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    金田の探偵姿が見たい!

    金田正一の事件ファイルep.1:人探し

    薄暗い部屋にテレビの音だけが聞こえる空間も束の間、ピシャッとカーテンが開けられ春の陽気が部屋に入る
    「おい金田っ、いつまで寝てるんだ!」
    声の主は法月蓮太郎だった。
    法月はソファですやすやと寝息を立てる金田の前髪をあげぎゃんぎゃんと怒ってる。
    「うーん、蓮太郎君来てたのか…うーん、」
    「こら!二度寝するなはやく起きて仕事しろ!」
    「だって、仕事ったって何もすることないじゃん…探偵が仕事ないってことは平和な証拠だよ…?」
    「う、それはそうだがだからと言って昼まで寝るのとはまた違うだろーが!さっさと起きろ!」
    法月は金田をソファーから落とそうとするが金田も抵抗する。しかし元警察官の法月の方がいつも日も浴びずだらけて過ごしている金田よりもフィジカルは上手、簡単にソファーから落とされて軽く頭を打つ。
    「いったーい!ひどいじゃないか雇い主に向かって何台その態度は!」
    「知るか!元はと言えばお前が起きないのが悪いだろ!」
    「僕の家なんだ好きにさせてくれよ!」
    「こうしている間に依頼人が来たらどうするんだ!お前は寝ぼけ眼で応対するのか?」
    「だって今日もきっと暇だよ?」
    金田がおでこを冷やしながら言い訳をしていると法月は一枚のコピー用紙をテーブルに叩きつけ
    「こんな雑な宣伝チラシで集客できると思ってるのか!」
    「あ、それは僕渾身のチラシじゃないか!」
    「何が僕渾身のチラシだ!ただA4の紙に鉛筆で“金田探偵事務所依頼待ってます”って書いてコピーしただけじゃないか!」
    「お前はいつもだらしなくて雑だから仕事もこないんだろ!」
    そういうと力任せに法月は持っていたチラシを丸めゴミ箱に投げるが元々山盛りのゴミ箱からチラシは弾かれ床に落ちる。
    「そもそも何もすることがないならこのごちゃごちゃした事務所でも片付けたらどうだ!」
    「でも僕は困ってないよ?どこに何があるかわかるし。」
    「そういう問題じゃない!」
    法月が渾身のツッコミを入れたあとチリンとドアのベルが鳴る。
    「あ、誰か来たみたいだよ蓮太郎君、応対してあげて」
    「チッ、」
    法月がドアを開けると男がチラシを持って立っている。
    「あ、あの…ここが金田探偵事務所で間違いないでしょうか…」

    ***

    「お茶どうぞ。」
    「あ、ありがとうございます。」
    「えっとお名前は」
    「須藤です。」
    法月は客人にお茶を出した後金田の隣に腰掛ける。
    「それで須藤さん、今回はどのような依頼で来られたのですか?」
    「人探しを頼みたくて…」
    「人探し?」
    「はい。1ヶ月前に音沙汰もなくいなくなった恋人を探して欲しいんです。」
    「てことは失踪したのか?警察には言ったんですか」
    「はい…でも門前払いで取り合ってもらえず、」
    「これだから警察は…」
    「蓮太郎君、私情を挟んじゃダメだよ。」
    自然に拳に力の入る法月を金田が止める。
    「それで、いなくなった当日のこととかで何か覚えていることはありますか?」
    「よく覚えてます。あの日はいつもと同じように僕が汐梨ちゃんの家に行った時、汐梨ちゃんの家のはずのところが空き家になってたんです。何事かと思いました。大家さんに聞いたりもしたんですけど口裏を合わせているのか、何も答えてくれず、連絡も繋がらず、それから、自分でも探したんですけど心当たりある場所は全部ダメでした。そしたらたまたまこの紙が目に止まってここに来ました。」
    「なるほど、わざわざ家まで引き払って居なくなるとは…何か心当たりはあるんですか?」
    「心当たり…あ、あります。これを見てください。」
    そう言うと須藤は一枚の写真をテーブルに出す。
    「これは…?」
    その写真は汐梨が他の男と仲睦まじく歩いている写真だった。
    「浮気ですか?」
    「はい、多分。このことも汐梨ちゃんに問いただしたんです。そしたら“あなたには関係ない”と言われて…あの…この男と汐梨ちゃんが駆け落ちしたってことですかね、」
    「少なくともその可能性はあります。」
    金田はお茶を啜り一息置いて話を続ける。
    「あと、失礼ですが他に汐梨さんの写真ってありますか。この写真は後ろ姿しか写ってないので、探すにも探しきれません。」
    「あ、はいすいません、これ…」
    そう言うと須藤は数枚の写真を並べる。
    「これで探してもらえるんでしょうか…」
    「できる限りのことはやらせていただきます。」
    「あ、ありがとうございます!」
    「また見つかり次第連絡しますね。蓮太郎君お見送りお願い」
    金田に言われ法月は須藤をドアの外まで見送ると須藤は一礼して階段を降りていく。見えなくなってドアを閉めた途端、金田は脱力したようにソファに寝転ぶ。
    「いやー久々の仕事だよ蓮太郎君!精が出るね!」
    「あぁ、そうだな。まさかあのチラシが…まぁいい。」
    「それで何から始めるんだ?」
    「あーそれなんだけどこれ調べといてくれない?僕行かなきゃ行けないところあるから」
    そう言うと金田は法月にメモを渡しお気に入りのチューリップハットを被る。
    「わかった。ところでどこに行くんだ?」
    「え?喫茶店だけど?じゃあ、蓮太郎君任せた!」
    「おいこら!金田待て!!」
    足早に金田は事務所を出て行ってしまい法月は取り残されてしまった。

