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    羞恥心を知ったフミの付き合ってるカイフミ(未完成)

    #ジャックジャンヌ【腐】
    #カイフミ

    恥ずかしいの初心者幼い頃から舞台に立ってきて、無縁だったものがある。

    緊張やプレッシャー、それと羞恥心。

    本番で新しいことをやろうとしたときも、そして失敗したときも、楽しさや達成感はあれどそれらの感情はなかった。

    だから、この感情に名前をつけることができない。

    〈恥ずかしいの初心者〉

    ──やらかした。
    自室のソファに倒れ込むようにしてうつ伏せになったフミは、クッションに顔を沈めながら自責の念に駆られる。
    あんな失敗をするのは、今日日初めてだ。
    目を閉じて思い返されるのは、玉坂座での今日の稽古の様子。稽古は立ち稽古の段階に入り、フミともう一人、カイとのペアダンスの合わせがあった。

    ***

    左手を差し出され、自分の右手がそれに応える。腰に手を回され、曲が始まると同時に導かれるように引き寄せられた。軽いステップを繰り返し、最後に顔を上げ見つめ合う──。
    「ッ……」
    フミの瞳が金色のそれとかち合った瞬間、動きが突然止まった。息が詰まり、次のセリフが出てこない。
    「……フミ?」
    カイが不思議そうに顔を覗き込んできた。その瞬間、ストップ、と大きく稽古場に声が響き渡る。
    その声を契機に肩に入っていた力が一気に抜け、倒れそうになったところをカイに支えて貰った。
    「大丈夫か」
    「あ……悪い」
    そのやり取りは何に対してのものだったのか、考えるより先に周りにいた同期や先輩がワラワラと駆け寄ってくる。フミくんがセリフを飛ばすなんて珍しいね、口々にそんなことを言いながら。
    「すみません、流れ止めて」
    フミがそう言うと、周りは気にしないでと言ってくれる。玉坂座は決して稽古に甘くはない。けれどこうして気遣ってくれる先輩と同期の優しさに感謝しながら、フミの内心ではやってしまったという言葉が色濃く残った。

    ***

    今日の出来事を一通り思い出し終わったフミは、もう一度深いため息をクッションの中に吐き出した。
    今までもセリフを忘れたことがない訳ではない。が、今回の稽古は既に何度もやったことがあるシーンだった。得意とするダンス中の演技でもあったし、何より相手が誰より信頼しているカイであったから。
    そう、カイだったのだ。
    ユニヴェールにいた頃からの相方で、玉坂座に来た今でも根地と並んで張り合える同期だ。
    そして今は、唯一無二の恋人でもある。
    (……ああ)
    こいびと。この関係に名前を付ける度に、むずがゆい感覚がある。胸のあたりがこそばゆくて、鼻の辺りがツンとして、口から情けない声が出そうになる。
    こんな感覚は初めてで、それを隠すのに必死だ。
    「……何やってんだろうな、俺」
    誰に言う訳でもないその言葉を溢した矢先、控えめに自室の扉がノックされた。
    フミが返事をして入ってきたのは、今まさに思い描いていた、そのひと。
    「カイ」
    「フミ、遅い時間にすまない」
    いーよ、と言いながらフミはソファから起き上がり、隣を軽く叩いた。座れ、と言っているのだろう。
    カイは律儀に手を洗い荷物を端にまとめてから、遠慮がちにフミの隣に腰掛ける。
    「今日、何かあったのか」
    そして口を開いて出たのは、そんな言葉だった。
    「何かって?」
    「いや……今日の稽古で」
    言葉を濁そうとはしているが、カイの言いたいことはわかる。フミ自身、先ほどまで想起していたことだろう。
    「フミが、"ああ"なることは珍しいと」
    稽古場で先輩や同期に言われた言葉と、まるきり同じことを尋ねてくる。自分でもそう思っているのだから、そうなんだろう。
    「……別に、セリフ飛ばすなんて珍しいことじゃない」
    しかし、フミ自身何故台詞が飛んだのか、理由が分かっていなかった。稽古が終わり自室に戻りカイが来るまで、ずっと考えては見たものの、理由は分からずじまいだ。
    だから、今回たまたま起きた事だったのかもしれないと、フミは理由付けた。
    「俺も普通の人間なんだしサ」
    次は飛ばさないようにするわ、とフミが言うと、カイもそれ以上は追求してこなくなった。
    カイが手をフミの方に伸ばすと、ソファに座る二人の間隔が少しだけ縮まる。カイの大きく骨張った手は、そのままフミの柔らかなブロンドを撫でた。
    フミがその手に擦り寄ると、手はそのまま髪から形のいい耳へと滑っていく。
    「くすぐったい」
    耳の縁をなぞられ、こそばゆさにフミが視線を上げると、こちらをじっと見つめるカイの瞳があった。
    「その割には、嬉しそうじゃないか?」
    カイが意地悪そうに口角を上げる。さっきまでとは違う、優しく甘やかな空気が流れていた。
    自室に二人でいる時だけ、恋人が漂わせる空気が部屋を満たす。自室を出れば、手を繋ぐことも、抱きしめることも、甘い声で名前を呼ぶこともない。その分、今だけはこうしてお互いの気持ちを確かめるように、戯れのように指を絡ませるのだ。
    『身体、大丈夫か』
    『ん、へーき』
    つい先日、初めて身体を重ねた時でさえも、次の日には普段通り稽古に臨んでいた。まるで、その夜のことが嘘であったかのように。
    「比女彦通りの和菓子屋、新しい季節モノ出したって」
    「そうなのか」
    「次の休み、いこーぜ」
    「ああ。……教会に、顔を出してもいいか」
    「ん」
    約束な、と言って繋ぎ合わせた小指は、どちらの熱ともつかない熱さを含んでいた。

