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    さくさく。

    一次創作BLとか。

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    さくさく。

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    2023年2月20日に書いたもの。

    午睡 分厚い鉄の門を潜った君は、とても小さくなって戻ってきた。
     ちょっと前まで君の腕を枕にしていたのに、今の君は僕の腕の中にすっぽりと収まっている。好奇心旺盛で落ち着きのなかった君とは思えないくらい、大人しくしていて、なんだか実感が湧かない。
     そんな君は、僕の家に帰ってくると、家の中でいちばん日当たりのいいところに落ち着いた。君はここで昼寝をするのが好きだものね。ここ数日は慌ただしかったけれど、これからはここでゆっくり寝るといいと思うよ。
     君の隣に座って、僕は淹れたてのコーヒーを飲む。コーヒーは豆から挽きたいと言ったのは君だった。道具をそろえたのも君だ。それなのに毎朝ごりごりとミルを挽き、ペーパーフィルターに入れて、上から熱湯を一すじ注いでコーヒーを淹れるのは、僕の役目だった。なぜだろう。君はダイニングの椅子に座って、年甲斐もなく足をぷらぷらと揺らして、僕がコーヒーを淹れるのを眺めているばかりだった。豆から挽きたいと言ったのは、君じゃなかったのか。
     君はいつもそんな調子だ。
     読みたいといって毎月購読していた雑誌を切り抜くのは僕の役目だったし、情けをかけた芽を出した人参に水をやったのは僕だ。いただきもののクッキー缶はすぐに開けてしまうし、開けると真中のリング状のクッキーを真っ先に食べる。
     僕は雑誌の切り抜きが貼られて分厚く膨れた大学ノートのページをめくりながら、コーヒーを啜る。クッキー缶の蓋に手を伸ばして、いつもは食べられないリング状のクッキーを摘まむ。その間も君は静かなままだ。だから何だかこちらも張り合いがない。
     いつも通りに淹れたはずのコーヒーは味が薄い気がするし、中々食べられないクッキーもぼそぼそするばかりで味気ない。
     つまらないなぁ。
     静かな君は君らしくない。
     しょうがないから君の分のコーヒーを淹れて、食器棚から小皿を一枚とり出しリング状のクッキーを載せて、君のそばに置いてあげた。君は寝ているのか、返事をしなかったけれど多分これでいい。
     僕は君の隣に座り直して、またマグカップに手をつける。何だかちょっと味がした。
     冬の日は短いというけれど、窓ガラス越しの日差しはぽかぽかして温かいね。何だか僕も眠りたい。
     そっと手を伸ばして、君に触れる。つるりとした感触に、ちょっとだけ寂しくなる。
     やがて君と僕は離れ離れになる。その前に君が行きたかった場所すべてに行きたい。海でも山でもいい。どこかの地方都市でもいい。君は旅行が好きだった。
    「ねぇ、どこに行きたい?」
     そうきいても返事は返ってこない。君は寝ているからね。小さな部屋に僕の声しかしなくて、滑稽な気分だ。
     そういえば疲れたな。ここ数日は僕も忙しかった。まだガラス越しの日差しはぽかぽかで、僕は重たくなってきた目蓋を擦る。マグカップを横に置く。
     僕も少し眠ろう。
     目が覚めたら、また君といっぱいお喋りがしたい。コーヒーを淹れろだとか、雑誌の新刊はどこだとか、クッキーが湿気るだとか、出かけようだとか、君は始終うるさかった。君の騒ぐ声に「うるさいなぁ」と言ったことは多々あるけれど、心の底から思ったことはなかった。
     僕は騒々しい君に元気をもらっていたんだ。だから君が静かだと、調子が狂ってしまうよ。
     そう、僕は君からエネルギーをもらっていた。その供給が断たれてしまっては、僕の先もそう長くはないだろう。
     だから最後に君の行きたいところに行こう。やりたいことをしよう。
     なんでも君の言う通りにするよ。
    「だから何か言ってよ」
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