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    桜妓紅蓮

    @Guren_Amylase

    腐も夢も好き。
    書きかけのものを試しに投稿するのに使用予定です。

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    桜妓紅蓮

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    りかあまの書き出し(ちょっと増えた

    午前二時の鐘を聞け午前二時の鐘を聞け

     あの大事件からわずか三日後。その日の朝のカリスマハウスは荒れていた。
     朝食から数十分後。元凶である依央利は小さな旅行鞄を片手に玄関で地団太を踏んでいた。
    「やだー! 出ていきたくない! 僕皆さんに奉仕したいのにー!!」
    「うっせーな。さっさ行けよ」
    「やーだー!!」
     対峙する猿川の素っ気なさがより依央利をヒートアップさせる。
     喧騒を聞きつけた五人がなんだなんだと集合した。会話の内容と依央利の形相に驚く者と落ち着いている者の割合はほぼ半々といったところか。誰が何を言うべきかと顔を見合わせているさなか、ひときわ落ち着いているふみやが依央利に言った。
    「あれ、依央利まだいたんだ」
    「ちょっとふみやさん!?」
     ひときわ慌てている理解がホイッスルを吹く。
    「なんてことを言うんですか! 依央利さんがハウスから追い出されようとしているんですよ!? ……はっ、まさかふみやさんが? ふみやさんが依央利さんに命令したんですか!?」
     大瀬も理解の背後で眉根を寄せてふみやを見ていた。ふみやはいつもの無表情のままに「え?」と戸惑いの声を漏らす。寸の間を置いて「ああ!」と声を上げたものだから、皆の目は再度依央利に向くことになった。視線を一気に浴びた服従のカリスマはゆっくりとうつむいた。長い前髪のせいで表情を伺うことはできない。
    「依央利さん?」
    「いおくん?」
     暫く黙っていた彼だが、理解と大瀬の声を聞き絞り出すように言った。
    「……う、なんです……」
    「ん?」
    「依央利さん、今なんと?」
     ガバリ! 勢いよく顔を上げた自称奴隷の暗い瞳には大粒の涙。ぎょっとする一同などお構いなしに、国民の犬は吠えた。
    「今日から二日間、出張なんです――!!」



    「しっかしまあ――」
     依央利がいなくなり静かになったリビングにて、猿川はドサリとソファーに腰を下ろした。
    「一泊するくらいであんなに騒ぐかよ。ガキ相手じゃあるめえし」
    「君は十分ガキでしょ」
    「ンだとコラ」
     ダイニングを一瞥したテラはため息をついた。
    「作り置きを沢山作ってくれてると思ってたら、今回のためか」
     つられて猿川もダイニングテーブルを見た。置かれているのはおかずの詰まった大量のタッパー――ではなく、二日間の献立が書かれたメモと、大量のサプリメントの瓶だった。ちなみにタッパーは普段使い用の冷蔵庫と今回のために特別に作られた冷蔵庫にたっぷり収納されている。
    「サプリはやりすぎだろ。二日間作り置きばっか食ったってどうにもなんねーよ」
    「依央利くん、普段から色々考えて作ってくれてるんだからサプリはいらないと思うんだけどねえ……でも一生懸命作ってたし」
    「作ってた? サプリを?」
    「うん」
     そんなやり取りを背後で聞きながら、理解は献立メモとは別に書かれた一枚の紙を睨みつけた。天彦と大瀬もそっと覗き込む。
    「食器洗いやお風呂掃除は許されているようですが、洗濯や大がかりな掃除をしたことが発覚した場合は奉仕レベルが強化されるのか……本来ならば自分のことは自分でやるべきだと言うのに……」
    「ですが衛生面に関しては依央利さんなりに譲歩してくださっているようですよ。食器洗いやお風呂掃除が許されている辺りにセクシーな葛藤を感じます。ああ、お風呂掃除……ふふ……」
     大瀬は「ヒッ」と小さな悲鳴を漏らした。「これ以上奉仕レベルが上がると、僕たちどうなってしまうんでしょうか……」
     各々で最悪の事態を想像した三人は黙るしかなかった。
     ふみやは戸棚から取り出した瓶からクッキーを一枚手に取り、「サプリかあ」と頬張るのだった。



