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    夏 子

    @cynthia7821

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    A英とまほ晶におねつ

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    夏 子

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    ミス晶♂
    パイレーツオブまほやく①

    海賊パロ!①(ミス晶♂)この世界との別れを、なんとなく感じたその瞬間、晶の体が薄っすらと光始めた。込み上げる想いをぎゅっと押し殺しながら、もう二度と会えないだろう彼らに微笑む。彗星の天使として役目を無事に終えることが出来てよかった。寂しいけれど、あるべき居場所に、夢で聞こえた声達の元に、きっと晶を待っている仲間がいるだろうから。透け始めた手のひらを見つめて、そっと握りしめた。
    「ネロ、みんな……さような」
    ガシャーーーーーンッ
    「えっ⁉」
    激しい音と共に、建物の壁が吹き飛ばされる。噴煙の中に影をうつす黒く不気味な影、一瞬の硬直の後に、フォルモーント・ネービー大将であるムルが「伏せろ!」と咄嗟に声を上げた。耳を劈くような銃声が暗闇に向かって放たれる。徐々に薄れる煙の中から現れたのは、巨大な吸盤のついた触手だった。数千年の大樹の枝のように太い足をうねうねと不規則に動かしている。
    「……マジかよ、あれは……」
    どんな不利な状況であっても、動揺を見せないブラッドリーの声に僅かに焦りが滲んだ。太い触手は、まるで鬱陶しい小虫でも払うかのように触手を一振りするだけで海底に沈むウンディーネの遺跡を躊躇いもなく破壊する。不思議の力が働いているせいなのか、今のところ海水が雪崩れ込むことはないが、それもいつまで持つのかも分からない。
    「え、ちょ、わわわっ!」
    ぎょろりとした大きな目玉が、淡い光に包まれた晶の姿を捉えた。ネロは瞬時に、晶と怪物の間に割り込み、ナイフを構える。けれど大きく振りかざされた触手はいとも簡単にネロを吹き飛ばし、晶をその光ごと絡めとってしまった。海軍も、海賊も、立場や身分も関係なく、怪物に向かって武器をとる。己の力と引き換えに世界を救った彗星の天使をみすみす海の怪物にくれてやるわけにはいかない。けれど、まるで雨のように放たれた銃弾も、分厚い肉を骨ごと切り裂くナイフも、弾力のある巨大な海の怪物に傷ひとつ負わすことが出来なかった?
    「ね、ネロ……!」
    「晶!」
    触手に囚われた晶の体から、いつの間にか光が失われていた。伸ばされた指先に必死に手を伸ばす。後、ほんの少し。ぐっと力を込めた瞬間、それすらも嘲笑うかのように怪物は晶の体を抱き込むようにして、巨体に見合わぬ素早さで破壊しつくした建物から海中へと姿を消してしまったのだった。

