Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    雨月 悠一郎

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 7

    雨月 悠一郎

    ☆quiet follow

    【ドレグル】社交ダンスに詳しい王子と色恋沙汰に鈍いドレーク隊長の話。

    #ドレグル

    不良海兵はダンスの手を取るか? 優雅な音楽に合わせてタキシードに身を包んだ1人の若い男が1人の若い女の前に恭しく頭を下げて手を差し出す。ダンスのお誘いである。
     だが、ラベンダー色のドレスを纏った女は頭を下げた男の手を取ることなくそっぽを向いて自分が今歩いて来た道を戻りだした。男は顔にショックの色を浮かべながらも諦めることなく女性の腕を掴んで引き留め、再び女性の前に頭を下げて「どうか僕の手を取ってくださいよ」と無言で懇願する。
     女は男が自分を求めてくることに満足気な笑みを浮かべ、男の手に自分の手を乗せてダンスの誘いを受け入れた。2人の男女は手を組み、体をくっ付けて1つになり踊り始める。
     1つになった男女は流れる音楽に身を任せ床の上を滑るようにくるくると円を描くように華麗に舞う。三拍子の曲に合わせてユラユラと揺れるようなダンスはワルツだ。

     ここが海軍の道場の半分のスペースを使用しており、残りの半分のスペースではむさ苦しい男達が野太い声をあげながら絶賛訓練中という場所でなければ、さぞや美しく、見る者を楽しませたことだろう。
     ちなみに現在目の前でちょっとした小芝居の後優雅に社交ダンスを踊っている2人の男女(男の方はセレスタインという名前で、女の方はチェーンローズという名前だ。ちなみに2人共かなりの美形である)は海兵は海兵でも軍医という立場のヤツらである。今回特別に潜入捜査を買って出てくれた。元々2人は貴族出身なので立ち振舞いも問題無いだろう。
     そんなことを考えながら軍医達によるワルツを眺めていると任務の報告のために基地に立ち寄ったのであろうドレークが道場に顔を出した。
    「トレーニングに来たんだが、どういう状況だ?」
    「潜入捜査のために選ばれたペアが社交ダンスの練習をしてる」
     前述した通り、海軍の道場で社交ダンスを踊っているのは異様な光景だろう。ワルツを眺めていたドレークが口を開く。
    「お前は踊らないのか?王子様」
     今はもうほとんどされることが無くなった王子扱いに一瞬心臓が跳ねた。
    「お前は知らないだろうが、王族や貴族にとって社交ダンスっていうのは基本的に女がする習い事なんだよ!男はダンスなんてほとんど踊れない。男で完璧に踊れるのは女の兄弟が多いか、かなりの女好きかのどちらかだ!」
     おれが捲し立てるように言ったことは事実だ。実際おれも社交ダンスは女の習い事というイメージがあって習わなかったためほとんど踊ることが出来ない。
    「王子なのにダンスも踊れなくてがっかりしたか?」
    「いや、王族や貴族の事情を知らなかった自分が悪い」

    「でも、知識として少し知ってることはあるぜ。例えば今2人が踊ってるワルツは求愛のダンスなんだ」
     曲が終わり、また小芝居からダンスを始めようとする2人を「ほら」と言って指す。
    「セレスタインが今やってるみたいに女性の前に遜って懇願して、懇願して、女性を良い気分にさせて、ようやく受け入れてもらって、1つになって踊りだす」
    「男も女も顔を背けっぱなしなのは何故だ?」
    「あ──···、顔が見えない方がいい時、ってのがあるんだよ」
    「例えば?」
    「例えばって、少しは考えろよ!好きな相手が自分の誘いを受け入れてくれたら嬉しくってたまらないだろ?その状態の自分の締まりの無い顔を想像してみろ」
    「なるほど、そういうことか」
     ドレークは仕事は出来るクセに色事については途端にダメになる。だがコイツの知らないことを教えてやれるのは悪くはない。
     ドレークと共にしばらく軍医達のワルツを眺めているとTDから流れる曲が変わった。それと同時に軍医達2人の振り付けも変わる。1つになって踊っていたのにするりと体を離し、しっとりとした曲に合わせてお互いに見つめ合ったり、誘うようなポーズを取ったり、手を取り合う振り付けはルンバ。だがこのダンスはドレークがマズい。ルンバも愛を表現するダンスだが、これはセックスしてるように見えるポーズも平気で取るのだ。
    「うん?何か毛色が変わったな」
    「あぁ、だがお前はもう見ない方がいいぞ」
    「は?」
     道場の半分のスペースで実践的訓練をしていた兵士達も徐々に手を止め、セレスタインとチェーンローズのダンスに見入り始めている。軍医2人も段々と気分が乗ってきたらしい。
     セレスタインとチェーンローズはキス出来るほど体と顔を密着させて見つめ合い、チェーンローズがセレスタインの胴体に長い脚を片方絡ませてセックスをしているようなポーズを取った。
     それを見ていた兵士達はフゥー!と歓声を上げ口笛と拍手までしていたが、同じく見ていたドレークは違う。みるみる顔を赤らめ目を白黒させている。
    「なっ···!」
    「だから言ったのに···」
    「これはどういうダンスなんだ?ま···まぐわってるように見えるぞ?!」
    「ルンバだな。これも愛のダンスではあるが、ワルツの求愛と違って表現するのは大人の愛だ。エレガントながらエロい振り付けもする。まぁ、あのまぐわっているようなポーズはセレスタインとローズが場を盛り上げるためにやってるだけで本物の舞踏会やパーティーではやるようなことはないから安心しろ」
    「そういう問題じゃない!!恥じらいというものは無いのか?アイツらは?!!」
    「ただの場を盛り上げるための演出だろう。相変わらず初心なヤツだな」
     ドレークは片手で顔を覆い、大きくため息をつきながらしゃがみこむ。
    「お前は、嫌じゃないのか?」
    「は?何が?」
    「その···、おれが、······恋愛や性的なことに免疫が無いことに対して」
    「別に、お前のそんなところが嫌なんて思ったことないぞ?」
     事実だ。ドレークが性的なことに耐性が無いのを知った時、多少は驚いたが嫌だとか変だとか思ったことはない。そんなことを何故今聞いてくるのかわからなかった。
    「そうか、ならいい」
     しゃがみこんだドレークの見上げてくる視線と自分の視線がかち合ってドキリとする。たまに良い男なのに本当に勿体無いヤツだ、と思いながら視線を軍医達に戻す。セレスタインとチェーンローズは曲を止め歓声と拍手をくれた海兵達に丁寧に頭を下げている。
    「俺も習っとけば良かったかな···。ダンス」
    「お前は愛とやらの表現が上手そうだ」
    「それはどうだろうな?でもダンスが出来る男ってのは珍しいから、舞踏会では引っ張りだこだぜ」
    「······その情報は要らない」
    「あぁ、そうかよ」
     まったく、赤くなったり、落ち込んだり、不機嫌になったり忙しいヤツだ。


     そうこうしている間に時間は過ぎて、ドレークが基地を去る時間がやって来た。滞在時間はいつもより少し長いくらいか。
    「じゃあな、不良海兵。変な死に方すんなよ」
    「その呼び方はヤメろ!」
     ドレークはまったく、と言いながら艦のタラップを登っていく。
    「いつか一緒にやろうぜ、社交ダンス」
    「······考慮しておくが、手加減はしてくれ」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works