読書の秋「いや〜、すっかり秋になったなぁ。こう涼しいと読書が捗るね」
太宰はそう云いながら部屋の布団の上で寝そべりつつ、本の頁をめくっている。
「読書はいいですけど、太宰さんってそれ以外の本読まないんですか?」
敦が指差すのは、真っ赤な表紙に白で棺桶と十字架のデザインが目を引く『完全自殺読本』だ。太宰は暇さえあればこれを開いて読みふけっている。付箋がびっしり貼られた彼の愛読書。それは聞いた話によると彼の生まれる前に出版されて一躍話題になったものの、有害図書認定されて絶版になった稀覯本らしい。
「何を云ってるんだい敦君。これより素晴らしい本なんてこの世にないよ?」
太宰が熱弁する。敦は本能で「あ、変なスイッチ押した」と思ったが後の祭り。
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