     ***

    ザ、ザザ――
    意識の遠くに聞こえたのは、潮騒の音だ。嗅ぎ慣れた海のにおい。塩気のある風が晶のまろい頬を撫でる。引き上げられるように、ゆっくりと瞼を開けると、そこはウンディーネの遺跡でも、海賊船の船上でも、ましてや元居た場所ですらなかった。ぐるりと辺りを見渡せば、どうやら晶は薄暗い洞窟の中にいるようだった。少しづつ暗闇に慣れ始めた目を凝らしながら手探りで岩肌を撫でる。ごつごつとした岩肌は海水に濡れてじめじめとしていた。ゆっくりと身体を起こして、自身の状態を確かめるが、特に怪我をした様子もない。彗星の天使として役目を果たした晶は、元居た場所に戻るはずだった。それが、まさかあの瞬間、突如現れた巨大な海洋生物に攫われることになってしまうだなんて。
    てっきり、あのまま怪物のエサとして食われるのだと思っていたが、どうやらこの洞窟へと連れてこられてきたらしい。
    「……みんな、心配しているよね」
    何とかしてこの場所から抜け出し、まずは無事を知らせなければ。意を決して立ちあがろうとしたその瞬間、かちゃりとつま先が何かを蹴った。何だろうと首を傾げて足元を見た晶は、思わず大きく目を見開いた。岩の隙間から差し込むわずかな光をまとってきらきらと輝く。そこには目を見張るほどの財宝があまりにも無造作に山積みになっていた。
    「もしかして、あの大きなイカが集めたのかな」
    「イカじゃないです。クラーケンですよ」
    しっとりと濡れた低音が、狭い空間に響いた。ぎくりと身体をこわばらせ、声の方へと顔を向ける。手に持った松明に照らされたそこには、燃えるような赤髪を持つ青年が気怠げな様子で晶を見下ろしていた。腰には銃らしきものをさしており、その頭には見覚えのある特徴的な帽子が乗っている。まずい、と思った。多分、間違いなく、目の前に立つこの青年は海賊だろう。暗闇でもわかるほど、整った顔立ちをしているが、表情は乏しくそのエメラルドグリーンのような瞳からは一切の感情を読み取ることができない。
    盗人だと誤解されてこの場で撃ち殺されることはなんとか回避したいところだ。晶は震える手のひらをぎゅっと握りしめながら、なんとかこの状況を説明するために口を開いた。
    「信じてもらえないと思いますが、違うんです! 俺、大きなイカ……じゃなかった、クラーケン? に捕まって、気づいたらこの場所に連れてこられていて」
    「……クラーケンが、あなたを?」
    「そうなんです! てっきり晩ご飯にされちゃうかと思ったんですけど、目を覚ましたら財宝の山に寝かされていたんです。嘘じゃないです!」
    赤髪の青年は、ことりと首を傾げながらじっと晶のことを見つめている。本当に突拍子もないような話に思えるが、決して嘘などついていない。そのことを必死に訴えるように晶は真っ直ぐに青年を見上げた。
    「おかしいな。俺は、クラーケンに美味いものかきらきらとひかるものを持ってこいと命令しているんです。あなた、別にきらきらなんてしていないですよね」
    きらきら、その言葉に「あっ」と思った。ミスラにとってのきらきらひかるものは、イコールこの場所にあるような金銀財宝を意味しているに違いない。けれど、確かに晶はあのとき光に包まれていた。役目を終えて、元居た場所に戻る瞬間、柔らかな白い光が海底に満ちていた。クラーケンは、薄桃色の海を漂う中でそれを偶然見つけたのだろう。
    ミスラは、愕然としている晶の前に腰を下ろした。そして、むぎゅっと片手で乱暴に晶の両頬をはさみ、右に左にとまじまじ観察した後、ぐっと顔を近づけてくんくんと匂いをかぐ。
    「ふぅん」
    青年は何に納得したのか、どこか満足そうな様子を見せたかと思えば、くぱっと口を大きく開き、そのままがぶりと晶の首元に噛みついた。
    「ぎゃっ!」
    「あはは、冗談ですよ」
    びびりまくる晶の反応がよほど面白かったのか、上機嫌に笑い口角をあげる。
    「この海域は俺の縄張りです。磁場が強いのでコンパスも役に立たない上に海流も激しいのでそもそも侵入しようとして出来る場所じゃないんですよ」
    「そ、そうなんですか……」
    「おまけに塩分濃度も異常に高いせいで、銀波桜さえ生育しない死の海と呼ばれています。食べ物を手に入れるのに少し苦労しますが、静かで良い場所です」
