マルガレテの面影③第三章
Ⅰ
男の差し出すカップを受け取り、礼を述べてから口を付ける。
爽やかな風に似た緑の香りが清々しい茶は、娘がカムラからの手土産に持ち帰ったものであると云うことだった。
「娘さんは――」
「ひとまずあちらに帰した。何かあれば、知らせるとは伝えてある」
何かあれば、と、口にしたその言葉が酷く苦いものであるかのように、男は一瞬強く眉根を寄せた。
「……あれの、様子は」
問われたことに答えるまでには、短からぬ逡巡があった。悪化してゆくばかりの状況をただ知らせるだけの自分があまりにも不甲斐なく、だからと云って、言えることは他にはない。
「この数日、ほとんどお食事をされていません。無理に食べさせようとすれば、吐いてしまうので――蜂蜜を入れた茶だけは、何とか飲んでいただいています」
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