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    潔世一×ミヒャエル・カイザーWebオンリー 書き下ろし小説
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    パーティーの準備でネクタイを結び合うふたりの話

    未来BMif軸/情事の匂わせあり

    何とも言えず重苦しい空気が小さなフロアを満たしている。
    何をするわけでもなく首元のタイをくるりと弄った男——潔世一は目の前で壁に寄り掛かる己の宿敵——ミヒャエル・カイザーを一瞥した。

    決して仲がいいとは言えない、いや苦手な人間とエレベーターなんて密室に閉じ込められる状況を待っていれば誰だって気まずくなる筈。それに————ついこの前、何がどうしてそうなったのか俺たちの関係に名の付くようなものが追加されてしまったのだから。

    ————やけに熱っぽい視界の中、至近距離で同じ瞳を返してきたこと。ベッドに広がる大嫌いなヤツの、まるで猫の尻尾の様な襟足が乱れていたことも。まるでアイツを出し抜いて目の前でゴールを決めた時のよう。————ああ、まただ。何度も思い出し性懲りもなく浮かぶ熱を散らすように頭を振り顔を上げる。

    そうすれば何故か、丁度思い浮かべていた海の様な青と目が合うから。————いや、何で?心なしか、この空気の重さもコイツの視線のせいな気もするし。何時ものように睨み付けるかのような、此方を煽るような視線ではない真っ直ぐな其れは何だか心地悪い。

    「…何だよ」
    「——いや?コレが例の馬子にも衣裳ってヤツかと思てな」
    「あ?」

    くい、とすらりとした顎が指した先は顔ではなくその下————スーツ姿を指しているらしい。それもそうだ。だって今日はBMの双翼なんて小っ恥ずかしい愛称で招待されたパーティーに出席するのだから。でも、

    「スーツなんて何回も着てんだろ、お前だって一緒に」
    「相変わらず服に着られてるスーツ姿の話じゃねえよ」
    「おまえさあ…!じゃあ何なんだよ」

    要領を得ない会話に段々と苛々しきた気持ちのまま睨み付ければ、仕方ないと言いたげに男は大きくため息をつく。——すらりとした大きな手が首元に伸ばされる。そのまま節ばった人差し指が首元を締めるネクタイをくい、と引っ張った。

    「———随分と洒落た結び方だな」
    「っ引っ張んな、ってコレかよ」
    「アホ毛を整えてるようなお子ちゃまがまあ、器用な」

    首元を引っ張るその腕を振り切り、少し歪になった結び目に眉を顰める。今日はパーティーだからと折角難しい結び方をしたってのに。

    「コレ難しかったヤツなんだけど…!」
    「ビービー騒ぐな。クソうるせえ」
    「お前のせいってかお前それ」

    何とかタイを締めて前を向けば、悔しいことに身長差によって厭味ったらしいほど整った胸筋とそれに見合わない何とも不格好なネクタイが目に入る。

    「ネクタイ、すげえことになってるけど」
    「————クソ堅苦しいモンつけて酒なんか飲めるか」

    苦々しそうに顔を歪め、これまた鋭い視線で己のタイを睨み付ける。そういえば今日のパーティーにネスは呼ばれていないし、準備だってホテルの部屋が用意されただけ。——へえ、可愛いところあんじゃん。にやりと口角を上げ口を開く。

    「あー、そういうこと」
    「あ”?」
    「折角だし同じヤツで結んでやろうか?」

    正気かとでも言いたげに顔を顰めるカイザーに更に口角を上げる。合宿中ネスが世話を焼いている姿を何度も見ていたし、見た目にそぐわずガサツなヤツだってことも最近気づいたビッグニュースだ。ネクタイだってネスに結ばせていたに違いない。

    此方を睨み付けていたカイザーが小さく息を吐き、そのまま何も言わずにいつの間にか到着していたエレベーターに乗り込んだ。——まあ、そうだよな。俺だって逆の立場なら無視するし。

    ため息と共にエレベーターに乗り込めば、何故か件の男は待ち合わせのロビー階のボタンすら押さずに壁に寄り掛かって腕を組んでいる。——まじでコイツ。他人を使う事に慣れ切ったその態度は一周回って感動すら覚えるものだ。イチイチキレるのも面倒だとボタンに伸ばした腕が、王冠の刻まれた掌によって拒まれた。

    「——結んでくれるんだろ?」
    「は?」
    「お前がそう言った筈だが。自分の発言には責任を持ったらどうだ」
    「いや、確かに言ったけどさ」

    何を考えてるのか全く分からない、が基本的にお人好しの潔は小さく首を傾げながらカイザーのネクタイに腕を伸ばす。他人嫌いそうな男に身支度を許されるのは何だか貴重な気もするし。——今回挑戦したのはエルドリッジノットと呼ばれる結び方だ。黒名の三つ編みのような結び目が首元を華やかにしてくれる、そんな感じの結び目。

    ヘアアレンジだとかメイクだとかは難しくてどうしたらいいか分からなかったから、せめて結び方ぐらいはと練習したもの。他人のものを結ぶのは初めてだけど、玲王はよく凪にやっていたし出来る筈。

    「こっちを前にして、で、これをクロスさせて、これがこうで」
    「…」
    「いやこっちが前か、んで」
    「クソうるせえ。黙って出来ねえのか」
    「喋られると首が動くからお前は黙ってろ」

    珍しく素直に黙ったカイザーに少し気分がよくなり、そのまま続けていく。この結び方は普通の結び方に比べて若干結び目が大きいし、首元が締まりやすい。——何となくだけど、カイザーはそういう締まり感苦手な気がするし下めにやってやるか。最後のわっかに余りを通し、若干緩めながらも形通りに首元を締めた。

