トマトと勤勉「お前、何してるんだ。」
徐に土を掘り続けているアメリアに対して訝しげに聞く。
「なにってこれだ。」
そう言ってトマトの苗を見せてきた彼女は昨日起きたことを事細かく話し始める。
「休暇…ですか?」
「あぁ、最近ずっと働いているだろう君のことは十分知っているが少しでも気分転換した方がいいと思ってな。」
「そう言われましても休み方がわからなくて…」
上司の気まぐれな提案にアメリアは頭を悩ませていた。
「そうだ、隣町の市場でも行ってみたらいい。」
「市場ですか…確かあそこの町は天使付きの…」
「なーに、1人でお忍びで行けばばれっこないから、、」
「1人って彼はどうするんですか?」
「奴なら喜んで休むだろうから心配いらないよ」
契約悪魔の逃走が心配なアメリアに対して多少軽い上司はほらほらと手を仰ぎ行くことを促す。彼女の性格上、上司の言うこと=仕事なので断ることもできないだろう。
〜隣町にて〜
「ここが…なるほどこの町は農作で栄えているのか…」
適度に周囲の観察をしながらアメリアは市場を散策している。ところに叩き売りの様子や値切りをしてる人など市場は賑わっていた。すると出店の中から1人の女性が話しかけてくる
「そこのおねーさん、これ食べてみないかい?」
「これは?」
「カプレーゼって言うんだ。モッツァレラチーズとウチで採れたトマトを交互に並べた料理だよ」
「なるほど?」
今まで知識としてしか知っていなかった料理に興味をそそられまじまじと説明を聞いている。その真剣な姿に女性はニコニコしながら話し続ける。
「美味しかったらうちのトマト買っていってくれよ。そこの店でチーズは買ったんだそしたらすぐに作れるさ」
「そんなに簡単にできてしまうのか。今度彼にも作ってあげたいな。」
「おねーさん思い人でもいるのかい?」
「相棒なんです。」
女性は事情も知らずにニコニコとして相槌を打って「また来てちょーだいね」と返す。
「はぁ、この町に長い時間居座ってしまったな」
時間はもう夕方になって、そろそろ放っておいている悪魔のことを心配なので帰ろうと思い市場を逆走していると奥から「許してください!」「やめてください!」という声が聞こえてくる。何事かと思い野次馬を押し退けみてみるとさっきの女性と国の天使付きが話しているのが見えた。
「今日の分の売り上げにしては少ないだろー?」
「やめてください。これで全部です、これ以上渡してしまったら生活できないんです」
「だぁったら今よりもっと働けばいいんだよ!」
「やめてください!これ以上は限界なんです!きゃあ!」
荒く手を引っ張る天使付きに抵抗しよろめいてトマトの入っていた箱が倒れて次々とトマトが潰れてしまう。
「あーあ、暴れるから。ほら早くしろ、これだから平民は…」
「トマトが……」
落胆し泣く女性に天使付きは軽蔑の目を向けている。
「なぁ、」
アメリアは居ても立っても居られず男に声をかける。
「その人は何も悪いことをしていない。何で連れて行くんだ」
「あー?んだお前、天使付きに歯向かうってことは反逆罪も同然だろ」
「だったら僕が許さない。」
身バレ防止のために被っていたローブを外し天使付きの男を睨むと男もハッとした表情でアメリアを見る。
「おまえ!革命軍のっ」
一瞬アメリアの存在に動揺する男だったがいつも浮いてついて来ているはずの悪魔がいないことで余裕綽々としている。
「所詮悪魔がいなけりゃ平民と一緒、雑魚じゃねぇか」
すると、アメリアは目を閉じて誰かと話しはじめる。
「…ベルフェゴール、仕事だ」
「そういうと思ってた。だから雲をここまで送ってほしい。」
「…1人だ。そこまでの量はいらない」
側から見たら独り言に「なにさっきからぶつぶつ話してんだよ」と先制攻撃を仕掛けようと足を蹴りこちらへ進んでくる。
雷霆5%
そう呟くと1人でに出て来た雲がみるみると長く太い針のような剣に変わりバチバチという音を立てる。その後一振りすると雷の斬撃が男を斬ったのだ。
「がはっ……」
男は口から煙を吐いて倒れた。周りからは賞賛の声が聞こえてくる。
アメリアはすかさず女性に手を差し伸べた。
「怪我は?」
「ありがとうございます。何てお礼したらいいのか、」
「これも仕事なんで大丈夫ですよ。それよりトマト、、」
あっけなく潰れてしまったトマトを悲しげに見る
「それでしたら大丈夫です。また育て直せばいいので、、そうだこれを!」
女性は店の中からトマトの苗を一株持ってきてアメリアに渡す。
「つまらないものでごめんなさい。もし良かったら育ててみてください。」
「ありがとうございます…?」
「それで今に至るってことか」
雲の上で頬杖をつきながらあくびをしたベルフェゴールは話に飽きたかのように中断する。
「雲貸せっていうから何かと思ったらそんなことがあったとはなーお疲れさん」
労う気持ちなどあまりないであろうがそんな言葉をかけ、続ける。
「それで育ててみようってことか」
「あぁ、そうだ。明日色々なトマトに関する文献を集めようと思っている。」
「趣味の範疇でそんなに堅苦しくやるなよ…」
まっすぐな目で埋めたトマトの苗を見つめるアメリアに対して呆れ気味なベルフェゴールであった。