営業ランディ×経理兼夜職テシカガ何故、こうも世の中は理不尽なのであろうか。大卒かそうでないか、それだけで基本給とやらはだいたい月二万くらいは差が出てしまう。ボーナス、昇給の有無も考えれば、その差は年々より大きくなっていく
「やっぱり足りねぇ…」
高校卒業を機に、北海道から上京してきた社会人三年目のテシカガ=キリヒトは、通帳の残高を見て眉を寄せていた。
テシカガの家は、経済的理由から大学進学までは難しいと言うことで、高校を出たら働くように言われた。その代わり上京は許してもらった。本当は大学に行って、文学や歴史を深く学びたかったが、金がなかった、こればかりはどうしようもなかった。
しかし、世の中は学歴社会になりつつあり、大都市東京と言えど高卒で働き口はなかなか決まらなかった。気になった企業は、大卒でないと履歴書すら送れない。スタートラインにすら立たせてもらえないのである。無理を言って上京した手前、生活が苦しい、仕事がなかなか決まらない、とは親には言えず、うまくやってるよ、と電話口で嘯いた。ようやく決まった仕事は、そこそこ有名な企業の経理の契約社員だった。
テシカガは、めちゃくちゃ要領がよい、というわけではなかったが、自分の中に落とし込めれば強かった。そのため、入社して一年をすぎた頃には一通りの仕事はこなせるようになっていた。勤務態度や業務実績も、正社員と遜色なく優秀であった。しかし、契約社員として採用された、それだけで、基本給は低い。昼の仕事はせいぜい、手取り十五万。どうやっても金が足りない、生活できなかった。ただ食って寝て働くだけならなんとかなる。が、読みたい本や娯楽を我慢したくはなかった。生活の質は落としたくなかった。
そこで、テシカガは夜は風俗、いわゆる性的なサービスを提供する店で働くことにした。テシカガの性指向は同性であったので、サービスの相手は同性の店、つまり、ゲイ風俗だ。
昼の仕事がバカらしくなるくらい、金は入ってくる。しかし客の質はピンキリで、酷く乱暴にされたり、背伸びして買ったちょっと高級な上着に精液をぶっかけられることもあった。
ある日、事件は起きた。
金曜、いつも通り昼の仕事を終えたテシカガは、娼夫として夜の店に出勤していた。
待機部屋で携帯をいじっていると、スタッフに声をかけられる。
「メフィスト君に九十分の予約入ったから、いつものホテルの八○一号室向かって。オプションは前立腺マッサージね。」
「かしこまり」
メフィスト、は所詮源氏名だ。自分としては結構気に入っている。
コンコン、とノックをし、少ししてドアがガチャり、と開く
「失礼します、今日はご利用ありがとうございま」
挨拶が途中で止まる。
ホテルのドアを開けると、そこにいたのは、テシカガのよく知る人物だった。
「えっ、あっ…もしかして…テシカガ!?なんで、おま、えっ」
「はあ…それはこっちのセリフ…廊下じゃ目立つので、とりあえず中に入れてください」
今日入った客は、同じ会社の営業正社員のランドルフォ=メイスフィールドだった。セックスの相手には困らなさそうなのに、なんでまあこんな店なんかに。さいあくだ。
ランドルフォは新人一年目にして取引先の評判は上々らしい…自分の所属している経理にも噂はまわってきていた。ただ、領収書の期限は守れないらしく、月が変わってから提出してくる。月の領収書は月末までだと、何回言えばわかるのか、とテシカガは彼に時々苦言を呈していた。