いつか笑って話せるようになる話「えっ、俺をアクション映画の主演にって!?」
「はい! こちらが資料になります」
机を挟んでプロデューサーから差し出された紙束を、龍はまじまじと見つめる。誠司と英雄も両側から、印字された文字を覗き込んだ。
「お、この監督知ってるぜ。ちょっと前にアクション映画でヒットしてたよな」
「そうなんです! こちらの監督は本格アクション映画にこだわっていまして、今回もスタント無しの映画制作にあたって、木村さんの身体能力や前職に目をつけてくださったんですよ」
「へぇ、爆発テロが起きた火災現場から要救護者と脱出するストーリーなんだ。ロープ登攀のシーンもあるみたいだし、確かに俺にぴったりかも!」
プロデューサーはいつになく気合いが入っていて、この仕事に相当の手応えを感じているらしい。それもそのはずだ。有名監督の作品の主演、しかも火災現場が舞台とあれば、一日署長になるという龍の夢に近付くことは間違いないだろう。けれど喜ぶ三人とは対照的に紙面を見つめる誠司の顔だけは、じわりじわりと翳りを見せていく。誠司のギュッと握られた拳に英雄が気が付いたのと彼が口を開いたのは、ほとんど同時だった。
1991