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    夏 子

    @cynthia7821

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    A英とまほ晶におねつ

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    夏 子

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    ネロ晶♂
    文化祭×メイド(フォ学パロ)

    メイドは正義三校が合併してから初めて行われるフォルモーント学園の文化祭は、準備の段階からとにかく盛り上がっていた。元芸能校の生徒の中にはすでにアイドルやインフルエンサーとして表舞台で活躍する者も多いので、参加出来るのは学園の生徒とその家族、関係者に限られてはいるものの、普段あまり顔を見せないような面々も多く訪れている。
    そんな学園全体が浮き足だった雰囲気を、かったるそうに頬杖ついて学食の売店カウンターから眺めているのは、この学園に通う元不良校のネロ・ターナーだった。普段であれば、昼時には列をなす売店も、文化祭となれば話は別だ。通り過ぎる生徒たちを気だるげな視線で右へ左へと追いかけながら、深い溜息をひとつこぼした。
    「おい、ネロ」
    「……んだよ」
    「そんなおっかねぇ顏してたら、誰も寄り付かねぇぞ?」
    不意に降りた人影に顔をあげれば、そこには紙コップに山盛り入った唐揚げを頬張るブラッドリーが眉をひそめて立っていた。「うるせぇな」と舌打ちをして、カップの中から唐揚げをひとつかすめとり、ぽいと口の中に放り込んだ。少し冷えてしまっているが、隠し味のガーリックパウダーが良いアクセントになっていてなかなか美味い。
    ブラッドリーはそれに対して特に文句を言うでもなく、不機嫌一色なネロを物珍し気にじろじろと眺める。
    「晶は一緒じゃねえのか?」
    「……」
    「っはは。ネロ、お前もかわいいとこあるな。お前の不機嫌の原因って、晶か」
    ブラッドリーの言葉に答える代わりに、眉間に深く皺を寄せる。
    少し前に転校してきた真木晶は、誰にでも優しく朗らかな性格で、一癖も二癖もある生徒たちが集まるフォルモーント学園に驚異的なスピードで馴染んでいった。ネロと晶はクラスも違うので、最初こそ接点もなかったが、どういうわけか元不良校の生徒会長であるミスラやブラッドリー達も晶を気にかけているようで、気づけばネロとも顔を合わせる機会が増えていた。
    「隠すなよ。付き合ってんだろ」
    「……そうだけど」
    「一緒に回らなくていいのかよ」
    「生徒会の手伝いが忙しいから無理だって、断られた。仕方ねえよ」
    そう、友人たちにはまだきちんと伝えていないのだけれど、ネロと晶はつい最近お付き合いを始めていた。隠しているつもりはないのだが、なんとなく未だに表立って周りの友人たちには言えずにいる。晶は真面目で優しいから、転校したてだというのに、すでにたくさんの教師や生徒に好かれている。周りには、カインやヒースクリフ、クロエなど、顔も良ければ才能も溢れる魅力的な友人だってたくさんいた。なぜ自分なんかを選んでくれたのかネロには理解出来ないし、正直言えば自信だってない。
    自分なんかとお付き合いしていることが周囲にバレでもしたら、晶はきっと質問攻めにあってしまうに違いない。ネロは晶のことが大好きだからこそ、そんな余計な負担をかけたくなかった。
    本音を言えば、今年の文化祭だって晶と一緒に回りたかった。色々な屋台や出し物を覗いたり、後夜祭の花火を一緒に見上げたりしたかった……けど。
    肩を竦めるネロに、ブラッドリーは残りひとつとなった唐揚げを口に放り込みながら、小さく首を傾げた。
    「……変だな。晶なら、ひとりで廊下を歩いてるところを見たぜ」
    「は?」
    「ありゃどう見ても生徒会の仕事って感じでもなかったが……って、おい!」
