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    かなた

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    かなた

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    奏音に惹かれるまでの話。

    天音の独白家に帰ると、ずっと独りだった。
    机の上には千円札が1枚と、『これで好きな物食べて』というメモ書きがひとつ。
    食べる気にもならなくて、いつも財布の中にしまってた。

    両親は共働きで、夫婦仲も良くなかった。
    だから深夜に帰ってきてはいつもいつも喧嘩ばかり。
    僕は、それが嫌で布団にくるまってた。
    イヤホンで音楽を聴いて、頭まで布団を被って。そうすれば、いつの間にか朝になっているから。

    高校入学と同時に、家を出た。
    両親は、引き止めもしなかった。
    ずっと貯めてたお小遣いとイヤホンを持って、僕は一人暮らしを始めた。
    幸い、僕は愛想が良かったし、大家さんにも事情を話せば家賃を安くして貰えた。

    高校でのテストは、ほぼ満点だった。
    けどやっぱり、僕は隠した。
    馬鹿な自分を演じていれば、期待されることもないしみんな話しやすいでしょ?

    ……なんて、僕が臆病なだけ。
    大した勉強もしてないのに100点とか、気持ち悪いでしょ?カンニングだ、とか言われても困っちゃうしね。みんなに嫌われないように、みんなが離れていかないように。僕はただ、ピエロを演じるだけ。

    高校ではたくさん友達が出来た。
    けど、家に帰るとやっぱり独りで。
    一人で食べるご飯は好きじゃないから、基本的にご飯は食べない。
    寂しくて、音楽を聴いて、歌を歌う。

    ある日、ちょっとした出来心で、所謂『歌ってみた』を投稿した。
    そしたら、好きって言ってくれる人がいて。
    それがなんとも嬉しくて。
    だから、『みや』としての活動を始めた。
    僕の歌が、皆の癒しになるのなら。ありがとうと言ってもらえるのなら。そんな気持ちで。

    そうして歌ってみた動画に人気が出始めた頃、憧れのsumikaさんとのコラボが決まった。
    僕は彼の落ち着いた曲調や優しい声が大好きで、よくカバーをしていた。そしたら、向こうも僕のことを見てくれていたみたいで。
    思わず、声をかけちゃったんだ。
    本当にコラボできるなんてね。

    でも実際にsumikaさんに会ったところ、彼の正体は同じクラスの雨宮奏音だった。
    ほんとに驚いたよ。
    でも確かに、優しい声や落ち着いた雰囲気は、彼そのものだと思った。

    それから、奏音によく絡むようになって。
    奏音も、段々それに応えてくれるようになって。
    それが嬉しくてたまらなくて。
    どんどん、惹かれていくのを感じた。

    でも、奏音には気になる人がいるみたい。
    奏音が幸せになれるなら、僕はその人と結ばれて欲しい。
    奏音の恋愛観については、sumikaの配信を見ていたから知ってるし、特に偏見も無かった。
    実際、僕も奏音のことが好きだしね。

    だから、「応援するね」って言ったんだ。
    でも奏音は、少し悲しそうな顔をしてた。
    どうしてだろう。なにかしちゃったかな。
    僕はただ、奏音に幸せになって欲しいだけなのになあ。

    ──好きな人に幸せになって欲しいって思うのは、傲慢かなあ。
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