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    888

    @8bee_hive8

    キダかいたりダネかいたりしてる。

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    👑戦後のndさん妄想です。
    モブの女がよく喋る。

    #pkmn

    見慣れた 場所で リラックスしている!「ん、どうした? ドラパルト」
    その日の看護師の女の仕事は至極簡単なものだった。ガラル最強だった男を、ガラル一人気者であるこの男を、意識不明の重体を負ったにも関わらず三日後に大事な試合を強行してしまうこのぶっ飛んだ男を、検査の為病院へ連れて行くという、至極簡単な仕事。
    「どうされました?」
    「すみません、何か忘れ物をしてしまったみたいで、少し待っていてもらえますか?」
    試合以外の場で姿を見せるのは珍しいドラパルトが、静かにジッと女を見つめる。方向音痴で有名な彼でも、手持ちのポケモンと一緒なら大丈夫だろうと、女は快諾した。
    「大丈夫ですよ、ここで待ってますね」
    「ありがとうございます」
    存外礼儀正しいその男は一つ頭を下げて、そのまま背中を向ける。先行するドラパルトを追うその後ろ姿に在る“1”の文字を、女はボーッと見つめていた。

    今日、先刻、ガラル一強い男が、ガラル一強かった男になった。年に一度開かれるチャンピオンカップを上り詰めてきたある一人の少年に、打ち負かされたのである。
    女は男の容態を近くで見守るために関係者席からその様子を眺めていた。観客席からも見たことのない、さして興味も関心もないポケモンバトルを始めから終わりまできちんと見たのは、今日が初めてだった。歴史が変わる瞬間というのは、実に呆気ないものなのだと。男が自らの王冠を投げ捨てた演出に、女は一筋の涙を零した。
    ポケモンバトルを知らない人でも、その男の名を、“ダンデ”という名を、ガラルの人間は皆知っている。皆“ダンデ”が大好きで、愛していた。三日前の大事件、ブラックナイトで彼が意識不明の重体だと報道されたときは、ガラルの皆が神の名を呼び、その無事を祈った。
    そんな、皆に愛されている男は怪我が治りきっていないにも関わらず、いつもの笑顔で「やるぜ! 決勝戦」と言い張り、見事やり切ったのである。
    「……遅いな」
    誰の前でも笑顔を絶やさない“ダンデ”は、容態だけで見るともう立っているだけでも精一杯なはずだ。
    「やっぱり様子見に行くか……」
    忘れ物を取りに行くだけなのに戻るのが遅いことと、気丈に振舞っていてもあの男は怪我人であることを思い出した看護師の女は、男の控え室へ足を進める。これで控え室で倒れてでもしていたら私の責任だと、自分を叱咤しながら、速歩で急いだ。

    「ダンデさん、大丈夫ですか、」
    ノックもせずに控え室へ飛び込んだ女は、その部屋の様相を見て絶句する。そこには誰も、誰の荷物も、綺麗さっぱり、何もなかったからだ。
    「やっぱり着いて行くべきだった……」
    忘れ物らしき物が見当たらないあたり、控え室には辿り着いたが、帰り道で迷ってしまったのだろうと女は考える。念の為奥に見落としがないかと、注意深く観察しながら歩を進めていく、その視界の端、スタジアムのコートに続く通路へ出るガラスドアの向こうに、複数のポケモンの影が見えた。
    女は呆気にとられ、それでもフラフラと足を動かし通路へ歩く。ウィン、と微かな電子音を上げてガラスのドアが開き、その景色が鮮明に、女の目に飛び込んでくる。
    「……はぁ〜」
    女は大きく溜息をつき、傍の壁に凭れかかった。ポケットから携帯電話を取り出し、目当ての人物へコールをかける。数回の呼出音の後、電波の向こうから「どうかしました?」と声が聞こえた。
    「お疲れ様です先生。 すみません、到着までもう暫くかかりそうで……はい、……ええ、いつもの、迷子ですよ」
    電話を終え女は再びコートに目を向ける。女は、お騒がせなその男に声をかけることは出来なかった。寧ろ一体誰が、あの子の邪魔を出来ると言えるのだろう。
    だってそこには普通の青年が、シュートスタジアムのド真ん中に、ただのポケモントレーナーが、大好きな相棒たちに囲まれて、笑顔で、美味しそうに、湯気立ちこめるカレーを、頬張っていたのだから。
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