    青年は、晶の反応など気にする様子もなくただ淡々と話をしながら、そばに落ちていた流木に松明の火をうつし、晶へと手渡した。ついてこいと言いたいらしい。くるりと背を向けてすたすたと歩き始めた青年の後を必死に追う。想像以上に洞窟は深い。時折吹き抜ける冷たい空気に、出口までの距離が近いことを知る。目の前に開けた真っ青な海は、晶がブラッドリーやネロと航海した桃色の海とまったく異なるものだった。けれど、不思議なことに晶にとってはこちらの色の方がよほど馴染み深く感じる。ざくざくと真っ白い砂浜を踏みしめながら、流木を組み立てただけの簡易的なテントが張られた場所に着く。青年は、そのまま敷布の上にごろりと寝転んでしまった。
    「あの……」
    「とりあえず、ここまで案内すればいいでしょう。あとは家に帰るなり好きにしてください。ただし、俺の物に手を出したら殺します」
    すっかり晶に対して興味を失った青年は、それだけを晶に伝えてまぶたを閉じてしまった。晶は途方に暮れながら、きょろりと辺りを見渡した。白い砂浜の奥は深い緑に覆われている。ミスラは海賊のようだが、ブラッドリーが率いる海賊団のようにボスや子分もいないらしい。彼は、たったひとりこの孤島を根城にしているのだろうか。
    くぅ、と鳴る腹を両手でおさえる。晶など警戒するにも値しないと言わんばかりに背中を向けて寝転がる青年を見遣り、晶は沿岸にそって歩き始める。覗き込んだ海は澄んだ青だけれど、青年の言うとおり魚やその他の生き物が住める環境ではないらしい。仕方がないので、群生林に足を伸ばせば、運良く食べられそうな木の実や果実をいくつかみつけることが出来た。浜辺に戻り、集めた木の枝に松明の火をうつす。腰を下ろして、晶はそっと己の手のひらを空にかざしてみる。光に包まれたあの瞬間、透け始めた身体はすっかり元通りである。太陽が傾き始めた水平線は漆黒の海と太陽の橙が混じり合い、近づく宵闇の空気を濃くしていく。押しては返す波の合間に、ぽちゃんと何かが跳ねた。
    「なんだろう」
    ざぱん、と大きな飛沫をあげて現れたのは晶をこの孤島まで連れ去ったクラーケンだった。太い触手をうねうねとさせながら、ぎょろりとした大きな丸い瞳に晶をうつす。改めて見る巨大生物にごくりと息を呑む。信じられないことだが、青年がこの怪物を使役しているらしい。恐怖にどきどきと大きく鼓動する心臓を必死に抑えながら、静かに後退りする。
    太い触手が海面から伸びて、晶の前に何かを差し出した。どさりと目の前に落とされた物たちを見て晶は目を丸くする。そこには、立派な魚が数匹と大ぶりな貝がごろごろと転がっていた。驚いてクラーケンを見上げれば、見た目によらず「きゅう」と可愛らしく鳴き、丁寧に晶を抱え上げた。理由はよくわからないが、どうやら晶はこのクラーケンに随分と気に入られているらしい。死の海では生き物は暮らしにくいと聞いたので、おそらくこの魚や貝も遠くの海で見つけてきたものだろう。
    「あ、あの……ありがとうございます」
    お礼を言って、そっとクラーケンの身体を撫でる。赤黒く表面にはフジツボやら貝やらが層をつくりごつごつとしていたが、気持ちが良いのかきゅるきゅると鳴きながら抱えた晶を上機嫌に揺らす。
    「わ、わっ、わわっ」
    まるで幼子を高い高いとあやすような仕草に、恐怖心も水泡のようにしゅわしゅわと消える。晶は破顔し、自然と笑い声が漏れた。
    「……楽しそうですね」
    聞こえた声にハッとして身体を起こす。砂浜には、いつのまにかクラーケンの飼い主である青年が、ぼりぼりと頭をかきながら気怠げな雰囲気を滲ませながら立っていた。
    「あなた、何者です?」
    「えっ……と」
    青年は晶を見た後に、砂浜に置かれた魚や貝を見る。腕組みをしながら小さく首を傾げた。
    「クラーケンは弱い者の言うことなんて聞きません。こいつは海の強者です。力で捩じ伏せて、言い聞かせて、ようやく使役することが出来るんです。あなた、どうやって手懐けたんですか?」
    「手懐けるなんて、俺は何も」
    「ふぅん 俺以外の人間に尻尾を振るの、なんだかムカつきますね」
    青年がじろりと睨めば、クラーケンはおずおずと抱えていた晶を砂浜に降ろす。そして、これ以上主人の機嫌を損ねるのはゴメンだと言うかのように、ぼちゃんと大きな波飛沫をあげて海に帰って行った。

