Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    MMogu4410

    @MMogu4410

    落書きはなんかいろいろ

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 11

    MMogu4410

    ☆quiet follow

    荒諏訪
    ワンドロからすっかり遅れているのでタイトルだけお借りしました。

     読書 この春から通い始めた学校はボーダーと提携したトリオン研究室等というこの地域じゃなければ聞きなれないような研究も行われており、同時に隊員もまた多く通っていた。
     けれども、流石に高等学校の頃とは違い学年が違えば同じ大学に通っていてもキャンパスや食堂でばったり出くわすという事もなく、荒船はいまだに校内で諏訪を目撃した試しがなかった。

     確かに一年生と違い、上級になれば選択する授業も多様化する。そして諏訪のように四年生ともなればレポートや論文、院生の試験準備、卒業準備、就職活動等など、ますます学校に顔を出すことも少なくなっていくだろう。
     入学する前に大体想像はしていたものの、これほど会わないものかと思うと正直に言うと少しばかり落胆していた。別段騒ぎ立てた覚えはないが、常人よりも人の心に敏い影浦や能力がある訳でもないのに人の心に敏い犬飼などは、面白がったり痛々しい目で見たりという扱いを受けている。
    「約束を取り付ければいい。そんなに会いたければ」
     吾が隊副長の穂刈までそんな具合で、別に会って言いたいことがあるという訳でもない荒船の心を理解してくれそうな者は今の所いない。
     そもそもこの落胆の根本にあるものが恋愛だとは一言も言っていないというのに、奴らときたら人の顔を見るたびに、面白がるどころか、もはや呆れや、酷い時にはうんざりとした表情を浮かべた。

     所がだ。
     ボーダーの隊員にはあまり関係がない五月の連休が終わり、学校生活にようやく慣れた一般学生共が忘れた頃にやってくる五月病にやる気を削がれながらどうにかどうにか暖かな気候が落ち着いたと思いきや、西から梅雨入りの知らせが入り始めたその日、とうとう荒船は校内で見覚えのある金髪を見た。
     朝から濃淡の雲が空いっぱいに広がり、天候に左右され辛い鋼のメンタルを持ってしても憂鬱になりそうなじめついた空気がいよいよ湿っぽくなってきた昼過ぎだった。荒船は東も属しているトリオン研究室がある棟へ向かうため近道するために人も寂しい裏庭を歩いていた。裏庭は日当たりもあまりよくなく、そのせいで芝も剥げて土がむき出しの所が所々ある。それがまとまった雨でも降れば、道は瞬く間に冠水する。最近では水がはける前に次の雨が降る事も珍しくなく、それを踏まえてもこの道に人気がないのは頷ける話だった。
     諏訪は花など見受けられない花壇の一角に設置されたたばこメーカーのロゴが入った直方体の吸い殻入れと色焼けしたプラスチックとパイプ製のベンチに腰かけて一人で手元の文庫本と思しきものに目を落としていた。そして荒船の存在にも気づいていない様子だった。
     荒船としては、なかなか解くことが出来ない間違え探しやクロスワードパズルが完成した時の様な高揚を覚えた。

     荒船が心をときめかせた事も知らないまま諏訪の時間は何物にも脅かされる事はなかった。荒船は心を満たして研究室へ向かったが、その後諏訪が研究室を訪ねてくることは無かった。しかしながらだからと言って荒船が落胆することは無かった。諏訪とはそれまでと同じようにボーダーで顔を合わせ、時には話をする。共同で任務にあたることもあれば、ランク戦で相まみえることもあれば、隊長会議で話をすることもあった。だが、あの裏庭の話はしなかった。
     諏訪はその後も時々あのベンチでタバコをくゆらせながら本を読んでいた。その本がいつも同じなのか荒船には分からないが、荒船は満足していた。
     そんな習慣が出来てまた月日が過ぎた。初めの頃は暖かいとか、じめじめするといった気温がここ数日では毎日ほぼ暑い。元々暑がりな荒船の私服は半袖になった。当然あの裏庭だって建物の影の微々たる涼では賄いきれなのではないかと荒船は思うようになった。
     例年諏訪は夏の間は読書をどうしているのだろう?
     荒船は例の小道で暑そうに幾分うなだれているように見えなくもない諏訪の背中を見て思っていると、不意に諏訪は振り返った。
    「おい」 
     初めてのパターンに荒船は驚き、物を考えるよりも先に「はい」と言っていた。

    「もう暑いから外の喫茶店行かねえ?」
     荒船の頭の中はいつから気付かれていたのか、諏訪はどう思っていたのか、その喫茶店は喫煙可なのか、研究室をさぼる件について連絡はどうしたらいいのか、などなど思いつくことは湧き水のように次から次へと溢れていったが、口から出た言葉は「はい」という思いのほか声高な声だけだった。



    終わり
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👍🙏💕💕👏🙏💞💞💞💘💘💘💘💞💞💞💞💞💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works