何とも言えず重苦しい空気が小さなフロアを満たしている。
何をするわけでもなく首元のタイをくるりと弄った男——潔世一は目の前で壁に寄り掛かる己の宿敵——ミヒャエル・カイザーを一瞥した。
決して仲がいいとは言えない、いや苦手な人間とエレベーターなんて密室に閉じ込められる状況を待っていれば誰だって気まずくなる筈。それに————ついこの前、何がどうしてそうなったのか俺たちの関係に名の付くようなものが追加されてしまったのだから。
————やけに熱っぽい視界の中、至近距離で同じ瞳を返してきたこと。ベッドに広がる大嫌いなヤツの、まるで猫の尻尾の様な襟足が乱れていたことも。まるでアイツを出し抜いて目の前でゴールを決めた時のよう。————ああ、まただ。何度も思い出し性懲りもなく浮かぶ熱を散らすように頭を振り顔を上げる。
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