    「っし!どうよ」

    ぽん、と胸を叩けばカイザーがくるりと後ろを向く。ウォールミラーを覗き込み首元を小さく触ったカイザーが鼻を鳴らした。——どうだ。

    「——まあ及第点ってとこか」
    「っよっしゃ!っていや、態度デカくね?」
    「結びたそうにしてた世一クンの願いを聞いてやったんだよ」
    「あーはいはい、ソウデスカ」

    相変わらずのクソ皇帝な態度にため息をつきながら、今度こそロビーに降りるためボタンを押す。——そういえば、あれ以来ふたりきりで話すのは初めてだ。


    世界の大舞台で生涯のライバルもこの青薔薇も出し抜いて決めたゴールによってぐちゃぐちゃになったまま縺れるように起きてしまった事故。お互い悔しさとか賞賛とかどうしようもない試合の昂ぶりをぶつけ合ったせいで、初めてだったにも関わらず随分ととんでもないものになってしまった気がする。

    朝、起きて早々見慣れない天井に目を顰めれば掛けられた声に一瞬にして思い出したあれこれ。20年近く生きてきて一番嫌な目覚めに飛び起きた俺を、昨夜は下にいた筈の男が今度は足を組み此方を見下していた。急いで顔を洗い、何とも言えない空気にベッドで正座をしていたのもよく覚えている。それに小さく息を吐いた男から香る嗅ぎなれない泡の香りに、シャワー浴びたんだなんて場違いなことを思ったことも。

    「——これは事故だ。いいな」

    有無を言わせぬような青薔薇の様子に頷いて、そのまま解散してそれっきり。別に好きだとか恋人になりたいだとかそんな感情は持ち合わせてないし、なかったことにするのが一番だってのも分かる。それでも自分にとって初めての行為は何とも言えず忘れられなくて、お互いサッカー以外で関わることなんてないのに、コート外で会ったらどうしようなんて悩んでいた自分もいたのは事実で。


    —————だからいつも通りに話せたことへの安心と少し、ほんの少し落胆してしまったのも事実。でもアイツが気にしてないってのに俺が引き摺ってんのも気に食わねえし。もやもやとした心を落ち着けるため、小さく息を吐いた瞬間。

    ボタン前に立っていた俺の後ろから、無駄に長い腕が後ろからロビー手前の階のボタンを押した。

    「は?」
    「——ひとつ教えてやる」


    ボタンを押した腕が、そのまま潔の肩を掴み向き合うように振り向かせた。急なことに驚いていれば、何故か首元に回した腕によってネクタイが解かれる。

    「は⁉」
    「良いから黙ってろ」

    騒ごうとした俺の口を抓んで黙らせれば、そのまま手際よくネクタイを結んでいく。どうにも通常の結び方ではない。——結べるんじゃん。言いたいことはあれど時間もないのでさっさと終わるようじっとしていれば、終わりと言いたげに同じように胸が叩かれた。横目に鏡を見れば、プレーンのように見えるものの結び目に斜めのラインが入っている。

    「どうなってんだこれ…?」
    「クロスノットだ。生憎ネクタイぐらい自分で結べるんだよ、クソ勘違い世一くん」
    「っカイザー!」
    「それとひとつ」
    「ふたつめだろ、おい」

    結んだばかりのネクタイに指を掛けられ、ぐいっと顔が近づく。ふと香るのは、嗅ぎなれない青薔薇のような深い香りと覚えのある清潔な泡の香り。——それこそ、あの朝のような。

    「——これは簡単には解けない。解きたかったらそれなりのヤツを選ぶか」
    「…選ぶか?」
    「ハックソ焦るな。——続きはコレが最後までこのままだったら教えてやる」
    「——は」

    至近距離で見つめ合っていた碧が、緩やかに歪んで離れていく。抑えていた筈の熱が急激に昂っていくのが分かる。——だって仕方ない。そういうことだろ。
    何とも洒落た“誘い”に燻る熱と共に、あくまで俺が望んでいるとでも言いたげな手腕に苛立ちが募る。——してやられたままなのは気に食わない。

    離れていった男を引き寄せるため、タイの結び目を引く。すんなりと屈むようになった男の耳元に口を寄せた。

    「お前のそれ、解かせてくれるんなら検討してやるよ」
    「——はっ、お前の結び方じゃ解けるのも時間の問題だろ」
    「だからそれが解ける前っつってんだよ。ちゃんと守れよ」

    睨み付けるように見上げていれば、カイザーは酷くウザったそうに眉を顰める。仕方ない、そう言いたげにため息を吐いた男に笑みを返した。——折れた、俺の勝ちだ。

    今度こそロビーに向かうためボタンを押す。ひとつ下の階だ、すぐに開いた扉に踏み出そうとしたその瞬間。後ろの方で布が擦れる音が聞こえた。それに振り向けばやけに首元が寂し気な男と掌に握られたネクタイ。——は?

    にこり、呆然とする潔を置いてロビーへと向かったカイザーは笑いながら掌に持ったネクタイを揺らした。

    「——んなクソみてえな首輪で縛れるわけねえだろ。世一クン」
    「っ…カイザー‼」

    けらけらと笑いながら自分でネクタイを結びながら受付へ向かうカイザーに拳を握り締める。——コイツ、本当に。

    「——可愛くねえヤツ‼」

    ——さっさとパーティーなんて終わればいい。覚えとけよ。そう据わった大きな目で似つかわしくない表情を浮かべる潔へ、うざったい笑い声が響いた気がした。
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