からっぽ雲ひとつない夏の空から降り注ぐ日差しの中で、ひとっこひとりいない、誰も知らない真っ白な浜辺で大好きな君と遊ぶ。ズボンをたくし上げてざぶ、ざぶ。やわらかい砂に足が沈む感覚がくすぐったい。
「えい」
ざばりと海水を手で巻き上げて、波打ち際で遠くを眺めている彼に浴びせかける。
「 ざぶ、ざぶ 」
ほっぺたを少し赤くして怒った、でもどこか楽しそうな顔で、彼もこっちに来た。きっと文句を言ってるはずなのに、波に言葉が攫われてしまって聞こえない。
ばしゃん。仕返しといわんばかりに彼も僕に海水を浴びせてくる。彼は得意げな顔をして楽しそうだ。
濡れた服が肌に張り付いてちょっと動きにくいけど、それさえも楽しい。
「あはは、楽しいね!」
きっと、今の僕は誰が見ても百点満点をつける笑顔を浮かべているだろう。だって、大好きな君と二人っきりで遊んでいるんだから。
「 ざあん、ざあん 」
彼も笑いながら言葉を返してくれた。でも、その言葉も波の音に掻き消されてなんにも聞こえやしない。
ざあん、ざあん、ざあん。
波の音がだんだん大きくなっていく。目覚めが近い。でも、まだ、まだだ。だって、まだ君の名前を呼べていないのに。気づけば空には星が瞬いている。ぎっしりと空を埋め尽くす光。ひとつ、ふたつと流星となって落ちていく。きっとこれは今回の終わりへのカウントダウン。星がすべて落ちたとき、この世界は終わる。彼の姿がぼやけて遠ざかっていく。
「ねえ!待って!待ってよ! !」
彼の名前が出てこない。喉元で言葉が引っかかる。必死に走って、彼の背中に手を伸ばす。それでも全然届かない。待って、待ってよ。
「待っててば!ル」
あ!と思った瞬間に目の前が真っ白に光って、僕はすべてを奪われた。
カーテンの隙間から差し込んでくる陽の光が無理矢理僕を引きずり起こした。僕は髪の毛をぐしゃ、と掻き混ぜた。あと少しだったのにな。あと少しで彼の名前を知れたのに。何度も夢を見る。本当にいるのかもわからないきれいな男の子と遊ぶ夢を。
「はやく、君に会いたいな」
今日は休みだからもう一度寝よう。次の夢で最後にしたい。きっと、名前を知れば会える。そんな根拠のない確信がずっと胸の中で渦巻いている。