     数時間後、昼食を依央利の献立メモに従って済ませた六人はこの世の終わりのような目でサプリメントの瓶を見下ろしていた。きっと綿密な計算によるものなのだろうが、摂取するよう指示された種類の多いこと。一錠ずつ飲んだ場合でもコップ三杯の水は必須だろう。
    「お腹ちゃぽちゃぽになっちゃうね」
    「ですが栄養摂取はとても大切なことです。皆さん、頑張りましょう」
     先陣を切る理解に続き皆で錠剤を水で流し込んでいく。自らもそれを行いつつ、天彦は理解の上下する喉ぼとけをぼんやりと眺めていた。
     仕方がない状況だったとは言え天彦が理解の童貞を奪ってから三日。理解からその話題を持ち出されることは一度もなかった。
    ――責任を取れと言われると思ったのですが。
     理解にとってあの夜の出来事は二人が被害者の交通事故のようなものだった。だから天彦を咎めるつもりは毛頭ないのだ。しかし世界セクシー大使はそれを知らない。
    ――なかったことにしたいと思われてたら、嫌だな。
    ――こんな風に思うなんて僕らしくない。
     お互いに合意を取った上での愉しいワンナイト。嫉妬心どころか寂しささえも抱いたことはないのに。
    ――あんなにセクシーな姿を他の誰かになんて。
     この先一生他の誰のことも抱かないでくれ。湧き上がる身勝手な願いを叫べたらどれほど楽だろう。独占欲によく似たこの感情が何なのか、天彦には思い出せなかった。
    「天彦先生」
     透明感のある心地よい声に意識を浮上させた。草薙理解は力強く頷いた。
    「あと二つです。もう少しですから頑張りましょう」
     あなたは三日前に純潔を奪った男にそんなに爽やかに笑いかけるんですね。喉元まで出かかった言葉を咄嗟に飲み込み、代わりに掌の中を見た。無意識のうちに飲み進めていたようで、確かに残りは二錠だった。
     頑張れ天彦。お前ならできる。他の面々も口々に天彦を励ます。薬嫌いの子供じゃないんだからと笑おうとして五人は天彦にいたく気遣っているということに気付いた。確かに三日前に無理矢理飲まされた媚薬も今回のサプリメントも錠剤なのだから天彦が不安を抱いてもおかしくはないのだ。サプリメントの製造者である依央利もそのことはわかっているようで、よく見れば錠剤一粒一粒にアスパラガスやさくらんぼ、きのこのイラストが彫られていた。
    「天彦、お腹がいっぱいになってきました」
     そう笑った後に残りのサプリメントを全て口に放り込み、コップに三分の一ほど残っていて水と共に飲み込む。ぷはーっとあからさまに息をつけば五人の表情がいくらか和らいだ。
     六人のことが好きだ。改めて自覚したこの事実が今日はやけに照れくさくて、隣にいる理解の肩をごまかすように抱いた。
    「お昼のお皿洗いは僕と理解さんで担当します。終わったら少し外出しますね。次のダイレクトセクシャルミーティングの準備があって――」



     天彦を見送った理解はダイニングチェアにくたりと腰かけた。いつでもどこでも姿勢正しく。普段なら簡単なことなのに、ある悩みが秩序の天秤を傾けていた。
    ――天彦さんと性行為をしてから三日も経ってしまった。今後の関係について話し合わなければならないのに……
     やむを得ない状況で双方の合意があったとは言え天彦は理解の純潔を奪った。しかし三日が過ぎても理解の中に天彦を咎める気持ちは全く沸いてこず、むしろこれからもそうだろうという確信を抱くのみだった。だが理解は秩序のカリスマ。彼の辞書にハッピーセクシーワンナイトという文字は存在しない。
     しかし。
    ――天彦さんは気にもしていないのだろうか。
    ――ふざけるなエロガッパ。こっちはずっと悩んでるっていうのに!
     テーブルに突っ伏して、色が白くなるほど拳を握った。気づきたくなかったこと、思い出したくなかったこと。全てが頭の中で暴れ回る。
     あの夜、状況に飲まれていたのは否めないにしても確かに理解は天彦に欲情した。自慰に耽る天彦の声を聞いただけで射精し、性に溺れる彼の姿を浅ましいと嫌悪するどころか美しさと愛しささえ見出した。もしも性のカリスマであれば、そういうハッピーセクシーワンナイトもあると一つ頷いて終わりだろう。だが理解は秩序のカリスマ。導き出された答えは一つ。
    ――それはつまり、私は先生を好きだということで……!!
     もしも住人の誰かが理解の頭の中を覗けたとしたら、そうとは限らないと助言をくれただろう。たとえ非童貞になったとしても草薙理解は初心で真面目なのだ。身近な人間への性欲と恋愛感情がイコールで結びつかない筈がないと考えていた。
     一度そう勘違いしてしまったが最後。天彦の一挙手一投足、呼吸の音、まばたきさえも気になって仕方がない。幸か不幸か天彦は変態であるという点を除けば紳士的で誠実な男だ。理解は本当に恋に落ちようとしていた。
     伏せていた顔を勢いよく上げる。心配で様子を観察していた大瀬が上げた悲鳴も届かないほどに、理解の頭の中は覚悟の二文字で埋め尽くされていた。
    ――天彦さんが帰宅したら話し合おう。大丈夫。私は逃げない。私ならきっとできる!

