Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    ひよこ@よく焼けている

    @piyopiyo1ji

    字を書く脆弱な鳥。
    ピクファンやうちよそ、よそよそがあるよ!

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 71

    またもや一発書きなんだ。
    リシェロ視点の、七夕のお話。

    遠くの星より、隣の私に。短冊に書いた願いごとは、私には届きません。
    物事には役割があり、短冊に書かれた願いは「星に願ったもの」であり、『私』に向けて訴えられたものではありません。
    人の願いを叶える力がある私でさえ、この『領域』を侵してはならず、どんなに些細なお願いであっても、決して聞き入れてはいけないのです。

    「ねえ、リシェロ。知っているかもしれないけど、七夕にはね、短冊に願い事を書いて笹に飾る習わしがあるのよ。面白いでしょう?」

    街の広場に飾られた笹のそばに、小さな簡易の机が一棹。そこには色とりどりの無地の短冊と鉛筆が置いてあって、ライヘンさんはそこから1枚、金色の短冊を選んで椅子に座りました。

    「この色だったら、どんなに遠くの空からだって、すぐ見つけられるでしょう?せっかく書くお願いですもの、ちゃんと叶えてもらわないとね」

    ライヘンさんはいたずらっぽく笑うと、長い髪を耳にかけながら、裏返した短冊に迷いなく願い事を書いていきます。
    鉛筆を握る華奢な手。
    淡い紫に染まった指先に、金色の粒がいくつか散りばめられたライヘンさんの指は、星座が浮かんだ夜のようです。

    「出来た」

    満足そうに微笑んで、こちらに手渡し見せてくださった短冊のお願い事。
    七夕の夜、空にいる小さな星たちのどれか一つでも、この短冊を見つけることは出来るのでしょうか。

    「これをね、笹に飾るのよ。てっぺんに近いほど願い事が叶うって言われてるの」
    「……なるほど、そうですか」

    私は、ライヘンさんの文字の一つ一つを指でなぞります。
    近くだからこそ読み取れますが、すぐそばにあるベンチに座ったらどうでしょうか。
    きっともう、読み取れません。
    笹にはすでにたくさんの短冊が飾られていました。
    他の短冊に重なっていたり、笹の葉に阻まれたりで、近くにいてすらもう読み取れない願い事があるというのに。
    この地上にいる幾万の人々の数多の願い事を、星たちがすべて聞き入れ、読み取り、叶えることなど到底出来ないでしょう。私はそれを知っています。

    「貴方のほうが背が高いから、お願いしていい?なるべく上に飾って……ええ、その辺りでいいわ」

    括りつけた短冊の、紐の重みで笹が項垂れました。
    風にそよぐ金色の短冊は、くるくると回ったりひっくり返ったりして、遠い空からではライヘンさんの書いた文字は読めないでしょう。
    ライヘンさんもわかっているはずです。

    「ねえ、叶うと思う?」

    短冊を見つめて問いかけてくるライヘンさんの手に、私は私の手を重ねました。

    「ライヘンさんノお願い事は、必ず叶いますよ」

    『リシェロとずっと一緒に』

    たとえそれが、習わしだからと呟いた些細な夢であっても。
    戯れだと星に願ったものでも。
    そのお願いは、私が――
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭😭😭🙏🙏😭💫💫👏👏💕👏🎋🎋🎋🎋🎋🎋🎋🎋🎋🎋
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works