    腰に巻いていたエプロンを勢いよく抜き取り、ブラッドリーへと投げつける。不満げな声を漏らしたブラッドリーに「今度、なんでも好きなもん作ってやるから!」と鍵をカウンターに叩きつけた。背後では、ブラッドリーがまだ何かを言っていたが、気も逸っているせいでもはやネロの耳には届かない。
    足早に食堂を出て、校舎へと続く渡り廊下を抜ける。辺りをきょろきょろと見渡しながら、晶の姿を探した。腹の奥底で、ぐつぐつと怒りが煮立っているのを感じる。
    文化祭に誘った時の晶の顏が脳裏を過った。
    晶は、とても困ったような顔をしていた。えぇと、と珍しく口籠り、そして生徒会の仕事が忙しいのだと小さく漏らした。少しの時間だけでも、そう言い募ったネロにそっと視線を合わせて、「ごめんなさい」と謝っていた。
    制服のポケットからスマホを取り出し、晶の番号をタップする。コールは数回鳴るものの、電話には出ない。こうなったら、手当たり次第に校舎を歩いて回るしかない。ぎゅっと拳を握りしめて、校舎内に入ろうとしたその時だった。
    「なあなあ。あそこでチラシ配ってる子、マジで可愛いんだけど」
    「どこ……うわ、ほんとだ。声かけちゃう?」
    男子生徒二人がそわそわとしながら視線を向ける先に、ネロもつられて視線を向ける。
    そこには、仕立ての良いクラシカルなメイド服を身につけた女子生徒が、おそらくクラスの出し物の宣伝チラシを抱えていた。道行く人に、一枚一枚丁寧にチラシを差し出しながら、にこりと笑うその横顔に、とくりと心臓が跳ねる。肩までかかる紫がかった紺色の髪のせいで、はっきりとは見えないが、正直ちょっとタイプだな……と考えて、慌てて首を横に振った。
    ぼんやりとしていたネロの横を男子生徒達が足早に通り過ぎ、先ほどの宣言通り興奮気味に彼女へと話しかけていた。
    (……あれ?)
    声を掛けられた彼女は、チラシを抱えながら困った様子で小さく俯き首を横に振る。男子生徒達は、なかなかもらえないイエスの返事に焦れたのか、彼女の腕を半ば無理矢理掴んだ。
    「あっ!」
    ばさりと、チラシが地面に散らばった。表を上げた彼女の顔を見た瞬間、ネロは大きく目を見開き、考える間もなく駆け出していた。走り寄るネロに気づいた男子生徒達は、横取りされるのではと警戒を露わにし、彼女の腕を握る力を強める。
    「……晶!」
    「ね……ネロ……どうして」
    その問いには答えずに、晶に触れる男子生徒をぎろりと睨みつける。ケンカなどしなれていない様子で、彼らは殺気立つネロを前にこくりと息を呑むと、奪い返す気概もなくブツブツと文句を言いながらそそくさと去っていった。
    「はァ」
    ネロの大きな溜め息に、紛うことなきメイドの女装をした晶がびくりと肩を揺らした。
    先ほどの男子生徒達が興奮するのも、よくわかる。だって、晶の女装はネロもびっくりするほど似合っていた。
    地毛と同じ色のウィッグは肩につくくらいの長さで緩く巻かれ、晶が動く度に柔らかく揺れる。薄くファンデーションの乗ったきめ細やかな肌は桃色のチークで健康的に色づき、印象的な夜色の瞳に合わせたアイメイクが施された目元はきらきらと輝いた。瞬きするたびに長い睫毛が頬に影を落とすのを、ネロはじっと見つめた。
    「……なんだよ、その恰好……」
    なんとか絞りだした声に、晶があまりの恥ずかしさに今にも泣き出しそうな顔をする。それさえも可愛らしくて、ぐっと喉の奥が鳴った。
    「俺のクラス、メイド喫茶なんです」
    「知ってる……けど、晶は裏方って言ってなかったっけ。ウソついてたわけ?」
    「そうじゃなくて、いや、そうなんですけど……ごめんなさい」
    必死に感情を抑え込もうとしているのに、口からは晶を責めるような言葉ばかりが飛び出す。ガシガシと頭をかき乱しながら、晶の手首を掴んだ。
    「えっと、ネロ、俺……まだチラシを配り終えてなくて」
    言いかけた晶の言葉は、自分に向けられたネロの視線によって喉の奥に封じられてしまった。逃がすつもりはないとばかりに、手首を掴んだまま地面に散らばったチラシを掻き集めたネロは、そのまま晶を引きずるようにしながら、校舎内にある空き教室へと向かって行った。

