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    kamachi_midori

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    kamachi_midori

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    アスデフ観用少女パロの最初の方
    このアスプロスはたぶん杳馬に会ってないアスプロス
    中盤ホラーっぽい展開になるはずのやつなのに序盤がコメディに寄りすぎて考え込んでる内に書く機を逸した
    最初の不穏な一行とメモ帳の最後に書かれた「お調子者かよ」という自分へのコメントが物悲しい

    アスデフ観用少女パロの序盤だけ供養――兄が国を捨てたのは俺のせいだ。


    玄関から物音と上機嫌に自分を呼ぶ兄の声がして、机に向かっていたデフテロスは軽い驚きに顔をあげた。
    出迎えに立ち上がるついでに時計を見る。レポート作成に夢中で気づいていなかったが、かなり遅い時間だった。
    (……妙だな)
    少しの違和感を覚える。
    アスプロスは今日は勤め先の関係で外食してくると言っていたはずだ。
    合理的かつ外面から想像されるより神経質で人間嫌いな所のあるアスプロスは親しい同僚と個人的に飲むならともかく「仕事のつきあい」というものは蛇蝎の如く嫌っていて時間外労働扱いしてはばからない。
    いつもなら最低限礼を失さないと本人が判断する程度の時間が経過した時点でさっさと席を立って帰宅してくるし、多少の差はあれどこか機嫌が悪いのが常だった。
    その兄がこんなに遅くなって、しかも上機嫌とは気味が悪い。

    本国からの社員には住居手当が多めにつくからといって兄が借りた家は街中にあるわりには広々としている。
    まだ若い兄が郊外の寒々と広い別邸だけを自分の世界として育ったデフテロスを気遣って無理をしてくれたのは明らかだった。
    二階にある自室を出た途端に臭気が鼻をつく。吹き抜けから二階まで漂う酒の匂いにぎょっとして覗き込んだ玄関にいたのは、邪気のない顔でにこにこと自分を見上げて手を振る兄だけではなかった。
    なんということだろう、兄が仲良く連れ帰ってきたのは街角の看板でも薬局のマスコットキャラクターでもなく……古い写真から抜け出てきたような、幼い頃のデフテロスにそっくりの少年だったのである。
    階段を駆け下りてきた弟の姿を見て兄は安心したようにふにゃふにゃになって寄りかかってくる。彼を抱えるデフテロスに少年はまるでこの騒ぎが目に入っていないように完爾として微笑んだ。自分たち兄弟とよく似たその顔をはばからず、兄はその笑みを『天使の笑顔』と呼ぶ。

    「どうしてあんなになるまで飲んだんだ」
    デフテロスは兄に呆れた表情を向けた。日が高く昇ってから起き出してきて今はダイニングで頭が痛いと怒りながらデフテロスが作った朝食を大量にたいらげている。
    今日が休日で幸いだった。
    「聞かされていないのに取引先の重役が同席していてな、接待の席に早変わりだ。やたら酒に強くて勧めたがりの男で、長々引き留められ散々飲まされてあのありさま…ボスには休み明けに厳重に抗議する!」
    こちらを仇のようにキリッと睨みながら皿を突きつけられたので、フライパンからベーコンと目玉焼きを追加する。パンは今トーストしているので少し待ってほしい…。
    注ぎ足した冷たいミルクを一気にあおってひとごこちついた兄は、テーブルの対面で少年が自分の真似をするように温めたミルクのカップをクーッとかたむけたのに目を合わせて蕩けるように笑った。
    「デフテロスが世話をしてくれたのだな、よかったな」
    そのデフテロスの椅子に座らされ行儀良く膝を揃えていた少年は無言で、だが本当に嬉しそうににっこりと笑う。
    「天使――――!!」
    奇声をあげる兄を若干ひきつった顔で見るデフテロスにも、にっこり。
    それだけで心がほどけるような気がするから、観用少年は不思議だった。

