白地図/初恋 「ナタの――ことなのですけど」
やわらかで優しげな口調は常と変わらぬまま、きっぱりと女は切り出した。咄嗟に受け流したり躱したりすることすら思いもよらぬ程、それは真っ向から容赦なく、真っ直ぐに突きつけられたのだった。
「どうされるつもりなのかを、聞いておきたくて」
砂塵を含んだ風が叩きつける天幕の中、オイルランプの灯が作る濃い陰影が、ゆらゆらと揺れていた。
「一時の……思春期の子供が経験する、よくある病のようなものだと思っていました。いつか振り返って、ああ、あんな頃もあったなって、照れ笑いをするようなものだと。でも、」
そうじゃなかったんです、とアルマは言った。
微かなため息。
灯芯の燃える音。
轟々と唸る風の声。
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