「なあ、ウリエンジェ」
こちらの世界に渡ってからというもの、以前よりも感情を表に出さなくなった彼の一層冷えた平坦な声に咄嗟にこの後の予定を思い起こす。洗濯物はミンフィリアが寝る前に取り込んでくれていた筈だし、妖精達との約束事も急ぎの物はない。精々夕食に使った食器類を「後でやる」と言いながら未だに片付けていないが別に明日になってからでも良いだろう。そこまで結論をつけてから漸くサンクレッドを見る。
「切りの良き所まで読み終えてからでもかまいませんか」
「悪いな」
許可を得られてようやっとほっと息を吐くような、そんな苦い笑みを浮かべて先に部屋へと戻るサンクレッドの背中を見送り思わず零れるのはため息。そんな顔をさせたいわけでは無いとも思うし、すっかり父親の顔をしている彼が自分の前でだけ見せる弱みに優越感を擽られているのも否定は出来ない。彼の為を思うならば早急に正しい道へと導いてやれば良い物を、彼が頑ななのを良い事にずるずると此処まで来てしまっている。