100日後にくっつくいちじろ11日目
「二郎!じろー!」
本日の山田家、全員オフ。
夕方から久しぶりにホットプレートでたこ焼きパーティでもするか、なんて話になっているが予定はそれだけだ。三人とも家でゴロゴロとのんびり過ごしていた。昼前に起きて、洗濯物と掃除だけやって、適当に昼食を済ませてサブスクで映画を見て。その後、各々、スマホをいじったり、ラノベを読んだり、ゲームをしたり好きに過ごしていたそんな時。長男が興奮した様子で二郎を呼んだ。来い来い、とジェスチャーをされ、近付くとスマホの画面を見せられる。
「おま、推しのイベントあんぞ。ブクロで!」
「え、うわ!マジじゃん!いつ?抽選?」
「会員限定で先行受付してるってよ、ほら、申し込め!後でやろうとすると絶対忘れるだろ!」
「やるわ!今すぐやる!」
二人が推しているソシャゲの、二郎の推しキャラが絡むイベントの発表。二郎は慌ててスマホで申し込みをはじめた。またやってるよ、と三郎は気にせずゲームを続ける。
「来月だって。兄貴も一緒にどう?」
「おう、いいな。三郎は?」
「あ、大丈夫です」
「即答」
とりあえず二人で申し込みをする。また楽しみが増えてしまった、なんて盛り上がっていると「そういえばグッズも新しく予約始まるらしいな。メイトで告知出てたんだよ」と一郎が思い出したように情報を口にして自身のスマホのフォトデータを漁り始めた。え、どれ?と画面を一緒に覗き込む。
一郎のフォトデータはほとんどがオタク関連の情報のスクショや、推しのスチル画像、仕事用に必要な写真、好きな海外ラッパーの写真、そして弟達の写真であった。スイ、スイ、とスワイプして目的の写真を探しているとき。
「あ」
「え」
推しのガチャイベスケジュールのスクショ画像の後、二郎の寝顔の写真が出てきた。え、と固まる二郎を他所に、ヤベッとあからさまにギクリとする一郎。慌てて次へスワイプするが二郎本人はバッチリ目撃していたので兄の腕を掴んで止める。
「なに、今の」
「べべべ別に」
「凄く分かりやすい動揺」
無理矢理に画面をスワイプして戻すと、やはり二郎の画像だった。一郎のベッドでうつ伏せで、よだれを垂らしながら爆睡しているではないか。何故、こんな間抜け面の写真が?
「何これ!いつ?」
「……この前、俺の部屋でアニメ見たろ。その途中でお前が寝落ちした時」
「え、何で撮ってんの」
「なんかお前、いつもうつ伏せで寝るなーと思って」
「いや撮るな撮るなー!恥ずいじゃん!消してよ!」
「ええー…SNSには絶対アップしねえからさあ」
「当たり前だよ!」
そのままその写真を削除しようと二郎の指が画面を滑るが一郎がスマホを離して阻止した。消せ、ヤダ、消せ、ムリ。応酬が続く。が、最終的に僅かなリーチの差で一郎からスマホを奪うことは出来ず。
「…分かった。俺も今度、兄貴が爆睡してる写真撮るわ」
「撮るな撮るな」
そんなやり取りをしながらも一郎はその写真を消されないように保護したのだった。
2024.11.3