。

    「今度、うちの部屋に遊びにおいでよ」
    「ぜひ、そうさせてほしい」

     若干食い気味に返事が返ってきて、今度こそ声をあげて笑った。
     この不思議な出会いが許される限りは、こうやって時々会えるといいな。古代魔術に振り回される生活の中で、この時間は少しだけそれを忘れられる貴重な時間だった。できれば、いつ切れてもおかしくないこの不思議な関係が続きますように。
     次の機会があることを願いながら、僕と彼は必要の部屋で別れ、そして出会う。
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