アルジャーノンは嵐を笑う「九月っち、毎年こんな蒸し暑かったやろか」
ひっそりとした楽屋の隅。パイプ椅子に腰掛けた桜河が、ぱたぱたと衣装の襟をつまんで首元に風を送っている。肌にまとわりつく湿気を疎ましそうにしながら、桜河は確かにそう言った。
「八月やったらわかるんやけど。九月って、秋雲とか白露とか、俳句の季語も涼しげな言葉になるんよ」
はー、暑い。俺に話し掛けているのか、それとも単純な独り言なのか。パイプ椅子の合皮に貼り付く皮膚にすら悪態を吐きながら、桜河は相変わらず自身の体温を下げようと努めていた。だらだらと汗を流す桜河の睫毛の先端に、小さな水滴が付着しているのが見える。
「この時期になると、季節の変わり目を肌で感じることが出来ますね。HiMERUは意外と、雨が嫌いじゃないですよ」
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