「 」の手記「ねぇ!どこ行くの⁉待って、清光!」
日が傾いてきた黄昏時。いつもは聞こえるみんなの声も、今日は遠征で人が少ない事もあり、しんとしている。私はというと、清光に手を引かれている。清光は歩くのが早く、私は付いていくことで精一杯。
「待たない。早くしないと…。それに…待ったら主は逃げちゃうでしょ?」
こちらを見ずに、そう告げた清光。何を急いでいるのだろうか。私がいた納屋から、畑、庭から裏口を通って廊下へ。そのまま居間と厨の前を通る。おかしい、どうして誰とも会わないのだろうか。疑問に思いつつ、階段を上って奥の奥まで行けば…。
「…私の部屋?」
問いかけに答えるでもなく、清光はそのまま進んでいく。私から見えるのは、彼の背中のみ。清光がどのような表情をしているのかなんて、こちらからは知る由もない。ここで何をするのか、など皆目検討もつかない。
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