100日後にくっつくいちじろ61日目
山田一郎、本日の仕事は、ひと足早いが門松やら正月飾りの搬入である。町内のあらゆる依頼先へ周り、運搬をする。「クリスマス終わったらすぐに正月、なんて日本人は切り替えが異常だよね」なんてお客さんと笑いながら仕事をして、あっという間に15時を過ぎていた。ちらほらと制服姿の学生が町を歩き出す頃合い。そろそろ弟達も帰宅する時間だ、なんて貰った差し入れの缶カフェオレを飲みながらコンビニ前で休憩をしていた一郎。すると。
「あ……」
前から二郎が歩いてきた。周りに友達らしい同じ制服姿の男子生徒が三人。一郎はなんとなく二郎の邪魔をしたくなくて、サッと死角になる位置に移動した。だってアイツ、あの夜から俺と顔を合わせるとビビるんだもん。なんて心の中で言い訳をした。
二郎達はガヤガヤとコンビニに入って行く。……カフェオレはまだ残っている。一気に飲み干して行くか、と思っていると二郎達が程なくして出てきてしまった。いや買い物早いな、なんて思っていると、どうやらレジで肉まんを買ったらしく、入り口の邪魔にならない位置で食べ始めた。会話が聞こえる。
「だからさ、俺としてはもうイヴもクリスマスも家から出たくないワケ。だってどうせみんなデートしてんでしょ?じゃあもう家で籠城してた方が安全じゃん!心が」
「いやお前、妹に馬鹿にされっから嘘ついてでも出かけなきゃって言ってなかったか?」
「でも、妹に張る見栄と自分の心の健康を天秤にかけたら、そりゃ家でオカンの作るメシ食う方がいいじゃん!?」
「あー、うるせぇな!近所メーワクにんだろ!」
「そういうジロちゃんはどうなんだよ!どうせ何もないだろうけど!」
「あるわ!」
「えっ」
友人達と同じタイミングで一郎も「えっ」と声が漏れた。慌てて口を塞ぐが、同じタイミングで声を上げたので気付かれてはいないらしい。それよりもクリスマス、予定があるという二郎が気になる。悪いと思いつつも聞き耳を立て続ける。
「え、まさか女の子……じゃないよな、ジロちゃん」
「置いていくなよ……」
「そうだよ、クリスマスはそもそも家族と過ごすものであって…」
こくこく、友人達の台詞に一郎も頷く。
「だーっ、うるせぇな!普通に兄貴の仕事の手伝いと、家族でメシ食うんだよ!立派な予定だろうが」
「ああー、よかった。それでこそジロちゃん」
ほっ、と胸を撫で下ろす一同プラス、一郎。
お前らな、と顔を引き攣らせる二郎に、友人のひとりが「あー、てかさあ」と話を切り出した。
「やっぱクリスマス当日の夜もダメだよな二郎は」
「おう、なんで?」
「いや、実は俺、中学の頃の面子と女の子でご飯食べんだよね。ジロちゃん呼んで欲しいって言われてたんだった」
「はあ?いや、悪ィけど行かねえよ…お前しか知らねぇし気まずいし……そもそも仕事と家族の先約あるし」
「だよな、オッケー」
「えっ、じゃあ俺!俺が行きたい!」
「俺も!」
「いや二郎指名だから」
「くそ!」
御一行はそれから少しだけクリスマスについて食っちゃべって、そして暫くしてダラダラとコンビニを後にした。一郎もすっかり缶の中身をカラにしていて、停めていた車へ戻る。
「女の子のいるパーティーね…」
やっぱ誘われるよな、二郎は。モテるしな。ウン。一郎は兄として家業を手伝わせてしまい、せっかくのクリスマスに遊ばせてやれない申し訳なさと、しかし迷いなく断って、家族三人で食事をすると言い切った二郎に少しの嬉しさと安堵を感じながらエンジンをかけたのだった。
2024.12.23