100日後にくっつくいちじろ78日目
「兄貴、入るよー」
20:00、夕食を終え、二郎は兄の部屋を訪れた。昨日よりは熱が下がったものの、まだ微熱が続いてる状態。学校は普通に行けと言われたので行くには行ったが放課後はダッシュで帰宅した。
「おー……今何時だ…?」
「8時過ぎ。三郎は今風呂に入ってる」
「そんな時間か…時間感覚バグるわ」
「分かるよ、昼も寝てるからね。熱は?」
「7度5分」
「だいぶ下がったね…!」
すとん、と床に座り込み、兄の顔を覗き込む。ゴロンと二郎へ体を向ける一郎。昨日よりは顔色がいい気がするが微熱が続いてしんどそうだ。
「昨日よりは声もマシになってるね」
「おう、ただ体の節々が痛ぇ」
「あー、そうだよね。あ、俺押すよ」
布団をまくり、足や背中をトントンとマッサージする要領で叩く。あー、と気持ちの良さそうな声。
「尻が痛くない?俺この前風邪引いた時ケツが一番痛かった」
「え、分かる。すげぇ痛い」
だよね、と二郎は兄の尻を拳でトントンと叩く。すると一郎が笑い出した。
「気持ちいいが、すげぇ図だな」
「兄貴のケツ、硬ぇー!」
「恥ずいわ」
そんな会話ができるくらいには回復しつつあるようだ。暫くマッサージしてやってからシーツを整え二郎は再び床に座り込んだ。
「二郎、お前逞しくなったな」
「え、そう?」
「ああ、風邪ひいてもテキパキ動いてくれてさ。安心して熱出せるぜ」
「熱は出してほしくないけど、それなら良かった」
ふと、一郎はシーツの中から手を出した。何か取りたいのかと「スポドリ?」と尋ねるが一郎の手は二郎の手を掴んだ。
「え、どうしたの兄貴」
「……なあ、二郎」
「う、うん」
「こんな優しくしちまっていいのかよ、俺がお前のことそういう目で見てるの忘れたのか」
じい、と見つめられて固まる。しかしどうにか声を振り絞った。
「いいのか、って、そりゃ心配だし、家族だから……当たり前でしょ」
「家族だからか…なあ、もう俺で良くないか?」
「え、お、ええ…」
「アー駄目か、家族だもんな。普通にダメなんだった」
「あ、兄貴…もしかしてあんまり自分で何言ってるか分かってない……?」
すると一郎はウトウトと船を漕ぎ出す。瞼がゆっくり降りてきて、ア、絶対に寝るじゃん。と二郎は気づいた。そしてそのまま一郎は完全に目を閉じて寝息を立てはじめた。
「はー……っ」
ビビった。二郎は項垂れた。正面切って口説くようなことを言われたのははじめてだ。寝ぼけてたみたいだが。マジで好きなんだ、と何度目かの再確認をした気がする。
二郎の手を掴んだまま寝てしまったので二郎が離すしかないのだが、なかなか振り解くことができず暫くそのまま兄の寝顔を眺めたのだった。
2025.1.9