     そんな理解の覚悟など露知らぬ天彦は夕食の時間になっても戻らなかった。
     約束と違うじゃないか。それ以前に門限破りだ。内心で毒づいているうちに皆食べ終えてしまって、再びサプリメントを飲んでいく。自覚はなかったが動きが散漫になっていたようで、気付けば理解以外は飲み終えていた。
    「若旦那、食器はあっしが洗っていやすので……ごゆっくりなさっててください……」
     大瀬の厚意に甘え、理解は空になったコップに水を注いだ。その他の面々は自室にでも戻ったのか姿が見えない。
     錠剤を口に入れ、焦って喉に詰まらせないように多めの水と共に飲み込む。繰り返していけばようやく全て飲むことができた。達成感に浸る間もなく「これも」と白い掌に黄色の錠剤が落とされた。
     え、といつの間にか横にいたふみやを見るも、慣れとは恐ろしいもので理解は「はい」と短く応え流れるようにそれを口に含んだ。コップに半分残った水を煽るのとダイニングのドアが開かれたのはほぼ同じタイミングだった。
    「すみません、遅くなってしまって――えっちょっと理解さん!? 今何を飲みました? ふみやさんもしかしてその瓶の中身……あ、ああ……なんてことだ……エクスタシー!!」



    「つ、つまり……状況を整理すると……」
     理解を背に庇うように立つ大瀬は声だけでなく全身を震わせ、硬い床に正座させられたふみやと天彦を見下ろした。ほんの数分前までは赤らんでいた顔色は今は真っ青で、当事者となってしまった理解の方がまだ落ち着いているように見えた。
    「天彦さんはこの前の媚薬――クソが天彦さんにURLを送ってしまったあの媚薬を本当に個人的に購入された。そしてつい昨日届いたものをデスクに置きっぱなしにしていた」
    「はい」
    「そしてふみやさんは鍵が開いていることをいいことに天彦さんの部屋に侵入し、媚薬を箱ごと持ち出し、しかも理解さんに飲ませた」
    「うん」
    「ど、どうしてですか!?」
     久しぶりに聞く気がする大瀬の大声にキッチンの窓が揺れた。その声に釣られ天彦と理解も次々に抗議する。
    「二重三重におかしいでしょうふみやさん! なぜ僕の部屋からポーションを盗んだ上に、それを理解さんに飲ませたんです!」
    「そうですよふみやさん何してくれてるんですか! 第一ふみやさん、天彦さんが大変だったとき一番怒ってたでしょ! 普通同じことする!? 理解これからああなるってこと!?」
    「なるだろうね」
    「いけしゃあしゃあと――!!」
     ぞくり。只ならぬ気迫を感じた理解と天彦は口をつぐんだ。殺気という名の地獄の炎を纏った大瀬の声は静かだった。
    「ぶち殺します――ふみやさんに天彦さん」
    「わあ」
    「僕も!?」
    「お、大瀬くん!?」
    「そしてその後このクソも死にます。クソが天彦さんにURLを送らなければこんなことにならなかった。死んでお詫びします」
    「大瀬くん待って理解お兄さんそれ全然望んでないよ!? コラ、ナイフを離し――ッあ……」
     確かに聞こえたあえかな声に、ダイニングに沈黙が走った。
     大瀬の髪の先が服越しに理解の首元をかすめた。
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