    幸か不幸か兄は酔っている間の記憶を失ってはいなかった。
    「寝るな! あの子はなんだ!? まさか迷子を捕まえて連れ込んだのではないだろうな!?」
    昨夜、揺すって嘔吐するのを警戒して声だけかける弟に「観用少年(プランツドール)…」と一言つぶやいてぐっすり眠り込んだ翌日、兄は軽々と「ああ、帰りがけに買った」と肯定した。
    見せられた請求書に目玉が飛び出しそうになったデフテロスの横で当のアスプロスも同じ顔をする。記憶はなくしていないが金銭感覚はあいまいになっていたようである。
    観用少年…この都市にきてから初めて知った不思議な存在。噂でしか知らないそれは、確かに噂通りの高級品だった。
    アスプロスは年齢のわりには高給取りだが実家を飛び出し学生の弟を養う身。とてもではないが気まぐれで支払える額ではない。
    泥酔した客にこんな高額の買い物をさせるとはろくなものではないと憤る兄は、それでも返品する気はさらさらないようだ。
    それどころか、ミルクが足りない服がもっといる子供用の椅子が必要だと、午後の予定はもう一度その店に今度は兄弟そろって訪ねることになってしまった。


    「すみません、お酒の匂いは気づいていましたが、そんなに酔ってらっしゃるようには見えなかったので…」
    意外にも店主は師から店を譲られたばかりという若い男だった。まだ少年のおもかげが残っている。このあたりに元々住む人々とも少し違う不思議な風貌をしていた。
    プランツをともなって押しかけた双子に迷惑そうな顔も見せず茶をいれてくれ、申し訳なさそうにしている。
    「謝ることねェよシオン、こいつ昨日の夜中にいきなり入ってきてろくに説明も聞かずにプランツ連れてったってやつだろ」
    たまたま同席した友人だという少年が抗議の声を上げる。
    「テンマ!」
    シオンが慌ててたしなめるが少年は鼻息荒く双子を睨みつけている。黒髪で、こちらはいかにも地元っ子の顔立ち。シオンと双子の間に入れば頭ひとつ小さい体格をものともせず堂々と友人を弁護する。
    あれほど泥酔しても他人の前では外面をとりつくろっていたらしい兄に舌を巻きながら、デフテロスは逆に悪いことをした気になったものだ。アスプロスの方はそしらぬ顔で椅子に座って出された茶を優雅に飲んでいる。そういう男である。
    「勘違いするな、一言言っておこうと思っただけで難癖をつけにきたのではない。俺をそんな器の小さな人間と見くびらないことだ」
    テンマは呆れたようにアスプロスを一瞥すると、今度はデフテロスに水を向ける。
    「そっちの用心棒はさっきからむっつり黙ってるけどどうなんだよ」
    「兄が納得しているなら俺が構う理由はない」
    どんな目で見られているのかと内心首をかしげながら返答する。人と話すのは得意ではないが、どうやら兄が迷惑をかけたようなので友好的に見えるようにふるまうべきだろう。
    「なんだよ無愛想なヤツだな…」
    心外な一言とともに少年はデフテロスとプランツを見比べた。彼のまわりに盛大に疑問符が飛び交うのが目に見えるようだ。
    「ところでこのプランツは弟そっくりなんだろ、そっちの弟は来てないのか?」
    シオンが慌てて小声で諫めるが、テンマは少年らしい好奇心で二人の大男の後ろに隠れているとでも思っているようにきょろきょろする。
    「どこに目をつけているのだ小僧。俺と同じ色の美しい髪と瞳、健康的な浅黒い肌、俺とよく似た彫刻のように整った顔立ち、どう見てもこの子はデフテロスそっくりだろうが」
    アスプロスがテンマにいっそ同情するとでもいうような口調でそう言ったのでデフテロスはひっそり頭をかかえた。
    そのデフテロスと額に手をあてるシオンの視線が一瞬かちあい、なにかが通じ合ったような気がする。
    確かにデフテロスは今では出会い頭に「いい体してるねえ、スポーツ何やってるの?」と言われるような小山のごとき大男だが、子供の頃はアスプロスと共にほっそりした少年だった。自由に外出できるアスプロスと比べると少し華奢なくらいだったのだ。
    進学のために故郷を離れ久々に帰ってきた兄の懐かしい声の第一声が「なんだそれは貴様、俺より背が高くなっていないだろうな!?」だったのはまだ覚えている。なお背丈は今でもデフテロスの方が少し高い。
    唯一のまともな話し相手だった兄がいなくなり、筋トレくらいしかすることがないと弟の体積というのは増えるものなのである。
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