    ***

    次の日の稽古は、前日の続きからスタートした。カイとフミがペアダンスをするシーンだ。
    昨日の流れと同じように、手を合わせステップを踏み顔を見合わせ、セリフ。
    「   」
    今度は、スルリとセリフが口をついて出た。昨日は言えなかった部分だ。
    稽古はそのまま次のシーンへと流れていく。会話を繰り返して、のち退場、暗転。
    シーンが切り替わるところで、カットがかかった。特に修正もなく、場面が切り替わる。その日の練習は、滞りなく終わった。

    「フミ」
    稽古終わり、ダンスルームに残り自主練に勤しんでいたフミへ、声がかけられる。カイだ。
    「ん、おー、オツカレ。お前も自主練?」
    「いや、今日は帰ろうかと」
    そ、とフミは部屋の鏡に目を向けたまま軽い返事を返す。しかし、カイは部屋の入り口から動こうとはしなかった。
    「どした?」
    「いや、その……」
    不審に思ってフミは声をかけるが、カイは煮え切らないような返事だけを返してきた。結局、何でもないと言って、言葉を切り上げる。
    「また明日」
    そう告げた後、カイはダンスルームを去っていった。しばらくした後、部屋にはまた静かな空気とフミの気配だけが残る。
    一人になったフミは、深呼吸をして、また音楽を流し始めた。

    ***

    ダンスを踊っていると、取り留めのない思考がまとまっていくような感覚があった。それはきっと幼い頃からダンスによって育ってきたフミ特有のもので、それが彼のルーティンになっている。
    クリアになっていく思考で考えるのは、今日の稽古でのことだ。
    昨日言えなかったセリフを言えたのは、理由がある。
    顔を見上げ見つめ合い、セリフを言うまでの僅かな間、視線をカイから外したせいだ。
    意図的にやった訳ではない。2度も同じ間違いをしまいと意識した結果、無意識に視線が外れたのだ。
    そして恐らく、カイはそれに気づいていた。
    先ほど訪ねて来たのもそれについて聞こうとしていたのだろうに、聞かないでいてくれるのは彼らしい優しさだ。
    けれど、きっともう誤魔化せない。自分でも、何とかしなくてはならないとは思っているのだ。
    明日、稽古で何とかしなくては。

    ***

    「フミ、ペアダンスのシーンで相談がある」
    そして迎えた次の日の稽古。つつがなく終わった筈だったその稽古後、カイに呼び止められた。理由は言わずともわかっていた。
    「……最近、視線が合わないように感じる」
    フミの自室で台本を片手に、カイからそう切り出された。すぐに返事ができなかったのは、事実その通りだったからだ。
    「フミがそうしなければと思っているならそうする。だが……俺にはどうも、不自然に思えて」
    こう言う時ですら、カイは謙虚な男である。決して自身の考えを押し付けず、フミの意見を尊重しようとしてくれる。それが今は、とても辛かった。
    「それと、これは関係ないかもしれないのだが」
    ──俺を避けていないか?
    そう告げられた言葉は、フミにとっても予想外だった。稽古場でも当然のように顔を突き合わせて、稽古後も自室に来たり、そうではなかったりする彼に、今更避けるなど、と。
    そこまで考えて、フミは思考が止まった。思い当たる節が、ない訳でもない。だが、それを言うことはできなかった。
    「何で、そう思った?」
    「確証がある訳ではないんだが」
    何となく、と曖昧にカイは言う。すまない、とも言われた。勝手に避けているのはこっちなのに。
    「何かあれば、言ってくれ」
    カイはそれだけ言って、帰って行った。避けているらしいフミの気持ちを考えてのことだっただろう。
    一人残された部屋で、フミはまた思考の沼に入り込む。

    ──本当は、理由は分かっているのだ。
    フミが思い返すのは、数日前のこと。2人でいる時に"そういう"雰囲気になって、初めて身体を重ねた、あのよる。
    『フミ』
    自分の名前を呼ぶカイの声が、脳に酷く反響する。普段よりもずっと優しくて、ずっと甘くて、そしてずっと男らしいあの声が。
    それを思い出すたびに、顔の中心から火がついたように熱くなる。熱くて、胸の内から燃え上がりそうなほどに。
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