未来の色は君のもの「その目、片方ずつ違うんだな」
オッドアイってやつだな
またか、とトリガーはため息をつく。自分の目の色は、両方同じではない。目の前でからからと笑っている男────タブロイドという人間らしい────の言う通り、オッドアイと言うやつだ。そしてそれは、人間にしてはめずらしい。それゆえそれをからかわれたり気味悪がられたりと散々な思いをしてきた。だからその件に触れられるとイラつく。どうせこいつもそんなヤツらと同じなのだろうとトリガーはあしらおうとした、のだ。
「トリガーにはあってるよ」
トリガーは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。性格も相まって初対面からいい印象を向けられたことは今まで無かった。遠巻きにヒソヒソと噂をされるような。そんなことばかりだった。
それがしかし。こうもすんなりと受け入れられるとは。差別を、否定を、されないとは。もしかしたら。もしかしたら、この人間なら。
(信頼しても、いいのかもしれない)
そう、思った瞬間、よくわからないなにかで胸が満たされたような気がした。
それからというものタブロイドを見かければ声をかけ、声をかけられれば会話を弾ませる。タブロイドは他の連中と違い、他人を真正面から馬鹿にしたりなどしなかった。そしてトリガーはそれを好ましい、と感じるようになった。徐々にタブロイドのことをもっと知りたいと思った。もっと近づきたい、好まれたいとさえ思った。そして好まれたいという気持ちは自分には縁遠かった恋心だと、気づいた。
「タブロイドはさ、好きな人いる?」
「……は?」
「好きな人」
「……トリガー、わかってるか?ここに女性はいるかい?」
「エイブリル」
トリガーが応えるとタブロイドは天を仰いだ。何もわかってないと言いたげに。
「……あーっと、彼女はちょっと違うな」
「でも女だ」
「仮にそうだとしてもそんなことになるわけないな」
「そうなの?」
「そう」
エイブリルは男勝りで気が強く口も悪い。男にも勝る性格。自ら女を捨てている感じでもある。そんな相手を女と見て付き合えるかと言えばタブロイドには無理だという答えしか無かった。
「じゃあ他には?」
「……トリガー、他にって言うけどな、ここには男しか居ないんだぞ」
「別に有りでは?」
「ない!」
トリガーはいつも突然だ。タブロイドは理解していたつもりだったがまだまだ理解が足りなかったようだ。考えを改めるべきだな、とタブロイドは思った。
「えー?俺はいるのに」
「……は?」
この男しかいない場所で?タブロイドには寝耳に水。どうしてそんな考えに至ったのか皆目検討もつかなかった。そして、
「おれ、タブロイドのことが好きだ」
「な、」
さらなる事実がタブロイドの頭をガン、と打った。冗談も休み休み言え、とはこのことかとタブロイドはトリガーを見やる。仲がいいのは認める。だがそれ以上に何がある?タブロイドにはトリガーの考えることなど何一つ分からなかった。
「タブロイドは俺を差別しなかった。だから信頼してもいい、って初めて思った」
「だからとはいえ」
それだけの理由で男を選ぶバカがいるか、とタブロイドは一から全てを教えこんでやりたかった、が真剣そうにこちらを見る目につい口をつぐんでしまう。
「そのうちもっと仲良くなりたいと思った。でもそれだけじゃ嫌だと思った」
「……どういう」
「離れないで済むよう、俺のものにしたい。ずっと一緒にいよう」
さっきの言葉だけでも大打撃だったのにまた!トリガーの飛び方よろしく執念深くケツを狙ってくる、そんな内容だった。
「トリガー!」
「……だめ?」
タブロイドは黙り込む。正直トリガーの理屈は分からない。だが、一緒にいたいと言われれば離れ難いとは思う。今となってはタブロイドもトリガーを放っておくことは出来ないと感じていた。
「……ものになるとか、そういうのは置いといて一緒にいることは出来る」
「じゃあ今はそれでいい。今は、ね」
「……はいはい」
実はもうこの時点で絆されているのでは、とほんの少し思ったタブロイドは頭を軽く振ってその考えを頭から追い出したのだった。