貴方に傍に居てほしい「一緒にいるって言ったじゃん!」
「でもな、トリガー」
突然響き渡る怒鳴り声。それはトリガーのものでタブロイドへと向けられたものだった。周りはなんだなんだと視線を向ける。大したことは無いのにこの騒ぎ。タブロイドはため息をついた。無駄に騒ぐのは好きじゃない。注目されるのなんか尚更だ。少し前だったらまた独房行きだったかもしれない。
「今回の任務に俺は参加しない。分かるな?」
「分からない!」
「いやそこは分かってくれよ」
「いつも後ろにいてくれるって」
「今回は俺は必要ないんだよ。トリガーだけで十分なんだ」
「やだ!」
駄々をこねる子供のように、トリガーはやだやだと繰り返す。タブロイドが何を言っても、だ。元々聞き分けは良くなかったが、まさかここまでとは。タブロイドはトリガーについてまたひとつ新たなことを知ることが出来た。知りたいわけじゃなかったが。
「やだじゃない」
「やだ!」
「これは命令なんだ。聞かなきゃならない」
「タブロイドと一緒ならいいよ」
「だから」
「そうじゃないならやだ!」
命令と言われても気にしないあたりどうかとは思うがトリガーらしい。何をどうすればトリガーが聞き入れるのかタブロイドには皆目見当がつかなかった。
「だから!」
「やだ!」
「あーもう!それなら上に言ってくれよ。俺は知らない」
「わかった。ロングキャスターに聞いてくる」
いや、ロングキャスターより上がいるだろ、とは思いつつどうせ彼もダメだと突っぱねるだろうからタブロイドはそれでいい、と一時納得した。今や同じ部隊とはいえ常に一緒に、という訳でもない。向き不向きもあるだろうし数で押すことばかりでもない。今回はトリガーとサイクロプスから1人2人いればいいだけの軽いミッションだ。自分まで出る必要は無いとタブロイドは解っている。なのにトリガーだけはそれを認めない。以前はエレメントも組んで後ろに着いていたがそれだって特別な事情があったからだ。トリガーについて行けば生き残れる。そんな気持ちだったからだ。今となってはそれを後ろめたく思う。トリガーを盾にしたようなものだ。だと言うのにトリガーは自分と居たがる。その事情を知ってるだけに尚更ついて行く訳には行かなかった。大丈夫なのは分かるが気もそぞろに飛んでいたらいくらトリガーとて危うい。それをタブロイドは望まない。
「ダメだって……」
「だから言ったろ?」
そんな最初から分かりきったことを。まさか本気で聞いてくるとは思わなかった。さすがに諦めるかと思ったが、そこはトリガー、一筋縄では行かなかった。
「じゃあ行きたくない」
「そういう訳にはいかないよ『三本線』」
「……嬉しくない」
もとより「三本線」という名をトリガーは嫌っていた。見知らぬなにかに雁字搦めにされてるようだ、と以前語っていた。ただ、タブロイドになら特別だ、とも続けていた。そこになんの違いもないだろうに。
「まぁずっと離れてるわけじゃないんだ。トリガーが無事に帰ってくればまた会える。だから行ってきな。待ってるから」
「……ほんと?」
「俺の言うことが信じられない?」
「そんなことない」
「じゃあ行ってきな。ちゃんと、待ってるから」
いつもの笑みを浮かべてタブロイドが言う。トリガーにはタブロイドの笑みの違いがわかる。そこに嘘はなかった。タブロイドが待ってるから行ってこいと言うのなら。渋々ではあるが行ってこようという気になった。
「……わかった。タブロイドは大人しく待っててね」
「大人しくって何だい?」
「怪我したりしないようにって」
「大丈夫だって。俺は暇してるよ」
タブロイドはまた笑う。トリガーが活躍するということは周りにすることは特にない。ただ見守っているだけだ。期待を寄せて。今回はどういう飛び方をするのか、皆心を弾ませてみているのだ。
「暇なら着いてきてよ!」
「だーかーらー!」
いいから行ってこいとタブロイドがその背を押すまでトリガーは難癖をつけてはついて来いだのやっぱり残るだのととしつこく迫り続けた。最後には尻をけりあげられてやっと己の機体へと向かう。どうしてこうなったのか、タブロイドにはわからず帰ったら話し合いが必要だな、と悩ましげにため息をひとつ零した。