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    #聖ギ_腐公式
    #早瀬の水は泉に溢るる

    本編③、金で繋がる関係から本当に両想いになる話。
    モブレ未遂あり。
    苦手な方はご注意ください。

    はやいず本編③ 誰にも許したことのない、二回目の逢瀬だった。

    「ねぇ、泉。やっぱお前のこと好きになっちゃったんだけど……泉の気持ち、オレにくれない?」

     ベッドの上、裸のまま背中から抱き締められた腕の中で、癒月泉はその告白を聞いた。しっとりと濡れた肌、厚く逞しい体、爽やかな中に落ち着いた香りのするオードトワレ。
     つい、と彼、射守谷快惺を見上げると、真剣なサファイアの瞳が泉を見つめていた。

    「……言ったでしょ、それなら、俺を本気にさせてみせてよ」
    「ああ、もちろん」

     最中の激しさとは打って変わった優しい口付けが降り注ぐ。嘘か本当かわからない。信じるのは怖い。でも、本当だったらいいのに、と、思わずにはいられなかった。

    ◇◆◇

    「泉、好きだよ」
    「早くオレのものになって」
    「オレのこと好きになった? 泉」

     あれから何度逢瀬を重ねただろうか。呼んで、と言われたけれど、泉がそれをする前に快惺は三日とあけずに泉に会いたいと連絡を寄越した。
     会う度に囁かれる愛を乞う言葉。今までも優しくしてくれる人はいたけれど、こんなにも激しく泉の心も欲しいだなんて求めてくれる人はいなかった。
     毎回きちんとお金をくれて、でも受け取る度に罪悪感が募っていく。ぐらぐらと揺れる気持ち。快惺に見つめられると、何もかも委ねてしまいたくなる。そんなことできるはずもないのに。泉では快惺に到底釣り合わないのだから。

    「はい、これ今日の」

     差し出された封筒にはいつも通りの金額が入っているのだろう。泉自身が提示した契約の証。偽りの愛の証明。
     言うつもりのなかったそれが零れたのは、無意識だった。

    「……お金、いらない」
    「えっ」

     快惺の驚いたような声でハッと我に返る。丸く見開かれた目に見つめられて、泉は慌てて首を振った。

    「あ、いや、違っこれは……」

     言い訳したくても、言葉が出てこなくて。これ以上見られたら、本心を暴かれてしまいそうで。

    「泉っ! 待って!」

     気がつけば泉はその場を逃げ出してしまっていた。

     ホテルを出てからも振り返らずに走って、走って。人混みを掻き分けて、自分がどこを走っているのかもわからないままひたすらに駆けて。

    「はぁっ、はぁ……」

     動かしていた足をゆっくりと止める。乱れた呼吸を少しずつ落ち着かせて、ようやく周りを見ると、そこは小さな公園だった。通りにはまだ人の流れがあるが、そこだけ外界から切り離されたように静かで。泉はふらふらと小さなブランコに腰を下ろした。

    「俺、なんであんなこと……」

     金で買って買われる関係。そうでないといけないのに。本当は気付いている自分の気持ちを認めるのが怖い。だからこのまま契約の関係を続けて安心していたかった。ぬるま湯に揺蕩うような、いつでも抜け出せる関係でいたかった。
     ぐるぐると思考が同じところを巡っている。信じたい、でも怖い。求めてほしい、でも逃げ出したい。認めたい、認めたくない。
     頭の中はいっぱいいっぱいで、だから気付くのが遅れてしまった。

    「おねーさん、こんなとこでどうしたの」
    「こんな時間に一人でいたら危ないよ~?」

     ハッと顔を上げると、いかにもチャラそうな男が二人、泉を囲むように立っていた。慌てて立ち上がって、男達の間を抜けようとしたが、にやにやと笑う男達はわざと泉の進路を塞いでいる。

    「……大丈夫、そこどいてくれる?」
    「あれ? あんた男か」
    「まぁいいよ、一人ならさぁ、俺らと遊ぼ」

     引く気がなさそうな男達は、泉の腕を掴んでぐいと引き寄せた。その瞬間にぞわりと沸きあがる嫌悪感。

    「っ! やめ、離して!」

     泉よりも上背のある男達は、いとも簡単に泉の腕を持ち上げ、ずいと顔を近付けてくる。
     いやだ、嫌だ気持ち悪い。こんなこと今までだって何回もあったのに、明らかな意図を持って触れる手が、かかる息が、不快でしょうがない。久しぶりに触れられる快惺以外の手には、違和感しか感じなかった。

    「痛っ、は、なせっ……!」
    「そんな嫌がんなくてもいいじゃん?」
    「大丈夫、気持ちいいことするだけだよ~」

     抵抗してもぐいぐいと暗がりに引き摺られて、恐怖を覚える。
     いやだ、こわい、助けてーー。無意識に思い浮かべたのは。

    「……オレの連れに何してんの?」

     低い声が静かに響き、快惺の大きな手が泉を捕まえていた手をギリッと捻り離させて、泉の肩を抱いて引き寄せた。
     しっかりと抱き寄せられて感じるのは、確かな安堵。男達に触れられた時とは全く違う安心感。

    「チッ! 騙しやがって」
    「つまんねぇな、気持ちわりぃ!」

     ギロリと睨む快惺に恐れをなした男達は、捨て台詞を吐いてあっけなく去っていった。

    「泉、大丈夫?」

     心配そうに泉を覗き込む快惺の額には汗の粒。僅かに上がった呼吸と、早くなっている鼓動。泉のことをそんなに必死に探していたのか。
     ああ、もうダメだ。もう、認めないわけにはいかない。

    「うん、大丈夫だよ、ありがと」
    「よかった……」
    「……ねぇ、快惺さん」
    「ん?」

     ほぅっと安堵の息を吐く快惺の腕にそっと触れる。泉を時に翻弄し、掬い上げてくれる優しく暖かい大きな手。

    「やっぱり、俺も好きだよ。信じても、いい?」

     どうか、ようやく伸ばせたこの手を離さないで。信じさせて。

    「もちろん……ほら、だから言っただろ? 絶対好きになっちゃうよ、って」

     ニヤリと得意げに笑ってそう言った快惺は、ぎゅうっと力強く泉を抱きしめた。少し苦しいくらいの力が、今はとても安心する。

    「めっちゃ、うれしい……絶対大事にする」
    「……うん」

     包まれるような安心感に身を委ねて、泉も小さく微笑んだ。柔らかな声音、蕩けるような優しい笑みが、泉の心を満たし溢れていった。

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