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    しゃろ

    @syaro_ENTK

    BL二次創作小説だけ。今は宿虎メイン。

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    しゃろ

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    ◼受肉宿儺×虎杖
    空になった胎を擦る虎杖の耳に、離れたはずの宿儺の声が聞こえた

    水底から呼ぶ声 #宿虎怪奇譚 
    「なんで」
     
     虎杖は自分の目の下を触った。受肉してから、宿儺の器となってからずっとそこに在ったはずの傷跡は、宿儺の器の証のようだった複眼痕は綺麗さっぱり無くなっている。
     
    「なんで」
     
     空になった胎を両手で抱き締めるように擦る。そこにはもう、あの呪いの王は宿っていない。
     
     呪いの王・両面宿儺は虎杖の中から出て行った。死滅回游の最中、宿儺は虎杖に身体を一時的に明け渡させると指を呪物化させてあろう事か新たな器として以前から目を付けていたらしい伏黒に飲み込ませて、その身体に受肉するという荒業をやってのけてのだった。
     去り際に、虎杖の身体にも心にも傷跡を付けて。
     
    「……宿儺」
     
     脚を抱え込みギュ、と力を入れて膝に額を付ける。
     
    忘れるように縛りを設けさせられていたのだろう、とは言われたが。それでも自分が覚えていたのなら。もしくは思い出す事が出来ていたのなら。あるいは、もしかしたら伏黒に宿儺が受肉するなんて事態にはならなかったのではないか。
     
     グルグル、ぐるぐると。虎杖の中にもしもの考えが浮かんでは消え。消えては浮かぶ。

     呪いと親しくなれると思った訳ではない。心を許した訳でもない。宿儺はどうあっても呪いで、邪悪なんだと。虎杖は何度も身をもって知らしめられた。
     
     ――けれど、それでも。
     
     時折、本当に稀にだが。生得領域にいる時の宿儺は虎杖に優しく触れることがあった。煽るでも蔑むでもない、温かな眼差しを向けられたことがあるのだ。
     
     虎杖は、その事を誰にも話せずにいた。話せる訳がなかった。高専の誰かに話せば「それは懐柔するためのものだ」と一蹴されてしまうのだろうと分かっていたから。
    その意見を否定できない虎杖は、どうしても〝優しい宿儺〟を手放せなくて、誰にも言わないことで自分の中にその記憶を留めていた。
     
    「……宿儺」
     
     今も、まだ。伏黒に受肉され、切り刻まれて尚。その〝優しい宿儺〟の記憶に心のどこかで縋っていた。
     
     ――だから、だろうか。
     
    『小僧』
    「宿儺……?」
     
     ピチャン、という水音と共に。そんな声が聞こえた気がした。
     
    「――…まさかな」
     
     声が聞こえるはずがない。宿儺は鵺に乗ってどこかへ飛び去ってしまったのだから。声が聞こえる程の距離に戻るはずがない。そんな機会があれば、それはきっと虎杖と殺し合う時なのだから。
     
    『小僧』
    「……っ、」
     
     そう思っていても、再び聞こえた声に。遂に我慢が出来なくなった虎杖は弾かれるように立ち上がると仲間に悟られないように注意しながらその場を後にした。
     一目散に向かうのは、声がした方。
     
    「宿儺……っ」
     
     ただ、自分だけが知っている〝優しい宿儺〟がそこに居るのではないないか。そんな期待を胸に。
     
     
        ◇
     
     
    「こっちだと思ったんだけどなー」
     
     声がした方へ。闇雲に駆けて行った虎杖の目の前に現れたのは宿儺ではなく、湖と呼ぶには小さな池だった。夜のせいだろうか、黒く澱んで見えるその様は池というより沼のようだった。
     
    「ハァ、やっぱり気のせいだ――…」
    『小僧』
     
     勘違いか、将又空耳かと池に背を向けて戻ろうとした、瞬間。再びピチャン、という水音と共に聞こえた。聞きたかった声。
     
    「宿儺っ!」
     
     振り返ったが、そこには誰もいない。それでも虎杖は声が聞こえた池へと駆け出した。
     
     池の淵ギリギリに立ったが、やはり誰もいない。見えない。ではどこに?
     
    『小僧、此方だ』
    「え、」
     
     再びピチャン、という水音と共に聞こえた声は虎杖の足元から。池の中から聞こえて来た。
     
     恐る恐る下を見ると、黒く澱んだ水面に映る自分の姿が。自分だと思っていた姿が生得領域で何度も見た虎杖の姿を模した着物姿の宿儺が、そこに居た。
     
    「……宿儺?」
     
     呼び掛けると、水面に映った宿儺が笑った。最後に見たような嘲笑ではない、虎杖だけが知る〝優しい宿儺〟の顔をしていた。
     
    「宿儺、宿儺! なん、なんでそんなとこにいんだよっ!」
     
     池に沈んだのか? あの宿儺が?
     