    ***

    青年が備蓄していた薪を重ねて燃やしながら、晶は先ほどクラーケンに贈られた貴重な食材を小枝に突き刺して炎の傍に立てる。腰を下ろし、焼き加減を確認しながらちらりといつの間にか隣に座る青年を見上げた。エメラルドグリーンの透き通った瞳に炎をうつしながら、じっと焚き火に視線を向けている。
    「俺、晶といいます」
    そういえば、自己紹介すらしていなかった。晶はそう思い立って、青年に向かって自分の名前を告げる。ブラッドリーやネロと暮らした少しの日々で、晶は自分自身が彗星の天使という存在である、ということを知ったのだけれど、既に役目は終えているし、あえて彼にそれを告げる必要はないだろう。
    青年は、「はぁ」と気の抜けたような合槌を打ち、少し考えるそぶりをみせながら、「ミスラです」と言った。
    「ミスラは、海賊なんですか」
    「まぁ、そうですね。そう呼ばれることが多いかな」
    「あはは、何だか曖昧ですね」
    「そういうあなたは、どこから攫われて来たんですか」
    「……俺も、その、海賊船で暮らしていたんですけど……」
    晶の言葉に、ミスラは意外に思ったのか僅かに目を見開く。
    「へぇ、意外だな」
     焦げ目のついた魚を手に取り、頭からむしゃむしゃと食べる。ミスラの横顔はとても整っていて、独特の色気が滲んでいるが、どこか野性味のある仕草に思わず見とれてしまう。同じ海賊であっても、ブラッドリーやネロとはまた違った魅力のある人だ。
    「食べないんですか」
    口元に食べかすをたくさんくっつけながら、ミスラが魚の突き刺さった枝を晶へと向けた。おずおずと受取りながら、晶は小さく首を傾げる。
    「いいんですか?」
    「あなたが俺のクラーケンに貢がせた物でしょう」
    「貢がせたって……あの、いただきます」
    ひとくち魚に嚙り付いた瞬間、晶はじぶんがずいぶん腹ペコであることに気が付いた。思えば最後に食べ物を口にした時からあまりにも色々なことが起こりすぎて、空腹であることすら忘れてしまっていた。ぱくぱくと魚を頬張る晶をじっと見つめながら、ミスラは最後のひとくちを放り込む。
    「……図々しいことは百も承知なのですが」
    「なんですか?」
    「仲間が見つかるまで、ご一緒させてもらえませんか」
    意を決してミスラにお願いをすれば、ミスラはあからさまに面倒そうな顔をして、小さく首を傾げる。
    「俺は、どこかの海賊団みたいに弱い人間と群れて行動するようなことはしません」
    「お願いします。ミスラの邪魔をしないように気をつけますし、俺に出来ることは何でもしますから」
    「……なんでも?」
    「はい、なんでも」
    夜の色に星を散りばめたような瞳が、ミスラをうつしてきらきらと揺れる。常にたったひとりで海を渡り、今や賞金首として海軍に追われる身だ。足手纏いなど必要ない。海に放り出してしらんぷりしてしまえば良いのに。夜を閉じ込めたようなこの瞳を、もう少しくらい眺めていても良いかな……そんな些細な気まぐれだった。
    「それじゃあ、あなたは今から俺の子分ですよ。歯向かうことは許しません」
    「アイアイ・キャプテン!」
    ぱっと、敬礼する晶に、満更でもない気分になる。
    ミスラはゆるりと口角を持ち上げ、傍に置いてあった酒瓶に口をつけた。荒れ狂う海で、数多の船を沈めてきたクラーケンに懐かれた稀有な青年。正体についてまだはかり知れないところはあるが、もしも歯向かうことがあれば殺してしまえばいい。その時がくるまでは、暇つぶしにでも使ってやろう。
    考えながら、ふわりと大きな欠伸がミスラの口から漏れた。
    「眠いですか、ミスラ」
    「はい、まぁ。でも、いくら眠くても、眠れないんですよね、俺」
    「え、どうして」
    「深海の魔女に呪いをかけられました。彼女のペットがどうしても欲しくて、譲るように頼みにいったんです」
    「……それって、もしかしてあのクラーケンですか」
    「おおきくて、強くて、かっこいいでしょう」
    「ええと、はい。たしかに」
    自慢気に言うミスラに、晶はこっくりと頷く。
    自然と、指先を伸ばしてミスラの目元をなぞっていた。普段であれば、他人に触れさせることなど決してないはずが、自然とその仕草を受入れる自分にミスラは不思議に思う。

    「眠れないのはつらいですね」
    「そうですよ。なので、晶はしっかりと俺を労わってくださいね」
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