    ***

    「それで…僕が呼ばれたって事は汐梨ちゃんは見つかったんですか⁉︎」
    須藤は興奮気味にお茶を出す金田に聞くがそんな須藤を落ち着かせ金田は話を続ける。
    「見つかりました。とりあえず落ち着いて僕の話を聞いてください。」
    「それで、それで汐梨ちゃんはどこにいるんですか!」
    「端的に言えばあなたには教えられません。」
    「へ?なんでですか」
    須藤はあっけらかんとしているがお構い無しに金田は続ける。
    「まず、僕が違和感持ったのは写真のクオリティがバラバラな事でした。」
    「それは、あれだけ枚数があったら写真に違いがあるでしょう。」
    「それはそうなんですけどこれ見てください。」
    金田は写真を数枚並べて説明を続ける。
    「この数枚の写真どれも最初の写真同様須藤さんのスマートフォンで撮られた写真だと思うんです。」
    「ええ、まぁそうですね。」
    「この写真のポイントは“こっちを向いてない”んですよ。」
    「た、たまたまじゃないですか?」
    「そしてこっちの写真です。」
    金田は写真を数枚並べて説明を続ける。
    「ほらこっちは正面を向いてるじゃないですか、金田さんの思い違いですよきっとはは…」
    「そうだといいんですけどねぇ、でもこの写真の共通点は“あなたが撮っていない”と言うことですよ」
    「え、」
    須藤の顔が引き攣る。お構い無しに金田は続ける。
    「いやー僕ね、インターネット疎いんで助手の蓮太郎君に調べてもらったんですよ、そしたらやっぱりこれ汐梨さんのSNSの投稿でしたよ。」
    「僕が撮ったやつを汐梨ちゃんが載せてるんじゃないんですか?やだなーまったく、」
    「いいえ、それも違いますほらこの投稿、」
    “友達とプール行ってきた♪”
    「しっかり友達と書いてますしお友達のアカウントにも同じ時期に同じような投稿がされてたんですよ。」
    「…っ、じゃあなんで僕がここに来て貴方に依頼をしたんですか?恋人じゃなければここまで…」
    「それは簡単ですよ。あなたが汐梨さんのストーカーなんです」
    金田は立ち上がり須藤の座るソファーの後ろに寄りかかり話を続ける。
    「あなたがストーカーだとこれまで言ってたことに全て合点がいくんです。警察に行ったらむしろ自分が捕まるし、そうですよね?」
    「僕は、僕は…ストーカーじゃない!」
    「そう思いたい気持ちはご察ししますけど事実は事実なんで仕方ないですよ…うおっ」
    須藤は金田の胸ぐらを掴みソファに引きずり込み喉に手をかける。
    「いきなり乱暴はよしてくださいよー、次は本当に捕まっちゃいますよ」
    「汐梨ちゃんの居場所知ってるんだろ!教えろ!早くしろ!じゃないと殺すぞ!!!」
    須藤の手の力は徐々に強まる。
    「(やばいな…早く来てくれないと…)」
    意識が遠のいていく中ふと金田の体が軽くなる。それと同時に須藤の体が宙に舞ったと思ったらその瞬間床に叩きつけられる。
    「お、遅かったじゃないか蓮太郎君。もうちょっと遅かったら僕死んでたよ^^」
    「お前なぁ、休みの日に人使い荒いんだよ」
    「ていうか、本当にこいつはストーカーだったんだな。」
    「うん、汐梨さんにも会って聞いてきたよ。おそらくだけど職場で親切にしてもらったかなんかで好きになっちゃったんだろうね」
    「そうか、とりあえずこのまんま警察に引き渡せばいいんだな」
    「うん、お願い」

    ***

    「かーねーだぁーー!」
    「まだ10時じゃないか…」
    「もう10時だぞ!起きろ!」
    今日もまた金田探偵事務所では賑やかな声が響く。次の事件が待ってるとは知らずに。
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