     訳も分からないまま。それでも虎杖は咄嗟に宿儺を引っ張り上げようと池の淵に膝を付き、水面に映る宿儺に手を伸ばした。
     
     ――すると。
     
    『小僧』
     
     水の中から伸びて来た、爪が黒く手首の少し上にまるで入れ墨のような黒い線が二本ある腕が虎杖の両頬を包む。
     
    『来い。小僧』
    「なん――…ッ⁉」
     
     バシャン、と音を立てて虎杖は水の中に引きずり込まれた。抵抗しようにも水の中にいた宿儺に抱き締められて身動きが取れず、ようやく罠だったかと焦り出した虎杖に宿儺の顔が近付いて。
     
    「――むぐっ⁉」
     
     唇を食べるような口付けをされた。

     水の中ということもあり、慌てて空気を吸おうと開いた虎杖の口内にドロドロとした舌が入り込み、それが虎杖の舌と絡み合ってぐちゃぐちゃにされていく。
     
    「ん、んぅぅ……」
     
     口の中も、思考も、意識も。全てがぐちゃぐちゃに、ドロドロに、溶かされて。虎杖は深い深いところへと堕ちていった。


        ◇


    「……チッ、忌ま忌ましい」
     
     新たな拠点にいた宿儺は閉じていた瞼を持ち上げると、早々に毒吐いた。
     
    「暫し外す。留守は任せるぞ」
     
     それだけを告げると宿儺は気配を探るように視線を少し彷徨わせる。やがて目当てのものを見付けたのか、ある方角へ狙いを定めると。
     
    「『鵺』」
     
     呼び出した鵺の背に乗り、どこかへと飛び立って行った。
     
     
        ◇
     
     
    「ここか」
     
     宿儺が降り立ったのはどこかの池だった。周囲には背の高い草が、まるで池そのものを覆い隠すように生えている。黒く澱んで見える沼のような、池だった。
     
    「……呼ばれたか。全くオマエは本に、つまらんな」
     
     悪態を吐いた宿儺は何を思ったのか、真新しい着物姿のまま池に飛び込んだ。
     
     池の中は見た目よりも深く、また澱んでいるため見通しも悪い。それでもどこに目的のものがあるのか、まるで分り切っているかのように宿儺は水を掻いてぐんぐん底へと向かっていった。
     
     やがて見えた池の底に、二つの影が見えた。一つはここ数か月ですっかり見慣れてしまった、忌ま忌ましい嘗ての己が器の姿。もう一つは……何とも形容しがたいものだった。
     一言で言うなら泥の塊だろうか。無理矢理人形に形を整え、襤褸としか言いようのない変色した着物とこれまた襤褸布を首に巻いた、泥の塊。そんなものが虎杖を押さえつけるように、その身体の上に伸し掛かるような状態でそこにいた。
     
     まるで、男女の目合いのような体勢で。
     
     ――…知れ者が。
     
     キンッ、と金属音が水の中に響いた。
     
     苛立ちのままに宿儺が放った解によって泥の塊を細切れになった。だが重石のようだった泥から解放されたはずの虎杖はそれでも尚、水底に横たわったまま動かない。
     不審に思った宿儺が近寄って抱き起こすが、虎杖は目を開けたまま焦点が定まっていなかった。
     
     ――…精神を喰われたか。この間抜けが。
     
      仕方なく片腕で虎杖の胴に手を回して脇に抱えると、片腕と脚だけでいくらか澱みがマシになった水を掻き分けて水面に浮上して行った。

     ザバッ、と音を立てて息も乱さず水面から陸に上がった宿儺は意識の無い虎杖から手を離してその場に転がす。

    水を吸った服がベシャりと音を立てて、その場に黒い水溜まりを作り出した。それでも虎杖は目を開いたまま、焦点は定まらない。

    「全く、手の掛かる……」

     宿儺は地面に転がした虎杖の脇で膝を折ると胸倉を掴んで無理矢理上体を起こさせ。

    「――…ん、」

     ――その唇に吸い付いた。

     ずっ、ぢゅる、と音を立てて虎杖の口内に溜まっている泥を吸い出して地面に吐き捨てた。
     吐き捨てられた泥は澱んだ水溜まりを作りながらじわじわと地面に広がり、やがてジュゥジュゥという何かが溶けるような、焼けるような音と怪しげな煙を立てて消えていった。

    「……ハ、おい小僧。聞こえているな」

     泥が消えたことを横目で確認した宿儺が胸倉から手を話すと、虎杖の上体は仰向けのまま地面に落ちた。
     そんな。まだ焦点が合わない虎杖を見下ろして、言う。

    「目障りだ。いい加減に自分で決めんか」

     虎杖の焦点の合わない琥珀玉に、前髪を上げ宿儺の呪印が浮かび四つ目になった、伏黒恵の顔が映った。

    「其方側を選ぶのであれば殺してやろう。オマエが死ぬまで何度でもなァ。だがもし、仮に俺を選ぶのならば――…」

     そこで一度言葉を区切った宿儺は自分の掌で虎杖の頬を包むように触れた。優しく、まるで慈しむように。愛おしいとでも伝えるかのように。

    「一等優しい呪いで、オマエを愛でてやろう」

     目を細めて笑ったその顔は、伏黒の顔ではあったが。その表情は間違いなく虎杖だけが知る〝優しい宿儺〟の顔をしていた。
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