100日後にくっつくいちじろ98日目
風邪をひいたので犬の散歩を代行してほしい。
そんな依頼が急遽入り、メッセージで兄の承諾を得て二郎が出動した。小一時間、指定された散歩コースを回って家に送り届ける。内容はシンプルだが、相手は走り回るのが大好きで体力が有り余っている大型犬。三郎は無理、と首を横に振ってノーを出した。これこそ二郎にうってつけだろう。そう背中を押された。二郎もジョギングがてらいいかもな、と快諾し、学校帰り、無事に依頼を果たした。
そして帰り道。二郎は夕飯のことを考えながら、あることを思いついた。三郎に「夕飯はつくらなくていいぞ」とメッセージを入れるとその足で近所のファストフード店へ向かう。
「と、いうわけで今日は二人でハンバーパーティーな」
二郎はハンバーガー、ポテト、ナゲットやらを買い込んで帰宅した。兄もいないし、これから二人で作るのも面倒だし、たまにはいいだろうと。兄貴には内緒でハメ外そうぜ。にひっと笑って両手一杯に抱えたそれを開封していく二郎に「まったく」と口では言いながらも三郎は楽しそうに袋の中身を覗き込んだ。
▼
「おーい、風呂いいぞ」
「本当に烏の行水だな……ちゃんと洗ってるのか?」
「うっせ!お前が遅いんだよ」
たらふくハンバーガーを食べて風呂に入った二郎。三郎にバトンタッチをして、冷蔵庫に入れていたコーラを飲む。時刻は既に21時。
「……兄貴、返信こないけどまだ仕事してんのかな」
ぽつりとキッチンに二郎の独り言が落ちる。依頼を終えて完了報告を夕方にして以降、兄からの返事がない。それどころか既読にすらならない。二郎は何度目かのメッセージ確認をしたが、新着メッセージはない。
「今頃、なにしてんだろ……」
ソファーに座って、兄のいる地方の天気予報をアプリで無駄に確認していると、そのとき。
「!」
ブブ、と二郎のスマホが震えた。一郎からのメッセージだ。家族三人のグループメッセージに来たそれを開く。
『返事遅くなって悪い。仕事長引いてた。散歩の依頼ありがとな!』
二郎の気分は上昇した。良かった。現地に無事に着いた連絡はあったけれど、仕事で何かトラブルがあったわけではなさそうだ。早速、返信を打つ。
『兄貴おつかれ!いま三郎は風呂だよ』
『ちゃんとメシ食ったか?』
ぎく、としつつも返事を打つ。
『うん、ちゃんと食べた。兄貴は?』
『これから。カップ麺だけどな』
『お店とかないの?』
『結構な田舎でさ。周りに何もねえんだよ』
いつもリビングにいる時間に、兄がいない。不思議な感覚だ。別にこれがはじめてというわけでもないのに、二郎は既にどこか寂しい心地に襲われていた。
「明日もいねえのか……二泊って結構長いな」
こてん、とテーブルに顔を乗せて、二郎は兄からのメッセージを指でなぞった。
2025.2.4