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    kurokawappp

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    kurokawappp

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    互いの思いがすれ違って、ギスギスしてしまう信玄さんと龍くんのお話です。書きたいところだけ書き殴ったのでとても投げっぱなし。
    信玄さんがナーバス気味で頑固なのでご注意ください

    いつか笑って話せるようになる話「えっ、俺をアクション映画の主演にって!?」
    「はい! こちらが資料になります」
     机を挟んでプロデューサーから差し出された紙束を、龍はまじまじと見つめる。誠司と英雄も両側から、印字された文字を覗き込んだ。
    「お、この監督知ってるぜ。ちょっと前にアクション映画でヒットしてたよな」
    「そうなんです! こちらの監督は本格アクション映画にこだわっていまして、今回もスタント無しの映画制作にあたって、木村さんの身体能力や前職に目をつけてくださったんですよ」
    「へぇ、爆発テロが起きた火災現場から要救護者と脱出するストーリーなんだ。ロープ登攀のシーンもあるみたいだし、確かに俺にぴったりかも!」
     プロデューサーはいつになく気合いが入っていて、この仕事に相当の手応えを感じているらしい。それもそのはずだ。有名監督の作品の主演、しかも火災現場が舞台とあれば、一日署長になるという龍の夢に近付くことは間違いないだろう。けれど喜ぶ三人とは対照的に紙面を見つめる誠司の顔だけは、じわりじわりと翳りを見せていく。誠司のギュッと握られた拳に英雄が気が付いたのと彼が口を開いたのは、ほとんど同時だった。
    「プロデューサーさん。この仕事、まだ断ることもできるんだろう?」
    「誠司さん!?」
    「信玄!?」
     予想外の言葉に、二人は耳を疑って誠司へと顔を向ける。彼が他のユニットメンバーの仕事に口を出すことなど初めてのことであった。けれど、いつもなら「龍ならできるさ」と背中を押してくれるはずの彼の顔は険しく、この提案が冗談でも何でもない、真剣なものであると告げている。
    「今までは龍の不運を自分や英雄がカバーしてやれたが、単独の仕事ではそういうわけにもいかないだろう。だから」
    「ちょ、ちょっと待ってください!」
     腕を組んだままいつもより饒舌にまくしたてる誠司の言葉を、龍が慌てて遮る。勢い余って立ち上がり、ソファがガタリと音を立てた。
    「今までだって単独の仕事や他ユニットとの仕事もやってきてるのに、どうして急に」
    「今回は状況が違う。龍の夢は、アイドルとして一日署長になることだろう? 危険な仕事をして万が一のことがあったら元も子もないじゃないか」
     きっぱりと言い放つ誠司に、譲る気はないらしい。言いたいことは言い切ったと言わんばかりに真一文字に結ばれた口を見て、龍は視線を床に向けた。けれどその表情に諦めの色はない。ショックと、怒りと、もどかしさと。それら全てが湧き上がってぐちゃぐちゃに混ざり合っている、そんな顔をしていた。微かに震えていた口から、ぽつりと言葉が漏れる。
    「俺、確かに不運だし英雄さんや誠司さんに比べたら頼りないかもしれないけど……そんなに信用ないですか?」
    「そうじゃない!」
    「そうじゃないですか!」
     誠司の否定に弾かれたように顔を上げた龍の目から、細かな水がぱっと散った。
    「俺のこと信用できなくて、一人じゃ失敗すると思ってるから、だからそんな言葉が出てくるんだ!」
    「違う! 自分は龍が心配で」
    「だから断れって言うんですか、せっかく俺にきたオファーを、俺が不運だからって理由で!」
     互いに向かい合い、顔をくしゃりと歪めて詰め寄る。言葉は激しさを増していくが、二人の表情は傷付けたくないと願いながらも相手を傷付けてしまう苦痛に満ちていた。胸が締め付けられるような姿に、ようやく我に返った英雄が口を開く。
    「龍! 信玄! そこまでだ」
     割って入った英雄の腕に、彼らもやっとこの場に自分たち以外の人間がいたことを思い出したらしい。ハッとして、全身を強張らせていた力を緩めた。英雄はその様子にひとまず安堵して、なるべく穏やかにと努めて言葉を続ける。
    「今日のところは解散しようぜ。一旦冷静にじっくり考えて、それからまた話し合った方がいい」
     でないときっと、二人が酷く傷付き後悔することになる。相手に向かって、思ってもいない言葉をぶつけてしまって。そんな直感とリーダーとしての責任感が、英雄を突き動かしていた。彼のまっすぐな目を見て、龍も冷静になろうと長い息を一つ吐く。
    「……そうですね、今日はもう帰ります。プロデューサーさん、この資料持って帰ってもいいよね」
     声をかけられて初めて、プロデューサーも身動きを思い出したらしい。「は、はい」と頷いたプロデューサーに苦笑し、龍は背中を向け事務所の出口へと向かった。誠司はまだ何か言いたげに口を薄く開いていたが、掛けるべき言葉はついぞ見当たらなかったようだ。ドアを開ける間際、振り向かずに龍が告げる。
    「誠司さん、俺はFRAMEの木村龍です。時々誠司さんが俺に重ねてる、その人じゃない」
     あとに残された誠司は、目を見開いたまま立ち尽くしている。バタンと閉じたドアの音は、まるでそれ以上の会話を断絶するように、大きく響いた。
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    kurokawappp

    DONE互いの思いがすれ違って、ギスギスしてしまう信玄さんと龍くんのお話です。書きたいところだけ書き殴ったのでとても投げっぱなし。
    信玄さんがナーバス気味で頑固なのでご注意ください
    いつか笑って話せるようになる話「えっ、俺をアクション映画の主演にって!?」
    「はい! こちらが資料になります」
     机を挟んでプロデューサーから差し出された紙束を、龍はまじまじと見つめる。誠司と英雄も両側から、印字された文字を覗き込んだ。
    「お、この監督知ってるぜ。ちょっと前にアクション映画でヒットしてたよな」
    「そうなんです! こちらの監督は本格アクション映画にこだわっていまして、今回もスタント無しの映画制作にあたって、木村さんの身体能力や前職に目をつけてくださったんですよ」
    「へぇ、爆発テロが起きた火災現場から要救護者と脱出するストーリーなんだ。ロープ登攀のシーンもあるみたいだし、確かに俺にぴったりかも!」
     プロデューサーはいつになく気合いが入っていて、この仕事に相当の手応えを感じているらしい。それもそのはずだ。有名監督の作品の主演、しかも火災現場が舞台とあれば、一日署長になるという龍の夢に近付くことは間違いないだろう。けれど喜ぶ三人とは対照的に紙面を見つめる誠司の顔だけは、じわりじわりと翳りを見せていく。誠司のギュッと握られた拳に英雄が気が付いたのと彼が口を開いたのは、ほとんど同時だった。
    1991

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