    窓際に立つ晶が、申し訳なさそうにネロを見上げた。窓の外からは、生徒達が文化祭を楽しんでいる声が僅かに届く。腕を組み、黙ったまま晶を見つめるネロを前にして、フリルのついたエプロンをぎゅっと握りしめた。
    「メイドさんをやるはずだった子が、風邪を引いてしばらく学校に来られなくなっちゃったんです」
    「ふぅん、それで? なんで晶がそんな格好してるんだよ」
    「……みんなそれぞれ役割があって。せっかくクロエがデザインから手掛けた衣装でしたし、体型的に俺しか着られる人がいなくて……たぶん、ちょっとした悪ノリみたいなのもあったと思うんですけど」
    明らかに不機嫌なネロの様子を伺いながら、晶がぽつりぽつりと経緯を説明する。ちょっとした悪ノリ、だと⁉ 未来のファッションデザイナーとして服飾業界から常に熱い眼差しが注がれているクロエが手掛けたとあって、メイド服はネロでも分かるくらい丁寧で美しい仕上がりである。スカート丈が足首まであるクラシカルなタイプで、清廉な空気を纏う晶にそれはよく似合っていた。
    「何で、言ってくれなかったんだよ」
    「……言ったら、ネロは俺のクラスに来ましたか?」
    「そりゃ、行くに決まってんだろ。こんな可愛い晶が接客してくれるんだし」
    その言葉に、晶はぷくりと頬を膨らませた。もじもじと指をいじりながら、視線を落とす。
    「だからイヤだったんですよ」
    「えっ」
    さすがにショックだった。一応、ネロは晶の恋人のはずだ。ネロとしては、晶と文化祭を一緒に回りたかったし、クラスの事情であるなら仕方がないが、ウソなんかつかずに教えて欲しかった。こんなに可愛いメイドになった晶が、知らないところで、知らない男たちを主人としてもてなしているだなんて。燃え上がる嫉妬でどうにかなってしまいそうで、結局は今こうやって余裕のないところばかり見せてしまっている。
    「晶?」
    「ネロも、こういうのが好きなんですね」
    予想外の言葉に、ネロは目を丸くする。理由は分からないが、晶はとても悲しそうだった。ふわりとなびくスカートを見下ろして、今にも泣いてしまいそうだ。
    「……何回も言われたんです。俺を見て、かわいいとか、こういう女の子と付き合いたいとか」
    「はァ⁉」
    「恥ずかしかったのもあるんですけど、俺……自信がなくて。この姿を見て、俺が女の子だったら良かった……とか、ネロに思われたら悲しいな、なんて」
    「バカだろ」
    「はい。馬鹿でした」
    まだ付き合って日も浅いんだ。信用されないのは、仕方ない。必死に心の中で自分を納得させながら、いじらしい晶をそっと抱きしめた。柔らかな夜色の髪を梳こうにも、ウィッグが邪魔だ。キスをしても、つややかなリップに甘い感触を阻まれる。
    「メイド姿の晶はめちゃくちゃ可愛いけど、俺はいつもの晶がいちばん好きだよ」
    「ネロ」
    「信じてくれる?」
    真っ直ぐに瞳を見つめて問いかければ、うるうると視界を滲ませながら、こくりと晶が頷いた。まるで本当に夜空に星が瞬いているみたいだと、ネロは思った。目元を赤く染めながら、恥ずかしさに俯く晶に、腹の奥がずくりと響く。
    それはそれ、これはこれ。自分以外の大勢の人間が、メイドの晶に給仕されていたのかと思うと、やっぱり悔しくて悔しくて仕方ない。もっと余裕のある恋人でいたいのに。別に女の子がいいワケじゃない。メイドコスが好きなワケでもない。ただ、自分の知らない晶の顏があることが嫌なだけなのだ。
    「ウソついたこと、謝ります。許してくれますか?」
    「……じゃあ、晶がその恰好でやったこと、俺にもやってよ」
    「えっ、ええ?」
    「他の男は知ってて、俺だけ知らないのはなんかヤダ」
    「ネロって、変なところで対抗心がありますね」
    呆れた声音でそう言った後に、「あはは」と晶が声を上げて笑った。目尻に浮かんだ涙を人差し指で拭いながら、握りしめていたせいで皺になってしまったエプロンをそっと伸ばす。
    一歩、ネロから離れて晶はにこりと笑みを浮かべた。

