最初の一回は、ただの事故。
お互い初めてという訳でも無し、今日の事は犬に噛まれたとでも思って忘れる事にしようという事で無かった事になった筈だった。
だが気付けば一週間後にはまたレオナの部屋に二人きり。声を掛けて来たのこそレオナの方からだが、前回の事故とは違い、ジャミルの意思で自ら誘いに乗って此処までやってきた。
忘れるつもりだった。無かった事にした筈だった。
けれど熱を帯びて美しい色に煌く事を知ってしまった弓形のエメラルドが冗談のような軽さで誘いをかけて来た時、ジャミルは何も考えないままに頷いてしまった。未だに何故拒絶出来なかったのかはわからないでいる。
「んなトコに突っ立ってないで、来いよ」
ジャミルの腕を引く力は強く、野蛮とすら感じるのにシーツに打ち付けられる前にそっと抱き留められて静かに組み敷かれるその手管はいっそ惚れ惚れする程だ。
「あの日のことは無かった事にしようという話になった筈ですが」
「此処まで来ておいて今更何言ってやがる」
「何故お声が掛かったのか気になったので」
「美味い事がわかってる獲物がのこのこ歩いてたらとりあえず食べるだろ」
「お気に召して頂けたのなら何よりですけど」
「テメェだって、良かったからノったんだろ?」
「まあ、否定はしません」
つんと顎を上げて満足気に笑う顔は悪くない。美に厳しい世界的なモデルすらも顔だけは褒めるという美しさ。誘われるようにその頬に触れれば懐くように擦りつき、手の甲が握られて掌に口付けが落とされた。そのまま唇は布越しにジャミルの腕を這いあがり首筋へと水音を残す。
「ん、……」
むず痒いような、照れ臭いような、何とも言えない心地で身を竦めながらもジャミルの首元に顔を埋めて丹念に唇を滑らせる頭をそっと抱きかかえる。事故の時はこんなまだるっこしい事をする余裕等無かった。