    「おかえりなさいませ、ご主人様」

    ぺこりとお辞儀をして、ネロを椅子に座らせた。心臓がドキドキと大きく鼓動する。
    (晶が、俺の専属メイド)
    まだ十七歳なので、稚拙な妄想にごくりと息を呑みながら、スマホでそっと晶のメイド姿を隠し撮りする。ぱしゃりと、大きな音が空き教室に響いた。
    「あっ、無断撮影は禁止です!」
    「す、スンマセン」
    「プラス三百円で、一緒にチェキならとれますよ」
    「払います」
    「嬉しいです。ご主人様」
    あれだけ恥ずかしい、見られたくないと言っていた晶は、案外ノリが良かった。ネロの言葉を信じてくれたようで、堪らなく嬉しい。
    恋人特典で、ネロの膝に腰を下ろした晶が、チェキの代わりにネロのスマホで一緒に自撮りをしてくれた。可愛らしく微笑む晶と、でれでれとした表情を隠せていない自分がフレームに収まっている。太股の上に乗ったまま、スマホの写真をネロに見せようとする晶が動く度に、そのまま押し倒してしまいたい欲求を抑えるのに必死だった。
    晶の様子を伺いながら、そっと腰のあたりに手を回す。こっそりスカートの裾から指先を忍ばそうとしたけれど、慌てた晶の手によって阻まれてしまった。
    「コラ、ご主人様!」
    「……ダメ? 恋人なんだから、他の客が見てない晶の姿が見たいんだけど」
    拗ねて見せれば、頬を赤くした晶がもじもじとしながら「クロエの服を汚したくないです」と言ってネロの胸元に頬を寄せる。晶の熱が伝染したかのように、ネロの身体も熱くなる。
    「あー……そっか。そうだよな」
    「はい。それに、そろそろ教室に戻らなくちゃです」
    「それじゃ、俺も行く」
    「えっ、ネロも?」
    「可愛い晶を他の男に見せたくない。俺が晶の代わりに給仕でも裏方でも手伝うよ。だからさ」
    「だから?」
    「帰りにドンキで寄って、メイドコス買お。続きは俺の部屋で……」
    「ネロのスケベ」
    ぽかん、と叩かれたけれど、全然痛くなかった。じとりとネロを睨みつける瞳の奥には、確かな熱がくすぶっている。
    「晶と色んな事がしたいだけだぜ」
    まぎれもないネロの本音に晶が呆れた表情をしたところで、スカートのポケットに入れられていたスマートフォンが振動する。いつまで経っても戻ってこない晶を心配して、クラスメイトが連絡をしてきたようだ。
    「もう行かなくちゃ」
    すとんとネロの膝から降りて、腕を引く晶に目を丸くする。緩やかに靡くウィッグの隙間から覗いた薄い耳たぶが、熟れたトマトみたいに真っ赤になっているのを見つけて、口角が上がった。
    自然と漏れる上機嫌な鼻歌に、恨めし気な顔をした晶が、ぺちりとネロの腕を叩くのだった。
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